「まにまに」 西加奈子
ここのところ、雨が続いている。しかも本格的な雨だ。外出する気も失せるほどの雨。加えて、娘が発熱し、ますます外出する機会は減る。あれもこれもやらなきゃなぁと、やるべきことはたくさんあるが、やる気スイッチは一向に入らない。
そんな時に、ふと、「そうだ、小説読んでみようかなぁ。」と思い立つ。私はこれまでの人生で小説を読んだことは1、2冊ほど。はっきり記憶しているのは、村上春樹さんの「海辺のカフカ」。兄の本棚からなんとなく借りて読み始めたら、一気にストーリー展開にはまってしまい、読み進めた記憶がある。
自分の中で「小説は苦手」という意識が、どこかにある。なぜか考えたときに、思い付いたのは「文字だけで情景をイメージするのが苦手」だから。そんな勝手な苦手イメージから、小説を読むことを避けてきた。
そんな中で、最近、自分の言語力の乏しさを痛感する日々。「そういえば、小説って、言葉で物事を表現する魔法の宝庫じゃないか!」と思いたつ。そう気づいて、小説を読んでみたいと思うようになっていた。
そんな想いと、雨で外出できない、家で何をしようという状況が見事にマッチして、小説を読むに至った。
と、言っても何から読んでいいのかもわからず、家にあった夫が読んだ小説を一通り眺める。なんとなく手に取ったのは、西加奈子さんの「まにまに」。正確にいえば、小説ではなくエッセイ本。でも、この本からスタートして本当に良かったと思う。
この本は、32歳だったときの西さんが、40歳の入り口にくるまでの間に感じた様々なことを、なすがままに、正直に自分の感情と向き合った文章が綴られている。
日常に起こる様々な出来事を、西さんなりの解釈で書かれているのだが、どこか共感できることが多かったり、その出来事からこんな結末に結びつけるのか!と西さんの着想に圧倒されたりした。私たちの人生で起こる、様々な出来事は、こうして文章にして残すことで、なんとなく過ぎ去ってしまうのを形として残すことができるし、何気ない出来事に意味が生まれてくるのだなぁと感じた。
「まにまに」の中で気に入った箇所は、「第4章 本のこと」だ。私は西さんのかく文章の表現に、同じ人間でもこうやって言葉を使いこなして表現することができるのかと感動したのだが、西さんも同じように、様々な本を通して、作家たちの文章表現に触れ、たくさんのことを感じている。その文章を私が読んで、さらに、その作家たちの本に触れてみたいと思う。言葉、本の持つ力ってこういうところにあるのか、と改めて知ることができた。
西さんも本の中でこんな風に書いている。
「改めて世界に作家がいてくれて良かったと思っている。私に「どうして❔」を教えてくれた人、私に光をくれた人、私の背中を押してくれた人。」
「本の力が、光が、もっともっとたくさんの人の心に届くようになってほしい。」
「シングルストーリー(一つの物語しか見ない事によって、その物語がその世界の全てだと感じること)の危険性について話している」
「本を閉じた後も、自分の現実は何一つ変わらない。でも、一度物語を通過した視線で見ると、世界はどこか違った輪郭を持ち始める。物語は、私の視界をクリアにし、新たに見直す力をくれるのだ。」
やはり文章を書くことを仕事としている人が書く、文章は素晴らしいなぁ。