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熟達者AI・生成AIの活用法②:小論文対策


堀井秀之
i.school エグゼクティブ・ディレクター
日本社会イノベーションセンター(JSIC)代表理事
東京大学名誉教授

熟達者AIの活用法をいろいろ探っています。前note記事では問いの立て方リサーチクエスチョンの設定に使えることを示しました。本noteでは、小論文を上手く書けるようになるために使えることを示します。

小論文対策の意義

小論文対策と言うと直ぐに受験対策となってしまいますが、小論文とは「自分の意見を提示し、相手を納得させる文章」であり、小論文を上手く書けるようになることは、思考ツールを身につけることである。大学での論文執筆や、社会人として活躍するためにも基本的なスキルであると思います。

自分の意見を提示し、相手を納得させるためには、論理的に書くことができるだけでなく、自分の意見を持つこと、その意見の根拠となる事実、知識、考えや体験を持つことが必要です。自分の意見とその根拠を持つためには、本を沢山読むことが一番ですが、それは結構大変です。読書好きならいいのですが、そうでなければ、如何に効率的に自分の意見とその根拠を身につけるかが課題となるでしょう。そのために熟達者AIを活用するのが良いと思います。

テーマに関して熟達者AIと対話する:活用法1

小論文入試によくでるテーマ、その傾向があるようです。社会にとって重要なテーマということでしょう。今なら人工知能関連のテーマは外せないと思います。

そのテーマに関する本などを読み込む代わりに、熟達者AIと対話することで自分の意見とその根拠を身につけることができるか試してみました。格差問題について吉見AIと対話してみました。


【質問】格差社会について教えて下さい。
【吉見AI】格差社会についてお話しします。現代日本は、ますます金持ちになる少数者と、生活が不安定化し、貧困化を強いられる多くの人々から成る格差社会となっています。この状況は、かつて日本全体を覆っていた消費社会の限界を露呈させています。 1980年代は、格差が最も見えにくかった時代で、多くの人が自分を中間層と考えていました。しかし、バブル経済の崩壊以降、資産を持つ者と持たない者の格差が拡大し、未来への希望が打ち砕かれました。特に若年層は、就職の困難さや安定した収入を得られない状況に直面し、経済的基盤が掘り崩されました。 さらに、グローバル化の進展により、国の力が衰え、福祉が削られ、国民の負担が増しています。こうした中で、格差や差別、不平等の問題はますます深刻化しています。日本社会は、持続可能性を確保するために、社会構造を質的に変容させる必要があります。移民拡大や多民族化が進む中で、日本はその社会のあり方を根底から変えていく時代に突入しています。
【質問】格差社会の深刻化にともなって日本は社会構造をとのように変容するべきですか
【吉見AI】格差社会の深刻化に対応するために、日本は社会構造を質的に変容させる必要があります。具体的には、以下のような変化が求められます。 まず、移民政策の拡大が重要です。日本は人口減少が進んでおり、少なくとも21世紀半ばまではこの傾向を止めることができません。そのため、労働力を確保するために移民を受け入れる政策を展開することが避けられません。これにより、社会の多様性が増し、異種混淆化が進むことで、多民族化が進展します。 次に、経済政策の見直しが必要です。新自由主義的な政策が格差を拡大させてきたため、公共領域の縮減を見直し、福祉の充実を図ることが求められます。これにより、社会全体の安定化を図り、格差の是正を目指すことが重要です。 さらに、教育や雇用の機会均等を推進することも大切です。若年層が安定した職を得られるようにし、スキルアップの機会を提供することで、経済的な基盤を強化することが求められます。 これらの変化を通じて、日本社会は持続可能性を確保し、格差社会の問題に対処していくことができるでしょう。
【質問】福祉の充実を図ると、格差の拡大は抑えられるかもしれませんが、経済成長も抑制され、結局雇用や収入が減ってしまうのではないでしょうか
【吉見AI】福祉の充実が経済成長を抑制し、雇用や収入に悪影響を及ぼすのではないかという懸念は理解できます。しかし、福祉の充実と経済成長は必ずしも相反するものではありません。むしろ、適切な福祉政策は長期的に見て経済の安定と成長を支える要素となり得ます。 まず、福祉の充実は社会の安定をもたらします。社会保障がしっかりしていると、人々は将来に対する不安が軽減され、消費意欲が高まります。これにより、内需が拡大し、経済成長を促進する可能性があります。 また、福祉政策は人材の育成にも寄与します。教育や職業訓練への投資を通じて、労働者のスキルを向上させることができれば、生産性の向上につながります。これにより、企業の競争力が高まり、経済全体の成長を支えることができます。 さらに、福祉の充実は格差の是正に寄与し、社会の分断を防ぐ役割を果たします。格差が縮小されることで、社会全体の一体感が高まり、協力的な経済活動が促進されるでしょう。 したがって、福祉の充実は短期的な経済成長を抑制する可能性がある一方で、長期的には安定した成長基盤を築くための重要な要素となります。政策のバランスを取りながら、持続可能な経済成長を目指すことが重要です。


