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私は、髪の毛を捨てた。

私は、髪の毛を捨てた。

一年365日のうち、360日会っていた大好きな彼に振られた。彼の気持ちが冷めてしまったという、よくある理由だった。彼は何に対しても、熱しやすく冷めやすい性格だったのを思い出した。別れは、たった一行のメールで済まされてしまった。

人生ではじめての失恋を経験した私は、この苦しみからの抜け出し方がわからなかった。

電車に乗っていても、ふわふわのオムライスを食べていても、大好きな音楽を聴いていても。生活の一部であった彼を、ふと思い出してしまう。彼にかわいく見られたくて毎日ばっちりしていた化粧も、涙でドロドロにならないようにずっと薄くしていた。

「失恋したから髪を切る」なんてベタだけど、彼への気持ちを少しでも減らせるのなら試してみよう。そう思って、美容院を探そうともした。


私は、赤髪のボブヘアーだった。大好きな彼に撫でてほしくて、ブリーチを繰り返していた髪を必死にケアした。彼は、「かわいいね」と言いながら、たくさん撫でてくれていた。

もう、彼のためにケアをする必要もない。そう気づいてしまってから、なげやりな気持ちと共に、日に日にトリートメントもつけなくなった。いつしか、美容院からも足が遠のいていた。


美容院に行かないまま、あっという間に4ヶ月が過ぎていた。

髪はひどくボサボサで傷みきっていて、鏡に映った自分があまりにも惨めだった。思わず笑ってしまった。私はやっと、美容院に行く決意ができた。

ボブだった私の髪は肩にかかるまで伸びて、「彼の触れていない部分」が随分と増えていた。

どんな髪型でもよかった。美容師さんに、「痛んでいるところを全部切ってください」と頼んだ。彼に触れられていた髪の毛がどんどん切り落とされて、美容院の床に散らばっていく。

美容師さんが選んだのは、前と同じボブヘアー。それでも「彼が触れていない部分」でできた髪型が、私には新鮮だった。


「失恋したら髪を切る。」それは、イメチェンのためなんかじゃなくて、彼に触れられていた髪の毛を、少しでも減らすための作業なのかもしれない。
 

アクセサリーと、おそろいのマグカップ、漫画、写真、歯ブラシ…。彼との思い出の品を全部捨てた、つもりだった。
一番の思い出の品は、私の肩の上にのしかかっていた。

美容院の帰り、髪が綺麗になると評判のシャンプーを買った。私はやっと自分のために、髪の毛をケアしようと思った。

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(文・ほれまるゆおり 編・がんもちゃん)


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