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永久保存版!「総本山」ポーランドのジャズ・ヴァイオリンまとめアップデート版
先日公開した、日本のジャズ・ヴァイオリニスト石井智大さんのインタビュー記事が話題です。note公式に「今日の注目記事」としてセレクトもされました。
石井さんはポーランドのジャズやジャズ・ヴァイオリンに大きな影響を受け、クラシック奏者としてのキャリアを歩むはずがジャズの世界に入ってきたという人です。そしてその彼が、ポーランドで2年に1度行われる国際的なジャズ・ヴァイオリン・コンペティションで3位に輝いたことを多くの人に知っていただくべく、インタビューしたのが↑の記事です。
記事中で石井さんは「ポーランドのジャズ・ヴァイオリン文化をもっと日本の人たちに知ってもらいたい」という熱い思いを語っています。これは「ポーランドのジャズを専門とする」と謳ってきた音楽ライターとしての僕にとってとても共感できる、勇気づけられる言葉であると同時に、石井さんに「まだまだ全然広まってない」と思わせているほど自分のこれまでの仕事が人々に届いていないのだな、と反省させられるものでもありました。
過去に一度、ポーランドのジャズ・ヴァイオリンについてまとめた記事があって、そこそこ反響はあったのですが、もう6年前のものです。石井さんのインタビュー記事内にもリンク貼ってあるのですが、少し内容も古くなっていますし、この機会にアップデートしたものを書き直そうかと思いました。
文化が豊かな国は、若い世代の担い手がどんどん出てきてシーンはすぐに更新されていきます。僕たち「専門ライター」も常に勉強です。こうして記事にすることで改めて6年前の時点では知り得ていなかった演奏家や動きを学び直せました。また、石井さんも「若手ですごい人がたくさんいる」ということでポーランドのジャズ・ヴァイオリンに興味を持ったと語っています。その「勢い」と「成熟」をぜひ知ってほしいです。
というわけで、石井さんのインタビュー記事を読んだ方も、または「ジャズ・ヴァイオリンって?」とか「ポーランドってそんなにヴァイオリン凄いの?」と思った方も、ぜひお読みください。ここで紹介している人やアルバムを聴けば、この国のジャズ・ヴァイオリンの豊かな文化を知ることができますよ。
ジャズの代表的な奏者たち
アダム・バウディフ Adam Bałdych
どちらかというとドメスティックな活動を重視するポーランド人ミュージシャンの中ではかなりワールドワイドな規模で活躍しているトップランナー。詳しくは彼が看板アーティストになっているドイツのACTのHPをご覧ください。
来年1月末頃にACTからひさびさの新譜「Portraits」を出すようです。ちなみにこの作品ではピアニストが僕の大好きなセバスティアン・ザヴァツキ Sebastian Zawadzkiに替わっているので、そちらも楽しみです。
Spotifyは、彼がACTから発表したはじめてのオール・ポーランド人バンドのアルバムと、ポーランドで盛んな「クラシックのジャズ化」の名盤を。後者については少し紹介記事も書いていますのでそちらもどうぞ。
また彼のパートナーはカリ・サール Kari Sálというヴォーカリストで、アダムや同じポーランドの若手の凄腕たちが参加した彼女のアルバムもとても良いのでぜひ聴いてみてください。
マテウシュ・スモチンスキ Mateusz Smoczyński
アダム・バウディフと並ぶトップランナーがこのマテウシュ。第2回Seifert Competition(2016年)の優勝者です。
アメリカの有名なジャズ弦楽四重奏団タートル・アイランド・ストリング・クァルテットの正規メンバーだったこともありました。録音エンジニア、プロデューサー、作編曲、ピアニストとして多方面で天才を発揮する兄のヤン Janとのコラボレートの数々(マテウシュのクインテットなど)が特にすばらしい。
Spotifyはそのヤンのオルガンとのトリオ、ワーナー・ミュージックと契約してリリースしたジャズ・コンチェルト、ヤンと二人で参加した民謡ジャズの傑作を。民謡ジャズについては↓のnote記事をご覧ください。
ダヴィト・ルボヴィチ Dawid Lubowicz
