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来年2月初単独来日決定!ハニャ・ラニ最新作「ノスタルジア」を聴くための音源集

ポーランドの才媛ハニャ・ラニの最新作『ノスタルジア』国内盤がコアポートから発売されました。海外盤はこれまでのソロ名義作品と同じく、UKマンチェスターのGondwana Recordsから。

オラシオはライナーを担当したのですが、2つ感じたことがあります。1つは、ハニャはまだアルバム・デビューしてから9年しか経っていないということ。その短い期間に最先端レーベルの一つであるGondwanaの看板アーティストの一人へと上り詰めてしまったことに驚きを禁じ得ません。
もう1つ。『ノスタルジア』は、そんな彼女のこれまでのキャリアと技法の集大成でもありつつ、これからの新しい一歩をとても強く感じさせる作品になっているということ。本作の感想ではおそらく従来の作品でも見られた「アンビエント」や「ミニマル」といった言葉が多く出てくるでしょうし、実際にそういう要素もたっぷりあるのですが、ポップ・ミュージックやテクノ、エクスペリメンタルなエレクトロ・ミュージックの手法をこれまでのどの作品よりも積極的に取り入れており、いい意味でとても「グルーヴ」を感じさせる音楽に変化してきています。

このすばらしい作品をぜひもっとたくさんの方に聴いていただきたいので、その音楽的キャラクターをもう少し理解しやすくするための音源集をまとめてみました。彼女とかかわりのあるキーパーソン/キーワードごとに見出しを設定しています。ここでご紹介する音楽を聴いてから『ノスタルジア』を聴き返すと、さらに味わい深くなるかもしれません。
ちなみに文中カナ表記にしているアルバムはコアポートをメインとして国内盤が発売されているものです。優れた見識を持つライターさんたちがライナーを担当しているので、ぜひ購入して読みながら聴いてみてください。

ちなみに、来年2月にハニャの初単独来日公演が決定しました。オールスタンディングという形式が『ノスタルジア』で見せた大きな変化を象徴している気がします。来日情報については記事の一番最後に載せました。見出しから飛べるので、気になる方はそこからチェックをお願いします。


ドブラヴァ・チョヘル Dobrawa Czocher

ワルシャワで学んだ大学時代からの親友でチェロ奏者。このドブラヴァが、ロック・フェスOff Festivalでの演奏用にオファーされたロック作曲家グジェゴシュ・チェホフスキ Grzegorz Czechowskiのカヴァー・プロジェクトを手伝って欲しいと頼んだことで、ハニャ・ラニのキャリアがスタートしました。
ドブラヴァとの二重奏でプレイされるチェホフスキの楽曲+ヴァイオリン奏者コルネリア・グロンツカを加えた三重奏によるハニャのオリジナル数曲という形でアルバム化されたのが、この才媛の記念すべきデビュー作『ビャワ・フラガ(白い旗)』(2015年)です。
個人的には、コンピレーション『ポーランド・ピアニズム』(2017年)でこのアルバムからの1曲(レプブリカ・マジェニ)をセレクトし、Gondwanaからのセンセーショナルなワールドワイド・デビューに先がけてハニャの音楽を日本にご紹介できたことは僥倖でした。
Gondwanaからのデビュー以上に驚かされたのが、ハニャ&ドブラヴァがあのクラシックの名門ドイツ・グラモフォンと契約したことです。そのDGからリリースされた2nd『Inner Symphonies』(2021年)はシンプルで美しいメロディが印象的だった『ビャワ・フラガ』とは全く違い、北欧系現代音楽家の世界に似た抽象的で壮大な音楽が展開されています。
DGからは『ビャワ・フラガ』のリマスター・ヴァージョン(2021年)もリリースされました。2015年のオリジナル、コアポート盤、DG盤はそれぞれ音質が違うので比べて楽しむのも一興かも。

ヴィクトル・オッリ・アウルナソンとアイスランド・コネクション

『ノスタルジア』のサウンド面での最重要パーソンが、アイスランド出身のヴィクトル・オッリ・アウルナソン Viktor Orri Árnasonです。
彼は鋭敏なセンスを持つエンジニアであると同時に、作曲家・指揮者・マルチインストゥルメンタリスト・プロデューサーとしても知られる非常に多才な人です。上記ドブラヴァとの『Inner Symphonies』でエンジニアとしてのヴィクトルとコラボしたことも『ノスタルジア』につながっています。
YouTubeで『ノスタルジア』のローンチ・コンサートがまるまるアップされていますが↓、演奏後にハニャとヴィクトルが並んでインタビューを受けるコーナーがあります。それくらい重要な存在なんですね。ヴィクトルはこのローンチ・ツアーの録音エンジニアを務めていますが、『ノスタルジア』のタイトル曲以外の全曲がこの時のライヴ(2023年10月6日)からセレクトされています。
ところでインタビュアーを務めているGondwanaのMariという方は日本人に見えるのですが、どんな方なんだろう。。。
(追記)同レーベルでイベント/マーケティング・マネジャーを担当されている木村真理さんという方だそうです!

