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[ハゲ杯] ≪ノベル≫ 豊かな時間 ~チーちゃんパン屋さんへ行く の巻き~

#ゆたかさって何だろう #小説 #ハゲ杯


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今朝も弟は起きてから胃が痛い。と言う

最近 喉がイガイガする。とか
嚥下障害 が 気になる。と 言う

「今日はスープだけにするよ」 

そんな寂しい朝食は嫌だなぁ
それじゃ健康にも悪い訳で

よくよく話を聞くと、
いつものスーパーで買う食パンが飲み込みづらいと言う

「 何がいいの?」

「テーブルロール。」

「私はクロワッサンにするよ。」

「なら僕もクロワッサンがいいな。」

「なんだ、パンが食べられないんじゃなくて焼きたてクロワッサンだったら食べられるのね。」

そんな会話をしながら私は着替える

着替えるためにかかる時間は健常な人の10倍ぐらいかな

パンを 持って帰るための袋は首からぶら下げる軽い布袋

Doggie bag

「Alpacaの絵が描いてあるのだからAlpaca bagじゃないの?」
と弟

「それはね。
よく散歩している犬が自分の荷物を首にぶら下げて歩いているでしょ?
それと同じだから、Doggie bag」

私も手に荷物を持って歩くことは難しいけれど、首にぶら下げてなら持って歩ける

犬だって自分で出来る事は自分でやる

犬にリスペクトの気持ちを込めた呼び名なのだ


(本当のDoggie bagがどういう意味かはコチラ)


https://ejje.weblio.jp/content/doggie+bag

 


そして、Doggie bagを首にかけて私の支度は終了


さぁ、いよいよパン屋を目指すのだ!

意気揚々と家を出る

一つ目の難関は国道を渡る歩道橋だ

私はまだ自分の脚で歩くことが出来るけれど、車椅子の人はあの坂道を昇り降りするのか

結構怖過ぎ

車椅子生活も経験したけれど、あくまでも院内でのこと

実社会でのバリアフリーについては、まだまだ整備されていないことをつくづく実感する

(車椅子生活になるとしたら、私は絶対これにする!と思っているのはコチラ )

https://whill.jp


駅前の道を真っ直ぐ歩く

坂道だらけの町

この道の勾配は何度あるんだ?

などと、考える余裕は1フェムトもない


右の踵をつく

足底筋群

アキレス腱

ヒラメ筋

縫工筋

その他諸々の筋肉を意識しながら、身体の重心を右足に乗せる

右足に重心を乗せ切ると同時に左足を前に出す

左足に重心を移動させながら、最後に右足の指で地面を蹴る

たった一歩進む為にどれだけの筋肉を動かさなければならないのか

筋肉を動かす指令が届かなくなった身体に、新たな神経回路を作り出すには、麻痺した身体を動かすことが一番

脳の表面にある神経回路が筋肉に届く様をイメージし、動かなくなった筋肉を動かすことだけに集中するのだ


リアル、kill bill


身体だけでなく、脳も疲れ始める頃

やっと、坂の上バス停前のパン屋にたどり着く

が、まさかの開店前!
(10時開店では朝食に間に合わないよぉ)

しかし、今は良いものがある

スマホに向かって
「この近くでやっているパン屋さんは?」

ささっと近くのパン屋を教えてくれる上に地図上で経路まで出してくれる

流石Googleさまさま

音声で動いてくれるなんて、
正にこの身体には夢のようなツール

いや、夢ではなくてこれが現実

いい時代になったなぁ

気を持ち直し、更に450m先のパン屋さんを目指す


Never give up!

Yes, I can! 

Never give up!

Yes, I can!


辛いとは思いたくないのに、涙が滲むのはなぜ?
と思った瞬間

ふわぁ~とバターのいい香りに包まれる

そして、右手に見えて来た煉瓦の建物

ショーウインドゥには焼きたてのパンがずらり

お目当てのクロワッサンが私を呼んでいる


だが、ここで第二の難関

片手にトレーもう一方の手にトングを持って好きなパンを選ぶスタイルは今の私にはちと辛い

そんな時には

Help me!

パン屋さんに手伝ってもらい、無事にクロワッサンを購入

朝の6時半から開店する為に、
一体何時に起きてパン生地を捏ね始めるのだろう?

焼きたてのパンの香りに包まれて

思わずニッコリ

今日もきっと素敵な一日になる予感

そんな豊かな時間を与えてくれるパン屋さん

どうぞパン屋さんにも素敵な一日でありますように!


さぁ、また来た道を歩いて帰るよ

あともうひとがんばり

クロワッサンのバターの香りに、
何だか魔法のパワーが涌き出てくる


Never give up!

Yes, I can! 

Never give up!

Yes, I can!


また、涙が滲んで来た

でも、今度は辛いからなんかじゃない

弟の喜ぶ顔が目に浮かぶからなのだ

弟はきっとこう言うだろう

「せっかく美味しい焼きたてのクロワッサンを買って来てくれたから、何か作るよ♪」



やっと家が見えて来た

玄関のドアを開けると

無事に帰って来たことにまず安堵の表情を浮かべる弟

「どうもありがとう。大変だったね。」

と言いながら私の首にぶら下がるDoggie bagを外してくれる

Doggie bagからは焼きたてのクロワッサンの香りが漂う

思わず笑顔が綻ぶ二人

そして、赤いエプロンを着けながら弟が言う

「せっかくチーちゃんが頑張って美味しい焼きたてのクロワッサンを買って来てくれたから、チーちゃんの好きなスクランブルエッグを作るよ。」


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(作者の独り言)

「豊か」って何だろう?



例えば美味しいお料理を頂いた時

鼻をくすぐるようないい匂い

えもいわれぬ舌触り

言葉にならない程の味が口いっぱいに広がる

そんな至福に包まれた時

それを豊かだと感じる人もいるだろう


でも、待てよ


私の感じる「豊かさ」って?!


さて、この物語の続きを想像してみる


弟とチーちゃんの前には

焼きたてのクロワッサン

淹れたてのコーヒー

手作りのスクランブルエッグが並ぶ

早起きのパン屋さんに感謝し

素敵な一日が始まる

こんな何でもない朝食のひとときにこそ「豊かさ」を感じるのだ

(つづく)


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ちが~う!!

こんな誰にでも書けるようなエッセイを書きたい訳じゃない


弟とチーちゃんの二人は

一日、いや この一瞬一瞬を笑顔で送りたいのだ

次の日も生き延びる保障はない

だから、二人は何事にも妥協はしない

チーちゃんは、力の限り頑張る

美味しい焼きたてのクロワッサンなら食べられると言った弟の喜ぶ顔が見たくて

チーちゃんはわかっているのだ

自分が頑張ったら、きっと弟が美味しいお料理を作ってくれるって

これが「信頼」ってやつ

そして、その信頼に応える弟


チーちゃんにとって、本当の豊かな時間というのは

弟の為に頑張って歩いている時


弟にとっての豊かな時間も

チーちゃんを信じて待っている時と
スクランブルエッグを作っている時


一緒にいなくても

お互いの信頼感に包まれて生きている

それこそが
「豊か」なんじゃないかな?



だけどね

実は、さらにその先にあることにも気が付いている



この世で一緒にいられなくなった時でも



豊かな気持ちでいられるかどうかって…











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