いかがでしょうか。対話を楽しむことができました。大きな漠然とした質問に対する回答を読むと、自然と疑問が湧いてきて、次の質問をしてみたくなりました。質問を繰り返すことにより、問題の深堀りができた感覚です。本を読むのとは違った対話の楽しみがあるように思います。

本を読むことは読者が著者と対話することです。その場合、湧いてくるであろう質問に対する回答を先回りして著者が準備してあります。それに対して熟達者AIを使う場合には、質問をユーザーが自ら行い、それに対して熟達者AIが回答してくれるという体験が、質問したいという気持ちを引き出してくれるような気がします。

同じことを ChatGPT でやろうとしたのですが、ChatGPTの回答が一般的、網羅的な良くできた回答なので、次の質問が湧いてきませんでした。この違いが何に依るのか、もう少し調べてみたいと思います。

熟達者AIで面白いテーマを見つける:活用法2

やはり、質問したくなるというのがポイントです。何をどう教えるか、ということばかりを考えてしまいがちですが、どうしたら学びたくなるか、ということを第一に考えるべきでしょう。

前の活用法1では、テーマは与えられるものとしていました。確かに入試によく出るということは、社会的に重要ということは分かりますが、やらされ感は免れないですね。熟達者AIを使えば、自分が面白いと思えるテーマを自分で発見することができます。

例で説明しましょう。以前のnote記事で使った事例を使います。i.school Technologies が開発している熟達者AIには、質問に熟達者AIが回答するだけでなく、熟達者の知見に合った質問を自動作成する機能が加わっています。「質問を探す」というボタンをクリックすると、その熟達者の知見を表したマップ(知形図)が現れます。

熟達者AIの自動質問作成システム

それぞれの領域の知見を表すキーワード(知名)から、面白そうなところをえらんでクリックすると、その知見に関する質問が3つでてきます。興味ある質問に出会ったら、それをクリックすると「質問」に自動入力され、「SEND」をクリックして熟達者AIによる回答が得られます。

高校生になりきって面白そうな質問と吉見AIによる回答を探索してみました。


【質問】ディズニーランドの空間が持つ特性についてどのように考えられているか?
【吉見AI】ディズニーランドの空間は、その閉鎖性と自己完結性が際立っています。園内は様々な障害物によって外の風景が見えないように設計されており、周囲から切り離された独立した世界を構成しています。このため、訪れる人々は自分がどこにいるのかを忘れ、現実の世界から切り離された異空間にいる感覚を味わいます。さらに、園内の各エリアは独立した世界として封じられており、相互に曖昧な領域を形成することはありません。これにより、訪問者はそれぞれのエリアの物語に没入し、外部の現実を意識することなく、ディズニーランドの提供する夢の世界を楽しむことができます。このような空間的な構成は、19世紀以来の遊園地の歴史においても一つの変容を示しており、ディズニーランドは単なる遊園地を超えた存在として認識されています。