さて、そのヴィクトルのDGからのリーダーアルバム『Poems』(2023年)は同じアイスランド人のソプラノ歌手アウルフヘイズル・エルラ・グズムンズドウッティル Álfheiður Erla Guðmundsdóttirと共同制作したものです。
このアウルフヘイズルはハニャの「アイスランド・コネクション」へのきっかけを作った人物ではないかとにらんでいます。と言うのも、オリジナル版『ビャワ・フラガ』のタイポグラフィを彼女が担当しており、『Esja』で重要な役割を担うエンジニアで作曲家・トロンボーン奏者のベルグル・ソーリッソン Bergur Þórissonとは「友人の友人という形でつながった」とハニャが証言しているからです。アウルフヘイズルがベルグルを紹介したのではないでしょうか?
ベルグルは後に共に影響を与え合う関係となるオーラヴル・アルナルズらアイスランドのキーパーソンたちとたびたびコラボ(例↓)しているこの国有数のエンジニア。彼がオーラヴルやヴィクトルをはじめとしたアイスランド人たちとの橋渡しを務めただろうことは想像に難くありません。

実は2部作『Esja』と『ホーム』

ハニャの音楽が日本のファンに知られていった経緯は、
『Esja』(2019年)でGondwanaから衝撃のワールドワイドデビュー!

ピアノエラ2019で演奏(ヴォーカルなども披露)

ヴォーカルやシンセ、リズムセクションに多重録音も導入した『ホーム』(2020年)で音楽家としての才能の幅広さを証明しファン層がさらに拡大
的な流れだと思います。
この時系列だと、ソロピアノの傑作『Esja』のネクストステップとして多彩なサウンド・タペストリーを描いて見せた『ホーム』、という理解になってしまうのですが、実はこの2枚、同時期に並行して制作を進めていた音源がもとになっているようです。上記ベルグル・ソーリッソンとの絡みも含め、そのうちのソロピアノ曲が先がけて『Esja』としてリリースされた経緯についてはライナーに記しました。
以前ラティーナ誌の依頼でハニャにインタビューした時(『Esja』リリース後&ピアノエラの直前)「(ピアノエラでは)歌も歌うと思います」と言ってて少し驚いたのですが、彼女としては「新しいことにもチャレンジする」ではなく、すでに完成に近づいていた『ホーム』のヴィジョンを披露するといった側面が強かったかもしれませんね。
ちなみに、ハニャのファミリーネームはRaniszewska ラニシェフスカといいます。彼女がそれを非ポラ語圏以外の人でもおぼえやすいラニとかわいく縮めてデビューしたこと、そして『ビャワ・フラガ』からの次の展開としてGondwanaにデモ音源を送ったことにとても戦略的なセンスを感じます。若者世代らしい「世界の見え方」というか。

ポーランドのポップ・シーン

ハニャ・ラニは海外のものを含めた数々のインタビューで繰り返し「クラシックの教育を受けて育ち、その経験が今の音楽づくりに役立っているのは間違いないが、自分としてはそこからもっと遠いところに行きたい」というような発言をしています。
それは、クラシック一辺倒というわけではなくロックなどを普通に愛聴する一般的な音楽リスナーだったご両親の影響もあるのかもしれません。彼女のそうした志向はもはやポスト・クラシカルのコンポーザーという枠組みに留まらない『ノスタルジア』の音楽性につながっています。
『Esja』で華々しくワールドワイド・デビューを果たす前から、彼女は貪欲にクラシック以外の音楽とのつながりを作っていました。近年ハニャがツアーなどで必ずセッティングしている愛機の一つにProphet'08があります。この動画のライヴ↓でもいじりまくってますね。

実はこのProphet'08、ワルシャワで知り合って親しい友人になった著名なヒップホップ・プロデューサーでDJのDuit(本名Paweł Krygier パヴェウ・クリギェル)から「買わない?」と言われて譲り受けたものだそう。作曲作業にも頻繁に使っているそうなので、まさに『ホーム』以後のハニャの音楽を形成する重要なピースでもあるわけです。彼女がいろんなジャンルの音楽家からの刺激を求めていたことがわかるエピソードでもあります。

