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「どうしてメモを見ないんですか?」にお答えします

【本来ならメンバーシップにするものなのですが、広くシェアしたい内容のため通常公開とします。しばらくしたらメンバーシップ記事になります】

昨年1月に書籍を出版してから、図書館ウォーカーとしてのトーク出演は10回以上経験してきました。


図書館ウォーカーの現在のトークスタイルについて

僕のトークスタイルは自称「スライド漫談」といって、ものすごくたくさんの写真をお見せしながらコメントを挟んでいき、図書館や旅についてご紹介するというものです。漫談、と表現するようにかなり笑いもとっていきます

↑のように写真を並べ、順番にお見せしています

写真そのものの訴求力があるのと、僕がしゃべるトータル時間はそう多くはないこと、またジョークをかなり入れるため、基本的に90~120分間くらいの長さでトークするのですが、ご来場者の方には「あっという間だった!」というご感想をよくいただきます。

それともう一つ、よくいただくのが「メモを全然見てないですよね!」という驚きの声。そうですね、僕はカンペみたいなものは一切見ていません

会場では僕のノートパソコンとプロジェクターをHDMIケーブルでつないで写真を投影しているのですが、僕がパソコンで見ているものが直接そのままスクリーンに映っている状態です。

具体的に言うと、↑のフォルダ画像の写真をスライドモードで全画面表示してあとは→ボタンをクリックしてひたすら次の写真に移動しているだけです。僕は自分のパソコンのモニター画面とお客様だけを見つつ、ただ矢印ボタンを押してしゃべっています。トーク中の僕の作業はそれだけです。

「メモ見ないで、よくおぼえていますね。すごいな~」とほめていただくことがとても多く、ありがたい気持ちでいっぱいです。一方で「実はこれ、試行錯誤しながらこれまでの反省点を補う形で行き着いたスタイルなんですよね~」とも思っています。

具体的にどういうプロセスを経てこのスタイルになったのか、この機会にご説明してみたいと思います。

ちなみに自分の創作的・お仕事的アイデンティティについて試行錯誤するプロセスが興味深いのが、先日公開したジャズ・ヴァイオリニスト石井智大さんへのインタビュー記事↓。「自分」を見出していく過程にある方のお話はやはりとても面白いです。

絶対に効果あり! トークのスタート時にする「お願い」

その前に一つ、僕がトークを開始する前にいつもお客様に「お願い」することがあります。それをやると絶対に会場の空気がほぐれるので、お仕事でおしゃべりする機会の多い人で、トークのいちばん最初の切り出し方に試行錯誤している方はぜひ試してみてください。

僕はあまり「これをやれば絶対いける!」的なメソッド論を信じていない人間なのですが(だって結局「人による」から)、これに限ってはほんとに効果あります。試す価値ありなので、ここに書いておきます。

まず「いつも最初にお願いしていることがあります」と切り出したうえで「自分はAIやロボットではないので、みなさんの反応を見ています。シーンとしているのがいちばんしんどいので、面白い時はハハハと笑ってください。また、なるほどと思った時はウンウンとうなずいたりしてください」と言ってみてください。

これで絶対にお客様のレスポンスが変わります。ハハハの部分でまず笑ってくださいますよ。あと、僕は関西出身なのでダメ押しにこれを付け加えています。「面白くなくても笑ってくださってけっこうですよ」。ここでさらに笑いが起きます。レスポンスを起こすことへの無意識のハードルがこれで不思議と下がるんです。

笑いなど起きてはいけない、ほんとうにシリアスなトピックのトーク以外なら、この「お願い」はほぼ100%「効く」のでぜひお試しあれ。

音楽ライター時代のトークの欠点を洗い出す

さて本題に戻りましょう。僕は音楽ライター時代からかなりトーク出演の機会にめぐまれていました。通常のトークイベントだけでなく、カフェやバー、映画祭のステージ、DJイベントにラジオ番組などさまざまな場でお話しさせていただいていました。

ただ、うまくいく時とそうでない時の差が激しく、ウケるウケないにかかわらず個人的にとても反省点が多いトークぶりでもありました。一言で言うと「自分なりのメソッド」がなかった。

その後しばらく音楽ライターとしての活動をペースダウンし、並行して図書館ウォーカーとしてのお仕事をスタートしていく中で「やがてこちらでもトークとかあるのかもしれない。前のまま(音楽ライター時代のトークスタイル)では、ちょっとヤバいなあ」とは思っていました。

そこで、改めて具体的に自分の弱点、不得手な部分を洗い出してみました。

1)人と目を合わせながら話すのがもともと苦手

僕はすごくよくしゃべるし、一般的な意味での社交性にはたぶん長けているほうだと思います。が、人と目を合わせて会話するのはけっこう苦手です。これについては、かなり前、音楽ライター時代のトークを聴きに来てくれた友人のフリーアナウンサーさんが「もうちょっとお客さんのほうを見ながらしゃべったほうがいいよ」とアドバイスしてくれたのがずっと引っかかっていました。