以前のnote記事では没入感に着目してリサーチクエスチョンを立ててみましたが、ここでは「遊園地の歴史」に注目して吉見AIと対話してみました。


【質問】遊園地の歴史について教えて下さい。
【吉見AI】遊園地の歴史は、19世紀に博覧会の影響を受けて始まりました。特に、塔やパノラマ、気球、観覧車といった娯楽装置が大衆化し、特権的な中心から周囲の世界を俯瞰する意志が大衆文化と融合していく過程で発展しました。これらの装置は、世界をミニチュア化し、眩暈を伴う視覚体験を提供しました。 1893年のシカゴ万国博覧会で登場したフェリスの大観覧車は、その後ニューヨーク郊外のコニーアイランドに移され、見世物として人気を博しました。コニーアイランドや日本の浅草六区、新世界などの遊園地は、俯瞰する装置を娯楽の一部として取り込み、パノラミックな眺望を提供し、群集のカーニバル的な興奮と融合させる特異な空間を形成しました。 しかし、東京ディズニーランドの登場により、遊園地の構成は大きく変わりました。ディズニーランドは、従来の遊園地とは異なり、ウォルト・ディズニーの想像力によって生まれた全く新しい空間です。ディズニーランドは、映画のスクリーンを三次元化したような空間であり、観客を参加者として迎え入れることで、ただの見物人から物語の一部へと変えていく体験を提供します。このように、遊園地の歴史は、技術の進化とともにその形態を変え続けてきました。
【質問】群集のカーニバル的な興奮とは何ですか?
【吉見AI】群集のカーニバル的な興奮とは、日常の秩序や規範が一時的に解放され、自由で無秩序な状態が生まれることを指します。カーニバルは、食物、セックス、暴力といったテーマを中心に、通常の社会的な階層や規範が逆転し、混乱と解放感が広がる場です。このような場では、人々は普段の生活では抑圧されている欲望や感情を解放し、笑いやパロディ、冒涜的な行動を通じて、自由なコミュニケーションを楽しむことができます。 カーニバル的な興奮は、公式の祝祭とは対照的に、階層秩序や特権が廃止され、すべての人が平等に参加できる場を提供します。そこでは、通常の生活では不可能な特殊な交際の型が創造され、言語や行動が自由であり、通常の礼儀や作法から解放されます。このようなカーニバル的な空間は、参加者にとって一時的な解放感と興奮をもたらし、日常の生活とは異なる特別な体験を提供します。
【質問】ただの見物人から物語の一部と変わる体験はどんな効果があるのでしょうか?
【吉見AI】ただの見物人から物語の一部へと変わる体験は、参加者に深い没入感と個人的な関与をもたらします。このような体験は、単なる観察者としての立場を超えて、物語の中で自分自身が役割を持ち、影響を与える存在として感じることができるため、非常に強い印象を残します。 この没入型の体験は、参加者に感情的なつながりを生み出し、記憶に残る体験を提供します。例えば、ディズニーランドのようなテーマパークでは、訪問者は物語のキャラクターと直接交流したり、物語の舞台を実際に歩いたりすることで、物語の一部としての役割を体験します。これにより、訪問者は物語の世界に深く引き込まれ、現実世界とは異なる特別な時間と空間を楽しむことができます。 また、このような体験は、参加者の創造力や想像力を刺激し、日常生活では得られない新しい視点や感覚を提供します。結果として、参加者はその体験を通じて新たな発見や学びを得ることができ、個人的な成長や変化を促すこともあります。


いかがでしょうか。吉見AIとの対話を楽しんでいる感覚が伝わったでしょうか。「遊園地、テーマパーク」に関する知見を深めることができました。試験に出ることはないのかもしれませんが、自分の引き出しが増えたような満足感を味わうことができました。クリックとカット&ペーストだけですので、高校生にも簡単に対話の楽しさを味わってもらえそうです。

まとめ

小論文をうまく書けるように熟達者AIを活用する方法を2つ示しました。あるテーマについて熟達者AIと対話する活用法1と、熟達者AIの「質問を探す」機能を使って自分が面白いと思うテーマを見つける活用法2です。どちらも教えられるという受動的な学びではなく、自らアクションを起こすという主導的な学びであるところがポイントだと思います。熟達者AIは学びを楽しいものにするツールだと確信しました。

参考書籍:「小論文 書き方と考え方」大堀精一著、講談社、2018年


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