またハニャは実際にポーランド国内のポップ・ミュージシャンとコラボもしていました。時期としては『Esja』と『ホーム』の間あたり。人気のシンセ・ポップ・トリオKamp!(アルバム『Dare』内の1曲。2018年)や、ドブラヴァもメンバーのチルなアンビエント・ポップ・ユニットTęskno テンスクノの1st『Mi』(2018年)です。後者では彼女はヴォーカルも担当していて、ポップ畑での仕事が『ホーム』制作の役に立ったのではないでしょうか。

ジェモヴィト・クリメク Ziemowit Klimek

ドブラヴァと並ぶ、ハニャにとっての最も重要なミュージック・パートナーがベーシストのジェモヴィトです。『ホーム』からハニャ・ファミリーの一員になっています。
彼はハイティーンでデビューした天才トリオImmortal Onionのメンバーで、このトリオはもろにゴーゴー・ペンギン影響下にある音楽性です。『ホーム』以後はツアーにもほぼ必ず参加していますし、『ホーム』の制作でも彼の尽力は決して少なくなかったはず。ちなみにドラムのヴォイチェフ・ヴァルミヤク Wojciech Warmijakも『ホーム』やツアーに参加することが多いファミリーの一人です。
モダン/ポスト・クラシカルなバックグラウンドから出発して徐々にポップやテクノ、または即興のモードをミックスしていく過程で、ジェモヴィトの存在から得たインスピレーションは決して小さいものではないでしょう。

『ノスタルジア』はポスト・クラシカル出自のコンポーザーという場所から「ポップ・シンガー」的な立ち位置に足を踏み入れた作品だと個人的には感じています。その「一歩」を象徴するのが、最近日本版が話題になっているtiny desk concertsシリーズへの出演ではないでしょうか。そこでもしっかりジェモヴィトがサポート。もはやなくてはならない相棒なのです。

ちなみにジェモヴィトもメンバーのImmortal Onion、今月下旬に来日します!25日が神戸100BANホール、26日が東京「晴れたら空に豆まいて」です。詳しくは↓のリンク先をご覧ください。

https://instytutpolski.pl/tokyo/concert-immortal-onion-michal-jan-in-kobe/

https://instytutpolski.pl/tokyo/poland-jazz-night-2024-in-tokyo/

ピアノ・ミュージック、そしてタイトル曲「ノスタルジア」

『ノスタルジア』はこれまで以上にエレクトロ・ミュージックやポップ・ソングの要素が導入されていますが、一方でアルバム・タイトルにするきっかけとなった美の極致とも言えるソロ・ピアノの名演「ノスタルジア」が収録されているのが重要な点です。
彼女が日本で有名になったきっかけは『Esja』だと思うのでそれを前提に書きますが、同作を聴いた人のほとんどが「おお、ポーランド人だからやっぱりヤスクウケ直系だなあ」と感じたと思うんです。実はライナーを書きはじめた当初、スワヴェクとハニャの対比という形で進めていました。
スワヴェクに『ポーランド・ピアニズム』(『ビャワ・フラガ』からの楽曲収録)の選曲についての感想求めた時、とても嬉しそうに「ハニャとドブラヴァじゃないか!彼女たちは今のポーランドで最も優れたモダン・クラシカルのユニットだよ」と反応していたのも記憶に残っていまして。
と、スワヴェクのほうからはハニャに対して一定以上のシンパシーがあるわけですが、巷で思われているほど彼女はヤスクウケから影響は受けていないんじゃないかと思うのです。手法がどうとかと言うより、音楽のもとになっている部分のベクトルが違うと言うか。
ジャズ・ミュージシャンであることと国内での活動に重きを置くスワヴェクは言わば「定点観測」的な音楽で、音楽的にも人間的にも常に「こことは違う場所へ」を目指しているハニャは「ドローン撮影」的な感覚なのではないかと。どちらがいいか悪いかという話ではなく、見ている世界が二人とも全然違うんじゃないかということですね。

ハニャはピアノ・ミュージックとしてはニルス・フラームの『Spaces』にかなり影響を受けているようですね。

『ノスタルジア』のタイトル曲は、演奏した自分自身をもインスパイアしたという「ピアニスト」ハニャ・ラニの現時点での到達点と言ってもいい究極の名演なのですが、個人的にはその一歩手前のステップとしてこのソロ・シングル「Kyiv」(2022年)↓を聴いて欲しいと思っています。
抽象的でありながら冷たさと温かさの絶妙のバランスをともなって聴き手を別世界へといざなう、これもすばらしい名演です。おなじみ「プレイング・ノイズ」にもイマジネーションがかきたてられます。
1曲でどっしりきちゃうくらいの濃密さで、この先ハニャはもう『Esja』的なオール・ソロは作らないで、『ノスタルジア』のようにアルバム内のワンポイント起用的な感じでソロ・ピアノ曲を入れていく形になるんじゃないかと予想しています。