マテウシュに触れたなら、この人をスルーしてはいけません。今のポーランドには、クラシックからジャズ、ポップ・ミュージックまでありとあらゆるジャンルでコラボするハイパー弦楽四重奏団Atom String Quartetがあります。
そのヴァイオリン2つを担っているのがマテウシュとこのダヴィトなのです。また彼はSeifert Competition初回(2014年)の3位受賞者でもあります。
というわけでSpotifyはダヴィトの最新リーダー作とASQの最新作を。後者は4人それぞれがオリジナルの弦楽四重奏曲を書き下ろすというコンセプトなので、コンポーザーとしてのダヴィトも知ることができます。
トマシュ・ヒワ Tomasz Chyła
こちらは個人的にいま一番応援している若手。な、なんとクインテット2ndの『Eternal Entropy』では僕に捧げてくれた曲(詳しくは下記note↓)も収録。プログレッシヴで現代の感覚が活かされた音楽づくりが魅力です。彼は合唱のバックグラウンドも持っていて、自身もメンバーのアカペラグループがあったり、合唱団の指揮もしたり。
Spotifyは5tetの1stとメンバーが少し替わった最新作、そしてつい最近リリースされた暗黒トラッド風のプログレっぽい別ユニットの1曲。
スタニスワフ・スウォヴィンスキ Stanisław Słowiński
最近ちょっとストレートなジャズからは離れている感じなのですが、両親がレジェンドクラスの有名な民謡ミュージシャンというバックグラウンドを持つ若手です。僕が選曲・解説したポーランド・ジャズのコンピ『ポーランド・リリシズム』では彼のセクステットから1曲選んでいます。
ちなみに彼は第1回Seifert Competition(2014年)でオーディエンス賞を受賞しています。
Spotifyは彼のグループの1stと、セプテットと室内管弦楽団がコラボしたショパン・カヴァーを。またSpotifyで聴けるものでは他に、ジャズ・コンチェルト「Visions」なども必聴です。
バルトシュ・ドゥヴォラク Bartosz Dworak
今回石井智大さんが3位になったザイフェルト・コンペティション、記念すべき第一回目(2014年開催)の優勝者がこのバルトシュです。アルバム発表という意味ではかなり寡作な感じですが、とても才能がある、ポーランドならではのセンスと演奏力を持つプレイヤーなので要注目。
Spotifyは彼のグループの2ndと、ポーランドの若手世代の実力派が集まった前衛的なヴォイス入りアンサンブルを。
マルチン・ハワト Marcin Hałat
どちらかと言うとがっつりインプロ系が得意な奏者。ポーランドが誇るハイパー美音抽象ピアノトリオRGGのベーシスト、マチェイ・ガルボフスキ Maciej Garbowskiとドラマー、クシシュトフ・グラジゥク Krzysztof Gradziukとの共演アルバムをリリースしたことで一気に注目株に。
一方で彼は20世紀前半に活躍したオーストリア人作曲家カロル・ラートハウス Karol Rathaus作品の演奏にも力を入れていて、彼の名を冠したアンサンブルの一員でもあります。Spotifyではその双方のアルバムを。
ウカシュ・グレヴィチ Łukasz Górewicz
ゼロ年代を中心に、主にアヴァン・ジャズ、インプロ・シーンの重要なプレイヤーとして活躍し続けている奏者。特にドラマー・コンポーザーのラファウ・ゴジツキ Rafał Gorzyckiが率いるユニットMaestro TrytonyやEcstasy Projectの作品群での演奏が光っています。
ちなみにゴジツキはポーランドでは珍しくクラシックの教育を受けてこなかった作曲家なんですが、それなのにかなり現代音楽テイストが強い作品が多いのが面白いです。
試聴リンクは、Ecstasy Projectのむっちゃ大好きなアルバム「Realium」を。
ヘンルィク・ゲンバルスキ Henryk Gembalski
80年代後半から活躍しはじめ、確かな腕を持つバンドの一員として「脇を固める」タイプのレコーディングが多い演奏家。近年はテレビドラマの音楽制作でも知られているようです。
一方でコ・リーダー作品ではロック/アヴァンなテイストが濃厚なスタイル。90年代から続いているベーシストのクシシュトフ・マイフシャク Krzysztof Majchrzakとの一連のコラボ作品で彼のとんがったセンスが堪能できます。
