見出し画像

コラム:ナラティブ・インテリジェンスって何ですか?(2)

依田真門(まこどん)

ナラティブ・インテリジェンスとは、物語の力を使って人間の行動や社会の動きを理解すると共に、それを活用して周囲に影響を与える能力、と前回のコラムでお伝えしました。

「私には夢がある」の演説で『差別反対』の声を合衆国中に広げたキング牧師は、卓越したナラティブの使い手だと思います。“肌の白い子供たちと肌の黒い子供たちが、バージニアの丘の上で一つのテーブルで食事をしている”そんな場面の描写が新しい時代の物語を人々に焼き付け、世の中を大きく動かしました。

宅急便で知られるヤマト運輸元会長の瀬戸薫は、課長の頃に当時社長の小倉昌男からクール宅急便の事業化調査を任されました。瀬戸は、小倉が徹底した市場調査のデータを基に宅急便ビジネスを拡大させていた様子を見てきていたので、まずは“クール”市場の実情を綿密に調べるところから始めました。

調査の結果、クール市場が5度前後の「冷蔵帯」、0度近辺の「氷温帯」そしてマイナス10度の「冷凍帯」の3温度管理が合理的であること、投資の額が莫大で、特に「冷凍帯」での配送を安定化させようとすると、150億円というとんでもないコストがかかること、等が見えてきました。いくつかシミュレーションを行った上で、高コストの割に需要が小さかった「冷凍帯」を外し、「冷蔵帯」、「氷温帯」の2温度体制として小倉に事業化プランを示しました。

その時の小倉の反応が以下です。

「瀬戸君、資料の見方って二通りあるのだよ。それで需要が無いと思うのか。それとも、コールドチェーンが発達していないから需要が無いのか。これは両方読めるよな。」
「僕は後者の方だと思う。コールドチェーンが発達していないから冷凍食品の普及が遅れている。こちらにかけるよ。うちがインフラを作れば、冷凍食品は一気に拡大するはずだ。」

クール宅急便が始まったのは’80年代末ですが、その後の展開は当に小倉が言う通りだったと分かります。この一言が無ければ、クール宅急便は生まれなかったかもしれません。データ重視、エビデンス重視という態度をとっていても、それに縛られて発想を収束させてしまう“瀬戸型”か、そこを起点に新しい物語を想像する“小倉型”か。ここで現れた違いは微妙に見えて画期的な違いだということが分かるでしょう。

ナラティブ・インテリジェンスは、この違いを生み出す知性です。そしてそれを働かせる中核の意識とは、他者の視点を内側に入れて思考できる能力。上の小倉のケースで言えば、“この美味しい魚を孫に食べさせてやりたい”というおじいちゃん、おばあちゃんの思い描く『物語』に心を寄せる力や、“その為の配送料2,000円なら全然惜しくない”というユーザーの金銭感覚をイメージ出来る能力、そしてそれらの視点を加えて全体を思考できる能力、という様に纏められるだろうと思います。

では、こうした能力を磨くのに何をしたらいいのか。次回はその辺りについて書きます。

_/_/_/_/ ホープワークニュースレター vol.39_/_/_/_/
<希望の便り from ホープワーク協会>2024.11.15