その頃は、しゃべるネタをメモしたものをプリントアウトして、それをテーブルとか膝の上に置いてトークしていました。もともと人と目を合わせるのが苦手なうえに、メモを見るためにほとんど視線を下に向けてしまう感じになるので、そのアナウンサーさんは「お客さんに向けてしゃべっている感じがしない」と言ってくれたんですね。

まあ僕はしゃべるプロではないので、アナウンサーレベルの視点から言われるとなかなか厳しいなとも感じたのですが、今は「トークの内容自体は面白いから、期待してあえて要求高めに言ってくれたんだろうな」と感謝しています。

2)振り返ってスクリーンを確認してしまう癖がある

これは、ある時に出演したカフェのオーナーさん(こちらもとても親しい友人です)が指摘してくれたことです。その頃は自分のノートパソコンとプロジェクタをつないで、時々僕が操作して写真をお見せする、という現在のものに近いスタイルでした。

ただ写真の枚数は今の10分の1にも満たない枚数で操作の頻度も少なく、パソコンも目の前ではなく脇に置く感じでした。そのせいなのかどうか、なぜかちゃんと映っているのかどうか背後のスクリーンを振り返って確かめてしまう癖がついていたんですよね。

従来の「お客様に目が向いてない」に加え、これを繰り返すことになって、そのお友達から「もっと自信もってしゃべったほうがいいよ。俺からはそういうふうに見えちゃった」と言われたんですね。

実は僕、その時別に自信なかったわけではないんですね。ただ、実際の「しゃべる間の挙動」がそのように見えた、というのは事実なわけです。また友人からは「あまりあれをやられると、見ているほうも気が散る」とも指摘されました。これをどうするのか、も課題でした。

3)アドリブはそんなに得意じゃない

5月に弘前市のまわりみち文庫で友人の怪談作家、高田公太さんと対談した時も改めて感じたのですが、僕は「その場で気の利いたことを思いついてしゃべる」のはそれほど得手ではないです。それこそカンペも何もなく丸腰でトークする怪談イベント出演を数多く重ねてきた高田さんは、切り返しがいちいち鋭くて感心しきりでした。

聴いていた方たちは二者二様で二人とも面白かった、と言ってくださるのですが、僕としては「フリースタイル?でどんどん面白いことを話していく」タイプではないんだなあと改めて感じました。

あと、丸腰だとこれから話すことを考える間「う~~ん」とか「えー」とかどうしても多発してしまう。さらにもう一点挙げると、丸腰やかんたんなメモ頼りでしゃべると、センテンスが長くなる(言葉が途切れずだらだらと続く状態)ので、要点がぼやけちゃう。

でも「しゃべるための原稿を事細かく書いて、それを読み上げる」だけ、はやりたくないんです。日本の政治家みたいでダサいですし。正確にしゃべれるのかもしれないけれど、それは僕自身もつまらない。

とりあえず対談などの場合は措いといて、ソロでトークする場合、これらの弱点をフォローするやり方を「発明」しないと、同じ失敗の繰り返しだぞ、というのがありました。

努力には2種類ある

さて、僕は努力には大まかに2つの方向があると思っています。そして、そのどちらもできる人、一方しかできない人、そのこともわからずにやみくもに間違ったもう一つを努力し続ける人、に分かれます。あ、あともう一つ、そもそも努力をしない人もですかね(笑)

で、これも向き合うべき仕事や環境によってどちらの努力なのかも分かれます。海外取材や転勤がある際に、必要な語学力を身につけるべく専門学校とかに通ったりするのが「自分のスキル、スペックを底上げする」努力。

もう一つが「できないことに見切りをつけ、自分に合うやり方を見つけてそれを伸ばす」努力。例えば、僕が高田公太さんのような「ひらめき力トーク」のタイプになろうと一生懸命努力するのは違うと思うんですよね。彼のようなスキルは欲しいと思うけれど、正直言っていくら努力してもあのレベルにはなれると思えない。

また、それは「個人的に」欲しいと思っているだけであって、ほんとうに自分がやることに必要不可欠な能力なのかどうかも冷静に考察しないといけないと思います。僕は自分のスペック底上げ型努力が極端に苦手なので、それもまた「洗い出し」の対象の一つになります。

今の世の中は「これ(役に立つメソッドなど)をやるべき」=「やらないからダメ」という情報があふれかえっていますが、個人的にそれは新しい形の根性論のようなもので、どこに向かってどう努力すべきなのかは自分の中でしっかり洗い出していかないといけないと思っています。