試聴はそのマイフシャクとのコラボものを2つ。
「これから」が期待の新進奏者たち
ミコワイ・コストゥカ Mikołaj Kostka
彼のことは僕選曲コンピ「ポーランド・ピアニズム」に「5-8」を収録したピアニスト、フランツィシェク・ラチュコフスキ Franciszek Raczkowskiと一緒にやっていることがきっかけで知りました。
ラチュコフスキとはデュオと↓のクァルテット「Follow Dices」をメインに活動しているようです。どちらもアルバムを1枚ずつリリースしていますが、自主制作のためかフィジカルを入手するのはけっこう難しくて、僕もネット経由でしか聴けていません。が、どちらもすばらしい作品だと思います。
試聴リンクはFollow DicesのBamdcampと、Spotifyで1曲見つけた若手ピアニスト、ミウォシュ・バザルニク Miłosz Bazarnikとのデュオを。
カツペル・マリシュ Kacper Malisz
第5回Seifert Competition(2022年)優勝者。
と言っても彼が異色なのは民俗音楽ファミリー出身の奏者だということです。代表的奏者としてご紹介したスタニスワフ・スウォヴィンスキと同じ系統ですね。少年時代からトラッド畑で活躍してきた彼ですが、ジャズ・イディオムはマテウシュ・スモチンスキに師事して身につけたようです。
彼の「ジャズ奏者」としてのすばらしい感性を味わえる動画と、お父さん&妹と結成したポーランド現代トラッドの代表的グループ、カペラ・マリシュフ Kapela MaliszówのSpotifyをお試しください。
アレクサンドラ・クリンスカ Aleksandra Kryńska
東京で開催されるポーランド・フェスティバルで今年、僕の知り合いでもあるトランペット奏者/コンポーザー、ピォトル・ダマシェヴィチ Piotr Damasiewiczとのデュオで演奏していたので知りました。
KRVNSKA Quartetというリーダー・グループを持っているようです。また、惜しくも受賞はなりませんでしたが今年の第6回Seifert Competitionのファイナリストに選ばれています。
試聴には彼女のグループとポーランドフェスの動画を。グループのほうの演奏もなかなかいい感じなので、アルバム出ませんかねえ。
アマリア・ウメダ Amalia Umeda
第5回Seifert Competition(2022年開催)第3位、第3回(2018年)ではオーディエンス賞。当時のファミリーネームはオブレンボフスカ Obrębowskaでした。
試聴用にリーダーグループの1stを。ちなみにこちらのピアニストはミコワイ・コストゥカのところでもご紹介したフランツィシェク・ラチュコフスキです。
ドミニカ・ルシノフスカ Dominika Rusinowska
第2回Seifert Competition(2016年)オーディエンス賞受賞。
彼女のことは女性だけで結成したジャズ・グループO.N.E.Quintetに参加していたので知りました。ちなみに「one」はポーランド語で「彼女たち(男性を含まない)」の意味があります。
驚かされたのはベテランのプログレ・バンドLizardのライヴアルバムにゲスト参加したことですね。
試聴はその2枚を選びましたがD.R.A.G.というユニットの「Oberek」というアルバムも民謡ジャズの佳作なのでぜひ聴いてください。
マルタ・ルビク Marta Rubik
最近知ったばかりの人その1。試聴リンクはリリースされたばかりの初リーダーアルバム。かなりいい出来です。
アレクサンドラ・クチシェパ Aleksandra Kutrzepa
最近知ったばかりの人その2。ダーク・フュージョン?っぽい音楽性のアルバムを何枚もリリースしています。
エドゥアルド・ボルトロッティ Eduardo Bortolotti
第5回Seifert Competitionオーディエンス賞受賞。この人はポーランド人ではなくてメキシコ出身の若手奏者なのですが、おそらくポーランドのジャズ・ヴァイオリン文化に魅せられて留学したのではないかと。
