コラム:ナラティブ・インテリジェンスって何ですか?(3)
依田真門(まこどん)
『物語の力を使って人間の行動や社会の動きを理解すると共に、それを活用して周囲に影響を与える能力』。ここまでの2回の連載で、ナラティブ・インテリジェンスについて、このような説明をしてきました。
ナラティブ・インテリジェンスって、何ですか(1)
ナラティブ・インテリジェンスって、何ですか(2)
こうした能力はクール宅急便の様な事業プランを考えたり、政治家が目指すべき新しい社会の姿を有権者に示したりする際に有益なものと考えられます。物語とはいえ、ビジネスプランを練ったり、社会変革の方向を示すとなれば、フィクションでありつつも現実感が伴う内容でなければいけません。
地に足の着いた、かつ人をワクワクさせるような未来図を描く力こそが、筆者がここでナラティブ・インテリジェンスと呼んでいるものです。では、どのようなことをすれば、その能力を磨くことが可能になるのか。ここでは、以下の8つのステップで思考を展開させていく方法をご紹介します。
希少で特殊なケースに焦点を当てて、それが起きた場合の人々の“行動”を想像する。
“登場人物”のターゲット(SSW=Super Specific Who)を絞り込んで、個別具体的に行動イメージを膨らませる。
その時、〇〇氏は… と、行動を推測する。その人の視点でその時点でのニーズ、期待、不安、怖れをイメージする。
その時自分達(自分の会社、自分のチーム、等)が役立っているとしたら…、と考えていく。自分たちの経験知、身体知に照らして、“出来そう”、“起こりそう”を考える。生成AIなどの助けを借りてもよい。
ストーリーを試作する。試作したら関連のデータを集める。ここも生成AI等の助けを借りる。
関連のデータは公に発表されているもの等信頼性の高いデータを集める。そのデータを起点に発想を広げる。確認にあたって生成AI等の助けを借りる。
ストーリーが出来たら読み返してみる。誰かに話して反応をみる。更に練り上げる。
SSWを変えて別のストーリーも考えてみる。条件を動かしていくつも考えてみる。
希少で特殊なケースというのは、例えば“全企業に75歳定年制度が強制的に導入される”とか、“女性の管理職比率が3割以下の企業は法人税が5%増額される”、“首都圏にマグニチュード7.5の地震が発生する”といった感じです。SSWの例としては、“都内のIT企業でマーケティングを担当している33歳独身の女性”とか、“アパレルメーカーに35年経理マンとして勤めてきた58歳の男性”等です。
上記8つのステップは「世界はナラティブで出来ている」(青土社)の著者であるアンガス・フレッチャーオハイオ州立大学教授が示している3つの物語思考スキルを、筆者なりの解釈で展開させたものです。個別特殊な状況設定でイメージを膨らませ、それと現実データが繋がるように修正を施していこう、という考え方です。
アンガス・フレッチャーは同じ著書の中で、物語をつくることはAIには出来ない、という主張もしています。ですが上記の様に状況を設定してやって、そこからあり得る展開を描かせる限り、AIは大いに力を発揮してくれます。なので私はAIをガンガン使って物語を描かせる、という方法は大いにありだと思っています。
次回は一つ例題を考えて頂きながら、ナラティブ・インテリジェンスの磨き方について更に考えたいと思います。
_/_/_/_/ ホープワークニュースレター vol.41_/_/_/_/
<希望の便り from ホープワーク協会>2024.12.13