映画音楽家としてのハニャ・ラニ

『Esja』や『ホーム』を聴いた誰もが予想したと思うのですが、やはりハニャは映画音楽家としての才能も開花させました。現状では以下4つの作品をアルバムの形で聴くことができます。
1)ミュージック・フロム・フィルム・アンド・シアター(2021年)
2)Venice - Infinitely Avantgarde(2022年)
3)オン・ジャコメッティ(2023年)
4)The Lost Flowers of Alice Hart(2023年)
(注:『ミュージック~』はいくつもの作品からのテイクをハニャ自らコンパイルしたもの)
それぞれに魅力的な作品ですが、特に重要なのは『オン・ジャコメッティ』でしょうか。Susanna Fanzun監督のジャコメッティの伝記映画のために作られた音楽の中からハニャ自身がコンパイルしたものです。
エフェクトの導入や曲によりドブラヴァの参加もありますが、ほとんどが『Esja』進化形的なソロ・ピアノとして聴けるもので、ジャコメッティの故郷であるスイスの山中の村Stampaに数ヶ月こもって制作されました。

この時の経験が『ノスタルジア』前章となるスタジオ・アルバム『Ghosts』につながったという意味でも、とても重要な意味を持つ作品です。「Kyiv」→『オン・ジャコメッティ』という順序で聴くと、ピアノ音楽クリエイターとしてのハニャが急速なスピードで深みを増していることがわかります。特に抽象的なアプローチの音の説得力・情報量がすごい。『Esja』のいい意味でフレッシュな音楽ももちろん良かったのですが。
ちなみに4)はシガニー・ウィーバー主演のアマプラ独占配信ドラマ『赤の大地と失われた花』のサントラで、映画音楽家のモードをあっと言う間に身につけたハニャの熟練のサウンドづくりが楽しめます。

『Ghosts』とGondwanaコネクション

以上の流れを経たハニャの「これまで」を全注入して制作されたのがスタジオ・アルバムとしては最新作となる『Ghosts』(2023年)です。自他ともに認める「都会っ子」だというハニャが『オン・ジャコメッティ』の制作のため過疎の地であるスイスの山奥で生活した経験は、彼女に強く「死」や「死後の世界」というものをイメージさせることになりました。
そうした「静的」なインスピレーションがもとになっている一方で本作は、様々な場所で録音されたソースを様々なスタッフのポスト・プロダクションによって仕上げた楽曲が一つのアルバムに同居するという、ハニャの「多拠点生活者的ヴィジョン」が強くフィーチュアされた多彩なサウンド・デザインが魅力の作品でもあります。
ライナーにも書きましたが『ホーム』以降の彼女はベルリン、ワルシャワ、レイキャヴィークなどなどさまざまな場所で録音したソースを組み合わせてアルバムに収録するスタイルを好んでいて、インタビューでも「自分が音楽を作った場所それぞれがホーム(=活動拠点)だと思っている」というようなことを繰り返し語っています。

『Esja』を繰り返し愛聴されていて、あの音楽のイメージが強い方が聴くと「けっこう音楽性が変わってきたな」と感じるかもしれませんが、個人的には彼女はデビュー当初から「このへん」の音楽を漠然と想い描いていたのではないかと感じています。これまでの作品(サントラを含め)は、このサウンドに到達するためのステップで、すべて彼女の中ではつながっているのでは。
特に目立つのがシンセによるリズム・アプローチの強化と、これまでになく前面に出たヴォーカルです。後者については、ピアノエラ後の大西穣さんによるインタビュー↓でも
"コンピュータを使う音楽は、大抵男性がやっています。そこで歌うのは珍しく、私独自のスタイルと言っていいかと思います"
と語っていますが、そのアプローチが一つの完成形に達したのが『Ghosts』であり『ノスタルジア』ではないかと思います。
ちなみに彼女はヴォーカルを「フロントに出てくるもの」とは必ずしも考えていないようで、バックに流れるレイヤーとして処理しつつ曲を組み立てたりもするとのこと。声の処理に関するアイディアは、レディオヘッドのトム・ヨークの手法からもインスパイアされたそうです。