カトヴィツェの音楽大学を卒業していて、↓のようにポーランド人(ピアノとドラム)も参加したリーダー作もリリースしているので、かなりポーランド音楽にコミットしている奏者と言っていいのではないでしょうか。
アンドリィ・サチェーヴァ Andrii Sacheva
この人も他国人(ウクライナ出身)なのですが、主にポーランドで活躍しています。
数年前デビューEPの「Elusive Signs」をラティーナ誌の年間ベスト5に選んだのを本人が目に留め、クラクフでちょこっと立ち話したことがあります。エレクトロニクスやエフェクトを駆使した、ミクスチャーな音楽センスの持ち主なので、以後あまり目立った形でリリース続いていないのが残念なのですが、音楽活動自体は続けているようなので新作気長に待ってます。
「ジャズのまわり」を彩る奏者たち
パトリク・ザクロツキ Patryk Zakrocki
クラリネット奏者パヴェウ・シャンブルスキPaweł Szamburskiとの即興映画音楽デュオ、シャザ Sza/Zaで何度も来日しています。どちらかと言うとヴィオラ奏者兼マルチ・インストゥルメンタリストという側面が強いのですがヴァイオリンも時々弾きます。
近年はさらにマルチにギタリストとしてのアルバムもいくつかリリース。試聴リンクは珍しくヴァイオリンをがっつり弾いたインプロ系のアルバムと、マルチ奏者としてのセンスを活かした女性ヴォーカル入りのシリアスなエレクトロ室内楽を。
ダグナ・サトコフスカ Dagna Sadkowska
パートナーのクラリネット奏者ミハウ・グルチンスキ Michał Górczyńskiとのアヴァン室内楽ユニット、クファルトルディウム Kwartludiumの一連の作品群で唯一無二の存在感を見せている実力者。
ミハウとダグナは2人とも内橋和久さんのポーランド人奏者との即興ライヴ・プロジェクト「今ポーランドが面白い」の#2で来日し、その確かな実力を見せつけてくれました。
試聴はクファルトルディウムが作曲家のダリウシュ・プシブィルスキ Dariusz Przybylskiとコラボしたアルバムを。
コルネリア・グロンツカ Kornelia Grądzka
今のポーランドで最もライジング・スターなコンポーザー、ハニャ・ラニ Hania Raniの作品群でその演奏を耳にしている日本のファンも多いヴァイオリニスト。
僕が編んだコンピ「ポーランド・ピアニズム」で紹介したのが日本での露出の最初なので「ジャズ」の人と誤解されてくくられてしまったきらいがあるのは申し訳なかったですが、新作「ノスタルジア」で聴かれるようにジャズ的要素も少しずつ入ってきてはいるので、その変化に付き合っているコルネリアも「ジャズ周辺」と言ってもいいのでは。
試聴はハニャ&ドブラヴァ・チョヘル Dobrawa Czocherのデビュー作「白い旗」(ハニャのオリジナル曲ではコルネリアを加えた三重奏になっています)と、この三人娘が揃って参加したクラシカル・テイストなアンビエント・ポップ・グループ、テンスクノ Tęsknoの1stを。
バルバラ・マヤ・マセリ Barbara Maja Maseli
ベテランのヴァイブラフォン奏者Bernard Maseli ベルナルト・マセリの娘さん。彼女については、お父さんのライヴ盤に1曲ゲスト参加しているくらいが目立った活動歴という段階なのですが、このすばらしい参加作を紹介したいのでむりやりにこの記事に入れました(笑)
ベーシストMaciej Sadowski マチェイ・サドフスキの、ポスト・クラシカルからサウンドスケープまでを横断する傑作に彼女が参加しています。
ミコワイ・ポスピェシャルスキ Mikołaj Pospieszalski
当初はハイセンスなアーバン・ポップ的な音楽だったダガダナ DAGADANAというトリオ・ユニットの正規メンバー。ドリカムの男女逆版(こちらは女2男1)とでも言えばいいでしょうか。近年ダガダナはワールド・ミュージック方面にサウンドが変化しています。
ミコワイはこのバンドでは主にベースを弾いているのですがマルチ・プレイヤーでヴァイオリンも時折聴かせてくれます。また彼はポーランドの音楽シーンに多数ミュージシャンを送り込んでいる音楽一族ポスピェシャルスキ一家の一員でもあります。
ヤロスワフ・ティラワ Jarosław Tyrała