とにかく、自分なりのトーク・メソッドの確立は、以上のような弱点から何を見出すかという点にかかっていました。

図書館ウォーカーのトーク・スタイルの「発見」

図書館ウォーカーとしてトークしはじめた最初のうちも、けっこう試行錯誤でした。最初のトークは館長さんとの対談の合間に写真をたくさん見せるスタイル。次の図書館総合展はフォーラムの一部だったため短く、こちらは今のに近い写真を多く見せるスタイル。そして3つ目のまわりみち文庫さんではトークのみ。

この3回の出演で自分の「できること・できないこと」の洗い出しが完了しました。そこで見えてきた「こうすればいい」は下記のようなものでした。

長く喋ろうとするとカンペ頼り、センテンスが長くなる
→トークに費やす時間を減らせばいい。コメントを入れる程度でいい

トークを減らす分、何を増やすべきか?
→写真をたくさんお見せすればいい

お客様のほうを見ない癖をどうやって消すか?
→目の前にパソコンを置いてモニタリングすればすぐ目を上げるだけでお客様のほうに視線を向けることができる

スクリーンを振り返って確かめる癖をどうやって消すか?
→そんなひまがないくらい写真を多くすればいい

だいたいこんな「必勝」パターンが見えてきました。この準備を怠らなければ、パフォーマンスの平均点がかなり高めに出せるトークができるのでは。

あ、あともう一つ。僕にはこういう弱点がありました。

4)意外と無意識下で緊張している

緊張って基本的に「武者震い」と「自信がないから」の2つに分かれると思っていて、前者は自分に自信がある人、後者はちゃんと準備できていないか、方法論をつかめていないからいつも試行錯誤すぎる人ではないかと。

僕の場合は後者で、しかもより悪いことに(笑)緊張を事前に自覚できていないのでしゃべりはじめてから「あれ、意外と緊張してる」と自覚することが多かったです。泳ぎ始めてから「あっ、実はオレ泳ぐの苦手だった」と気づくのと同じ感じでしょうか。けっこう怖いでしょう(笑)

そういうことが何回も続く前は「わたし、緊張しないので」とか豪語していました(苦笑)。実際そういう自己認識だったんですよね。そして現場で緊張のせいからか若干頭が真っ白になる。しかしこれはメソッドさえ確立すればどうにかなるのではとも思っていました。

僕は基本的にスペックは低い人間なのですが「画像記憶能力」、もっと言うと画像とひもづけてデータを記憶する能力にはかなり長けています。写真さえ見ればコメントや言うべきデータが思い出せるので、パソコンのモニターでひたすら操作用/投影用の写真を見るということ自体が「カンペを見る」に相当します

そしてその「カンペ」の数がものすごく多いわけです。これはものすごくありがたいし、次に何を話すのかを考える必要がない。→をクリックして次の写真を見たら、それについてコメントすればいいだけなので、このスタイルを確立して以降は強がりではなくてほんとうに緊張しなくなりました。

またお客様の気持ちや集中力的に最も中だるみしない、あるいは「それほど興味があるわけでもないけど来てみた」という人へのインパクトの強さという意味では、やはりヴィジュアル(写真か動画)が最強なんですね。

あと、僕はとてもよく響く声をしているので「トークが聞こえないかも」ということに気を遣う必要がない。これはほんと、そういう体に産んでくれた両親に感謝したい(笑)。この部分に関しては何も努力しなくても良かったので。

「万能メソッド」ではないけれど

以上の試行錯誤を経て「ノートパソコンを目の前に置き、写真を何百枚もお見せしつつコメントを入れる。写真はモニターだけでなくカンペにもなる」という図書館ウォーカー独自のトーク・スタイルが生まれたわけでした。

ちなみにマイナーチェンジレベルの試行錯誤は毎回やっていて、一つイベントをやるたびにお客様の反応を見て、次のイベントの「写真の並べ順=話の進め順」を変えるべきか、この写真をやめてあの写真を入れるべきか、などを検討し続けています。

図書館ウォーカー・トークは僕にとって「自分が楽しくてやっている旅を、楽しくおしゃべりして、それをお客様に楽しんでいただく。さらにお客様がたくさん集まればご依頼元も喜んでくださる」というウィンウィンループな体験です。

また、物書きはよっぽどイベントなどに引っ張りだこの有名著者でもない限り、自分の仕事へのレスポンスを直接目の前の人から受け取ることってないんです。トークイベントは、僕にとって数少ないその機会なんですよね。だから「面白い時はわらってくれていいんすよ」なんてお願いするのかもしれません(笑)

というわけで「どうしてメモを見ないんですか?」にお答えすると、ひとことでまとめれば「たくさんの写真がメモ代わりになっているから」ということでした~。

トークが今一つうまくいかない、という方は参考になる部分があるかもなので、ぜひ何か試してみてください。ここに書いてあることは「万能メソッド」ではないですが、自分なりのやり方をどうやって見つけていくのかのヒントにはなるかと思っています。

(おわり)

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