本作ではまず、シネマティック・オーケストラとの数々のコラボがよく知られるカナダのSSWパトリック・ワトソン(Dancing with Ghosts)、オーラヴル・アルナルズ(Whispering House)といったコラボ曲が目を引きます。
また録音エンジニアリングに携わったのはハニャ本人やヴィクトル・オッリ・アウルナソン、ヤスクウケ『夢の中へ』など数々のポーランド・ジャズ名盤を手がけたイグナツィ・グルシェツキ Ignacy Gruszecki、ピアノエラ2019の音響でも敏腕をふるったサウンド面でのパートナーと言えるアガタ・ダンコフスカ Agata Dankowskaを含め実に9人!
ドブラヴァやコルネリアらストリングス、ジェモヴィトやヴォイチェフなど古くからのファミリーもこぞって参加。まさにこれまでのキャリアの総決算のように感じられるクレジットとなっています。

特に注目したいのはGondwanaメイトでもあるポルティコ・クァルテットのダンカン・ベラミーと、ほとんどの曲のミックスを担当した名匠グレッグ・フリーマン。グレッグは『ノスタルジア』でもミックスを担当。まさにGondwanaコネクションですね。
ダンカンは『Ghosts』『ノスタルジア』の収録曲の中でハニャの「新しい一歩」を最も感じさせる2曲、フィメール・バラッドの名曲と言ってもいい「Don't Break My Heart」とEDMやテクノの要素も強い「Thin Line」に参加しています。
そもそもダンカンとは当初「Hello」でコラボする流れだったそうですが、彼がリズムを大きく変えてしまったためにハニャのヴィジョンから外れてしまいました。それでもどうしてもダンカンに参加してほしいという気持ちから新たに作り出したのが「Don't~」や「Thin~」のようです。
また、ダンカンはヴィジュアル面でも協力。自身も参加するデザイン・カンパニーVeil Projectsが『Ghosts』『ノスタルジア』のジャケットのデザインを手がけています。
↓1名目はダンカン、Veil Projects、グレッグの三者がコラボしているポルティコQの最新作。2枚目はグレッグのGondwanaでのすばらしい仕事ぶりを味わえるジャスミン・マイラの『ライジング』(2024年)。彼は今や同レーベルになくてはならない存在です。

そして『ノスタルジア』。「ライヴ・ミュージシャン」ハニャ・ラニ

最新作『ノスタルジア』は『Ghosts』のライヴ・ヴァージョンと言ってもいい作品です。が、ダンカンやオーラヴルらゲストはいませんし、ストリングスやシンセなどの残響感もかなり違い、とても生々しく力強いサウンドになっています。また、多くの曲がオリジナル版より長く演奏されていて、再現度の高さとアンサンブルのリアレンジ&即興の要素を可能な限りバランスよく両立させている感じを受けます。
こうした2枚のサウンド・デザインの違いは、ハニャのヴィジョンとヴィクトルやグレッグのセンスとスキルがいい形でコラボして生まれたものだと思います。きっとその辺は意図していることだと思うので、聴き比べもきっと楽しいはずです。

YouTubeには彼女のファンにとっては「定番」とも言えるライヴ映像が数多くアップされていて(上に挙げたTiny Desk ConcertsやKXMP含め)、そもそもロックフェスで演奏する二重奏プロジェクトからスタートしていることを考えると、ハニャって意外と「ライヴ」の人なのだなあと改めて思います。

イクイップメントに取り囲まれた近年の姿は貫録とオーラを感じさせますが、一方でいつもシャツとパンツルックというシンプルなファッションで統一しているのもなんだか「らしい」ですね。いい意味で「気の置けない感じ」「風通し良さそう」なのが彼女の音楽の魅力の一つかもしれません。自然に周りにコミュニティが出来上がっていくような音楽と言うか。

最後にこの『ノスタルジア』に至る道、ということでライヴ動画をいくつか載せておきます。特に彼女がプレイするハードの変遷が興味深いのではないかと。こうした演奏を経て、完成したのが『ノスタルジア』の音楽世界です。彼女の次のステップが大変気になるところですが、まずはこのすばらしい作品を存分に楽しみましょう。

来年2月、初単独来日公演決定!

ピアノエラ2019に続く再来日で、情報が少なかった当時とは違い上で書いたようにライヴ・アーティストとしてのスタイルも確立したハニャが待望の初単独公演を行います。この記事やアルバム、動画の数々でたっぷり予習してから行くと、楽しさがアップするのではないでしょうか。
繰り返しますが、スタンディング・ライヴという形式は賛否あるかもですが『ノスタルジア』で見せたハニャの「新しい姿」、音楽の大きな変化を感じるのにはいいやり方じゃないかな、と思います。
2/17 KANDA SQUARE HALLにて。
詳しい情報は↓


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