クレズマー系の音楽を演奏する名グループ、ベステル・クァルテット Bester Quartetの初代ヴァイオリニスト。このグループは元々The Cracow Klezmer Bandという名前で、ジョン・ゾーンらが設立したTzadikなどからアルバムをリリースしていましたが、2012年の「Metamorphorses」からこのバンド名に変更しました。
試聴リンクのアルバム「Krakoff」はティラワが参加した最終作で、バンドはこの後ヴァイオリンが最初のほうで紹介したダヴィト・ルボヴィチに替わったのをはじめ、編成・メンバーともにかなりジャズ寄りに方向転換。
トマシュ・ククルバ Tomasz Kukurba
1992年に結成されたベテラン・トラッド・トリオ、クロケ Krokeのヴァイオリン/ヴィオラ奏者。初期はもろクレズマー系という音楽でしたが、ジャズやポップ畑のミュージシャンとのコラボなどを経て近年はかなりミクスチャーなチェンバーミュージックになっています。
試聴はポーランドを代表するヴォーカリスト、アンナ・マリア・ヨペク Anna Maria Jopekもゲスト参加し、最近は作曲者・指揮者としても大活躍中のジャズ・ピアニスト、クシシュトフ・ヘルジン Krzysztof Herdzinが音楽監督を務めたアルバムを。
ヴォウォスィ Vołosi
来日したこともあるミクスチャーなチェンバーユニット。編成はヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、ダブルベースという五重奏。ヴァイオリニスト二人はクシシュトフ・ラソニ Krzysztof Lasońとズビグニェフ・ミハウェフ Zbigniew Michałekという名前です。
試聴は最新作と、ハンガリーの鬼才ヴァイオリニスト、ライコー・フェーリクスとの共演動画を。
マルチン・ロレンツ Marcin Lorenc
ジャズ系のトンガリ・ギタリスト、マレク・コンジェラ Marek Kądzielaもメンバーのミクスチャーなトラッド・グループ、オトゥポチュノ Odpocznoのヴァイオリニスト。
よりトラッドな演奏も動画で載せました。
スィルヴィア・シフョントコフスカ Sylwia Świątkowska
ポーランドが世界に誇るトラッド・グループ、ワルシャワ・ヴィレッジ・バンド(以下WVB。ポーランド語ではKapela ze Wsi Warszawa カペラ・ゼ・フスィ・ヴァルシャヴァ)のヴァイオリン/擦弦楽器奏者。
WVBはジャズ・シーンだけでなくジャンルを問わず多様なミュージシャンとコラボレーションしてきた、ミクスチャーなポーランド・マインドを体現するバンドと言っていいと思います。
スィルヴィアはSuk スクという伝統擦弦楽器(ヴァイオリンよりも大きく、縦に構える)を弾くことのほうが多いですね。バンドだけでなく、彼女自身もマッツ・グスタフソンのアルバムに参加したりかなりボーダーレスな活動をしています。
カシャ・カペラ Kasia Kapela
ミニマルな音楽性がハマる女性トラッド・トリオ、スターリ Sutariのヴァイオリン奏者。スターリはアヴァンなチェンバーグループ、バスタルダ Bastardaとのコラボなど先鋭的なアルバムも作っています。
スターリの魅力が一瞬で伝わる映像作家ヴィンセント・ムーン撮影のものを載せました。
パウラ・キナシェフスカ Paula Kinaszewska
新感覚トラッド・トリオ、ヴォヴァキン WoWaKinのヴァイオリン奏者。エクスペリメンタル/ジャズ・シーンで大活躍のマルチ・プレイヤー/エンジニアのピォトル・ザブロツキ Piotr Zabrodzkiがゲスト参加した最新作↓がすごく良いです。
ヤヌシュ・プルシノフスキ Janusz Prusinowski
数年前に来日も果たした、ポーランドのトラッド・ヒーローの一人。前後に揺れる「訛りビート」を駆使した即興性あふれる演奏はジャズのミュージシャンにもファン多し。
自身のグループではあくまでトラッドを貫いていますが、本人はいたってオープン・マインドな音楽家で、グラジナ・アウグシチク GrażynaAuguścikのプログレッシヴな民謡ジャズの大傑作↓に全面協力しているほか、数々の他ジャンル作品でコラボしています。
オー・エス・テー・エル O.S.T.R.
