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スペシャルティコーヒーの風味

前回までで、生豆を通して弊社のスペシャルティコーヒー観や焙煎の現場である「横浜ロースタリー」についてお話ししてきました。

今回のテーマは「スペシャルティコーヒーの風味」。堀口珈琲が目指す「クリーンな風味」についての理解が深まるはずです。ぜひ最後までご覧ください。



 “スペシャルティコーヒーの風味”というテーマで、さあコラムを書き始めよう、と思ったところで、優れたコーヒーの風味を端的なフレーズにまとめるのはとても難しいことに気がつきました。筆が全く進みませんでしたので、幾つものコーヒーを飲みながら、“五味”や“香り”など、“風味”を構成するそれぞれの要素を吟味し、言葉にしていきました。

「香った時、口に含んだ時に、“香り”や“酸味”に花や果実、ハーブ、スパイスなど様々な要素が感じられることでそのコーヒーが特徴づけられ、それらにともなう“苦味”が複雑さをもたらし、心地よい“テクスチャー”と共に余韻まで楽しませてくれる」

 私がスペシャルティコーヒーに求めている風味はこのようになりました。
 感じたことを整理して書いてみましたが、わかるようなわからないような、ですよね。分解して見ていきましょう。


風味の要素1:香りと酸味=特徴

 以前のコラムで、スペシャルティコーヒーは“特徴”に注目し、積極的にポジティブな面を評価すると書きました。フローラルなコーヒーやフルーティーなコーヒーといった表現は、スペシャルティコーヒーがもたらしたと言えるでしょう。

 そして、スペシャルティコーヒーを扱うお店では、フルーティーであれば、シトラスやカシス、チェリーなどより詳細な単語で“ 特徴 ”を紹介しています。これらの“ 特徴 ”をコーヒーにもたらしているのが、“ 香り ”“ 酸味 ”で、産地や品種、焙煎度により、その質と量が規定されます。


風味の要素2:苦味=複雑さ

 コーヒーは苦味を積極的に楽しむ珍しい飲み物で、苦味はコーヒーの風味構成において重要です。とはいえ、苦味単体を「おいしいおいしい」と楽しんでいるわけではありません。
苦味は、香り・酸味が形成する風味の“ 特徴 ”に、より“ 複雑さ ”をもたらす役割を果たしています。風味を語る上で、“ コク ”という単語がよく使われますが、“ コク ”とは風味が“ 複雑 ”であることを表していると私は理解しています。そして、その“ 複雑さ ”を増幅する役割を担っているのが“ 苦味 ”と捉えています。

 浅煎りの世界では、“ 溌剌とした特徴 ”を形作る香りと酸味に、控えめな苦味が加わることで「さっぱりしているのにコクがある」となんだか相反するような風味表現が生まれます。
 深煎りの世界では、苦味はより重要な要素となり、香り・酸味と苦味が織りなす複雑さを楽しむ飲み物と言っても良いくらいです。さらに、しっかりした苦味は後述するテクスチャーと共に飲みごたえを演出します。


風味の要素3:口あたり=心地よさ

 高品質なコーヒーにとって口あたり(質感)も非常に重要な要素です。
 口にした時に、液体に「滑らかさ」などのポジティブな質感が感じられると、“ 特徴 ”は立体的になり、“ 複雑さ ”もより感じやすくなります。そして、粘性のある質感は余韻をより長く感じさせもします。

 一方で「ざらつく」といったネガティブな質感は、スペシャルティコーヒーの“ 特徴 ”と“ 複雑さ ”を台無しにしかねません。質感が乏しい場合は、特徴や複雑さも乏しく感じられ、薄っぺらい風味のコーヒーに思えてきてしまいます。

さて、ここまでで、スペシャルティコーヒーのおいしさを、“ 特徴 ”“ 複雑
さ ”“ 口あたり(質感)”
の3つに分解し解説してみました。次に、スペシャルティコーヒーの風味を阻害する要素についても触れておきましょう。


風味を阻害する要素1:渋み

 お茶やワインは渋みも楽しむ嗜好飲料ですね。一方、スペシャルティコーヒーにおいて、渋みはおいしさの大敵となります。特徴を担当する“ 酸味 ”、複雑さを担当する“ 苦味 ”に干渉し、ネガティブな方向に導いてしまうのです。

 酸味に渋みが加わると、“ 収斂感のある酸 ”となり、特徴をもたらすはずが、“ きつさ ”を演出してしまいます。渋み+苦味は文字通り“ 渋苦さ ”に繋がり、複雑さをもたらすはずの苦味を“ 悪目立ち ”させ、飲みにくいコーヒーにしてしまいます。

 渋みの量は生豆と焙煎の双方に由来します。生豆段階では、渋みの多い種・品種があります。また、未熟豆は渋みを多く含有します。焙煎段階では、極端な加熱が生豆の渋みをより多く残す方向に働きます。


風味を阻害する要素2:ネガティブな酸味

 ポジティブな“ 特徴 ”をもたらす酸味は、果実を思わせる心地よい酸味です。一方で、お酢のようなツンとくる酸味はコーヒーに馴染まず、きつさや飲みにくさに繋がります。こうした酸は、収穫後のチェリーの取扱いに問題があったり、生豆の加工工程である発酵や乾燥が適切に行われなかった時に生まれやすくなります。


風味を阻害する要素3:ネガティブな香り

 カビ臭などの致命的な異臭は論外ですのでここでは取り上げません。スペシャルティコーヒーにおいても注意しなければならないのは、未熟豆由来の穀物臭やナッツ臭です。香ばしいとポジティブに捉えられがちですが、果実や花といったスペシャルティコーヒーならではのポジティブな要素を阻害するネガティブ要素です。

 もう1つが干草のような香りです。生豆の状態が落ちてきた時に感じられ、同様にポジティブな要素を阻害します。


スペシャルティコーヒーのおいしさはクリーンカップから

 初回のコラムから、クリーンな風味、クリーンなコーヒーといった言葉を使ってきましたが、それは、上述の“ 風味を阻害する要素 ”が取り除かれているコーヒーを指します。スペシャルティコーヒーのポジティブな面が邪魔されることなく楽しめるコーヒーです。これを実現するために、品質の高い生豆を調達し、適切な焙煎を施し、選別によって磨きます。

“ クリーン ”が担保できて初めて、それぞれのスペシャルティコーヒーが持つ“ 特徴 ”と“ 複雑さ ”“ 口あたり(質感) ”が楽しめるのです。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回のテーマは『スペシャルティブレンド宣言』。堀口珈琲がブレンド作りにおいて取り組んでいることをお話しします。


Profile
若林 恭史(わかばやし たかし)
1980 年埼玉県秩父市生まれ。2005 年堀口珈琲に入社し、焙煎・ブレンディング・生豆調達の担当者として経験を積む。生豆事業と焙煎豆製造・流通の各部門の統括者を経て、2020年7月より現職。
コーヒーを仕事にしてしまったので、趣味と呼べるものはないが着物が好き。

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このコラムは2021年7月2日配信のニュースレター「HORIGUCHI COFFEE Letter No.4」を再編集したものです。