岩塩

塩(しお)のお話3-塩でにおいは変わる!-

3話目です。個人的にはいちばんおもしろいんですがさらっと読んでいただければ。

塩(しお)のお話2

塩(しお)のお話3

1.塩のpHを考える「塩の選択」

 さてここからが大事です。今までのことは頭の片隅においておいてください。いままで出会った方々で塩のpHを気にした方を見たのはごく僅かでした。
 塩のpHどうやって測るの?というとpH試験紙でまずはやってみましょう。

これはpHメーターでは1%の水溶液の状態でpH10を示す食塩なんですが、試験紙が示したのは中性。pH試験紙では測れませんね。もう少し食塩を溶かす量を濃くするか、濡らしたpH試験紙に結晶を押し付けてみましょう。

 変化しましたね。ここで驚きましょう。pH10までいく食品はなかなかありません(こんにゃく、卵白、コーヒークリーマー、腐敗したサメ・エイくらいでしょうかね?)。もちろんpHメーターであれば低濃度でも測定できます。

安いpHメーターはなんか見た目と持った感じが微妙なんだよなぁ…(←もってる)。校正も楽でいい感じのpHメーターご存知の方教えてください笑。

2.アルカリ性の塩を手に入れて実験してみよう!

 アルカリ性の塩というとエセ科学とかの塩(しお)を想像しますが、さっき実験でやったように、本当にアルカリ性の塩(しお)がありました。手っ取り早いのが食卓塩。サラサラの塩です。なんでサラサラしているかと言うと、にがり成分があると潮解性(じめっぽくなる)があり高温で焼いて、その成分を違う物質に変換しているからです。先人の知恵ですね。

 炭酸Ca(カルシウム)や炭酸Mg(マグネシウム)なども添加しているものがありますが、これもアルカリ性を示します。
 ではアルカリであるとどんなことが起きるか、私的に一番わかりやすい方法で実験してみましょう。さっきから使っている塩はこれ。ハナマッサーで買いました。そんなもんないって方は重曹やペーキングパウダー(たぶん大丈夫)などでもOKです。

■準備するもの
生しいたけ 1つ(海外産でもOKです)
アルカリ性の塩を溶かした1%食塩水 20ml

まずは生しいたけの傘の部分をザックリ細かく刻みます。2つにわけて一方はお水20ml入れましょう。もう一方はアルカリ性の塩を溶かした1%食塩水20mlを入れましょう。1時間から半日ほど(重曹の方はもっと短くてOK)それぞれの容器にフタをして、室温で放置します。余裕があれば40-50℃くらいに温めて上げると反応がより早く進行します。

はい。

すごいですね。重曹でやった方はいきなり顔を近づけてにおいを嗅ぐと、5分くらい鼻について取れませんので注意。鼻が死にました笑。シイタケ嫌いのヒトに嗅がせればグーパンは間違いなしです。

 乾燥シイタケ特有のにおい…というか1個ですごい破壊力を持つ臭いが生成されています。トリュフにも負けない力強いにおいかと。これはシイタケの持つアルカリ性条件下でよく働く酵素の活性が促され、干しシイタケの香りを特徴づける含硫化合物(レンチオニン、ジメチルトリスルフィド、テトラチアン類)が作られるからです。ちなみに硫黄原子の含まれる含硫化合物のにおいはこのような系統のにおいになることが多いのが嗅覚の世界のおもしろいところですね。

3.においを変える塩

 先程はpHで酵素活性を操って香気成分を生成させました。またそのまま素焼きした肉と塩を振って焼いた肉では発生するにおいが変わってきます。これは塩溶タンパク質の影響や表面pH、表面アミノ酸濃度の変化、タンパク質編成促進などいろいろ考えられます。
 
さらに油の多い部位の表面温度は局在的に100℃を超える激しい反応場であることが考えられます。特に加熱によるメーラード反応が促進されやすい温度帯に近づくことやpH条件(中性から塩基性で起きやすい)、各種アミノ酸のラセミ化反応(L-アミノ酸がD-アミノ酸に変化し50:50の量に近づくまたはその量(DL-アミノ酸)になること)などが起き、風味(味+におい)化合物が複雑に生成していくことでしょう。

 つまり焼くときにアルカリ性の塩を用いることはとても賢いことになります。じゃあ重曹でいいの?というと濃度によります。重曹はそのもの自体がアルカリ性で、薄めて使用すれば問題ありませんが、使用濃度が過ぎると肉や魚に使用した場合アミン・アンモニア系の生臭いにおいが揮発できるようになってしまい、なんとも言えない生臭い焼き上がりになります(それはそれでおもしろいんですが、食べるときに死にます)。


 今日はここまで。ちょっと専門的なワードが増えましたが、アルカリ性の塩をはじめ酸性の塩もあります。塩の中に微量に含まれる酸またはアルカリ性の物質ですがそれらがさまざまな反応を起こし、ヒトは敏感に味覚・嗅覚はたまた食感などで識別します。つまり微生物にも大きく関与し、発酵などでもその効果は大きく(良い方向にも、悪い方向にも)現れるかもしれませんね。

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高橋貴洋(Taste&Aroma)
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