コラム:ナラティブ・インテリジェンスって何ですか?(1)
依田真門(まこどん)
AI関連の本を読んでいたら、“物語構造を学習させてナラティブ・インテリジェンスを高める”の様な話が展開していてへぇー、と思いました。コンピューターと物語には感覚的な距離を感じますが、その距離は急速に縮まるどころか、AI自体が物語をジャカジャカ産出してしまうということらしいので、こちらの認識を大きく変えなければいけなそうです。
ナラティブ・インテリジェンスとは、物語の力を使って人間の行動や社会の動きを理解すると共に、それを活用して周囲に影響を与える能力を指します。昨今、マーケティングやリーダーシップの領域でかなり使われ始めている用語だと感じています。
“インテリジェンス“というと、論理性とか実証性などを重視する感じがしますが、ナラティブ・インテリジェンスはデータやMECEみたいな”縛り“から離れて、もっと自由に発想を広げていく為の知性と捉えられるものです。
この能力の中心は、「なぜ」と「もしそうなったら」を考える力です。例えば「古着市場がいま急成長している」という現象の「なぜ」を考えてみるようなケースです。限られた断片のデータを基に、「“サステナブル“への関心が強いZ世代の購買力が急拡大しているからだ」等と推測する力がこれです。また「AIが普及した先の外食産業はどうなっちゃうだろう?」の様な予測もこの力です。物語的な因果関係を読み、起こりそうな(起こっていそうな)ことを、心の中でモデル化する能力です。
こんな風に、よく分らない領域の点と点を繋げて物語にしていく力は、もっともらしさ、とか、いかにもありそう、あるいは、そうなっていそうだ、と聞き手に感じさせる筋立ての構想力です。多くの聞き手が“なるほど、そうかもしれない”と受け止めるということは、語られている物語が様々な現実と矛盾せずに成り立っている、ということで、ナラティブ・インテリジェンスとは当にそうした“もっともらしい”筋を生み出す力を指しています。
この様に書くと、詐欺師やいかさま野郎の単なる作り話みたいにも聞こえるかもしれません。確かに紙一重ですが、そこは使い手の意図次第というべきでしょう。手のひらサイズのパソコンが出来たらこんな世界が生まれる、と構想したスティーブ・ジョブスを、私たちは詐欺師扱いする訳にはいかないはずです。
この能力の根底にあるのは、社会の仕組みや文化への造詣、そして人間心理の深い理解なので、一朝一夕に身につくものとは言えません。とはいえ、日常的なトレーニングによって強化することは可能です。効果的にメッセージを伝えたり、人を説得したり、組織の行動計画を作ったり、チームの結束を強化していくにあたって、有益な武器となるものであり、論理への囚われが特に強い日本のリーダーは、率先して学ぶべき能力だと思います。
では、この能力が実際どんなところで生かされているのか?
次回にご期待ください。
_/_/_/_/ ホープワークニュースレター vol.37_/_/_/_/
<希望の便り from ホープワーク協会>2024.10.18