実はポーランドはヨーロッパでトップクラスのヒップホップ・カルチャーが豊かな国。OSTRはこの国を代表するヒップホップ・クリエイターで、このアーティスト・ネームは本名のAdam Andrzej Ostrowskiのファミリーネームの最初の4文字からとられています。
国立映画大学があることで有名な都市ウッチの音楽大学ヴァイオリン科卒業という出自で、アルバムやライヴでしばしその腕前を披露してくれます。ジャズの要素を取り込んだサウンドづくりも彼の特徴と言っていいでしょう。
より詳しくは、ポーランドのヒップホップの専門家で「ヒップホップ東欧」(単著)や「辺境のラッパーたち」(共著)でも知られる平井ナタリア恵美さん(パウラのライター名の時も)のブログ↓も参考に。
レジェンドたち
ミハウ・ウルバニャク Michał Urbaniak
少年時代に旧ソ連のダヴィト・オイストラフに師事していたこともある天才ヴァイオリニスト/コンポーザー。60年代は伝説のジャズ作曲家クシシュトフ・コメダ Krzysztof Komedaのバンドにサックス奏者として参加していたマルチ・プレイヤーでもあります。
70年代前半に渡米してからはスティーヴ・ガッドやマーカス・ミラーなど後の巨匠たちと数多くのコラボを重ね、いち早く電子管楽器リリコンやヒップホップ・カルチャーに注目していたことも彼の先進性の一端かと。
マイルスの「Tutu」に参加など、アメリカのジャズ・シーンにおいて最も成功したポーランドのミュージシャンと言っていいと思います。近年は母国に帰って活動しているのも嬉しいですね。
試聴はエクスペリメンタル民謡ジャズ・ロックとでも言うべき初期の作品とアコースティックなジャズ・フォーマットでの名演、そしてパートナーの鬼才スキャッター、ウルシュラ・ドゥジァク Urszula Dudziakとのアメリカ時代のコラボの傑作を。
ズビグニェフ・ザイフェルト Zbigniew Seifert
故人。1979年に癌で亡くなった「ヴァイオリンのコルトレーン」。プロとしてのキャリアの初期は先進的なアルト・サックス奏者として活躍し、のちにヴァイオリンにスイッチ。彼もまた、この時代のポーランドの天才ミュージシャンに多いマルチ・プレイヤーです。
サックスのフレージングをヴァイオリンにアダプトさせたスピード感あふれる演奏であっと言う間に世界のトップ演奏家となった鬼才。
残念ながら寡作の人でもあり遺されたアルバムは少ないです。試聴は彼の名を一躍有名にしたMPS盤(ヨアヒム・キューンやセシル・マクビー、ビリー・ハート参加)と、ポーランドの国営ラジオ放送局のアーカイヴ音源を集めたもの、そして独自のチェンバー・インプロ音楽を極めたオレゴンとのコラボ作品を。
クシェシミル・デンプスキ Krzesimir Dębski
80年代に率いたフュージョン・バンドString Connectionと数々の名曲で一時代を築き、90年代以降はジャズと並行して映画音楽家としても活躍。近年では指揮者としても知られ、ポーランドを代表する巨匠となりました。
また息子のラジミル RadzimirはJimekという名で現代音楽のコンポーザーとして大活躍中で、ヒップホップとコンテンポラリー・クラシカルをミックスさせた独自の作風で知られています。
試聴リンクはS.C.の2012年復活作、珍しくいちヴァイオリニストとして参加したプログレッシヴなジャズ・ユニットBlow Upの傑作、そして実質的プロデビュー作でアレンジ、バックのオケ指揮、ピアノ&ローズにヴァイオリンと天才ぶりをいきなり発揮した「東欧ジャズ・ボッサ系」の傑作を。
マチェイ・スチシェルチク Maciej Strzelczyk
故人。カリスマ的な存在感、という感じの演奏家ではありませんでしたが、90年代のリリース・ラッシュ時に数々の名盤に参加、リーダー作リリースを続け、ポーランド流ジャズ・ヴァイオリンのスタンダード・スタイルを確かなものとした実力者です。
個人的には「Music for M」という1994年のリーダー作がアグレッシヴで大好きなのですが、いろいろ事情があって絶対に配信にはあがらないんですよ。というわけで、トランペットにマイケル・パッチェス・スチュワートが参加した最晩年のアルバムと、上記ズビグニェフ・ザイフェルトの楽曲を内外の著名ヴァイオリニストたちに1人1曲ずつ演奏してもらうというコンセプトの作品から彼の参加曲を。
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