最近の記事

幸せのおすそわけ

誰だって幸せになりたいに決まってる。 「うちの課で結婚してないの、お前だけじゃないか!」 華やかな祝いの席。 顔を猿のように赤らめた上司が、何がおかしいのか、ニヤついた顔を向けてわたしに言った。 「あなたも独身ですけどね」 なんて言えるわけもなく、「本当に、参っちゃいますよね〜」と、歳を重ねるにつれて上手くなった薄ら笑いで応えた。 今日は会社の後輩の結婚式。 いたるところに彼女らしさが盛り込まれていて、挙式はダズンローズの人前式。12本のバラを新郎がゲストからもらい

    • わたしはゆずを好きになれない

      ゆずが好きな人は多い。 ただしここで言うゆずとは果物のゆずではない。ミュージシャンの〝ゆず〟のことだ。 ゆずと言えば清々しくポジティブな曲が多く、彼らの曲を好む人もまた、総じて明るく元気な人が多いように思う。 そして高校時代、わたしの好きな人もそういうタイプの人だった。 --- クラスが同じで、共通の友人がいて、グループで彼の家にお邪魔する機会もあった。 彼の部屋には控えめにギターが置いてあって、わたしは静かに興奮した。邦楽ロックばかり聞いていた当時のわたしにとって

      • さよならとおかえりのあいだ

        2018年5月10日。 世間を大いに賑わせたニュースが、twitterを通してわたしの元にも届いた。 ELLEGARDENの復活だ。 2008年9月、活動休止を発表してから約10年。 当時わたしは大学生で、エルレを知ったのは確か中学卒業〜高校生になった頃だった。よく聴いていた音楽といえば、「バンプ」「アジカン」「ストレイテナー」「チャットモンチー」「フジファブリック」etc...。恥ずかくなってしまうほど典型的なロキノン厨だ。 わたしの高校生活は部活漬けの毎日で、帰っ

        • 女に呪いをかけるのもまた女なのかもしれない

          「女の子は大きくなったら、みんなキレイかお姫様になれるんだよ」 今期の月9『海月姫』を観た。 原作と設定が違う!とか、瀬戸くんの美少女感がすごい、なんて思いながら観ていたのだけど、何となく引っかかったのが、先に書いた月海の母の言葉だ。 冴えない外見の主人公・月海は自己肯定感が低い。おしゃれ人間を別世界の住人だと思っているし、自分が可愛いとは少しも思っていない。 女装した蔵之介を見て、お姫様はこういう人のことを言うんだと自分との差に絶望し、諦め、その姿に憧れることもない。

          2本のバラ

          仕事を終え、洗濯物を取り込み、夕飯の準備をする。 何も変わらない、いつも通りの日々。 ひとつ違うことがあるとすればそれは、今日がわたしの誕生日である、ということだ。 ・ ・ ・ 「何でもない日にお花とかくれる男の人って、本当に存在するんですかね?」 職場の後輩が視線はパソコンに向けたまま、急にそんなことを言った。 彼女には長く付き合っている彼氏がいるが、一度も花を買ってくれたことはないらしい。 「別にね、お花じゃなくてもいいんですよ。何でもない日に、美味しそうなケ

          2本のバラ

          男は失恋を美化したがる

          涙は出なかった。 読み終えてホッと息をついてから、わたしはわたしの大切な人のことを想った。 ・ ・ SNS上で話題になっていたし、その好みの装丁から本屋へ立ち寄った際に思わず購入した燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』。 自己啓発本ばかり読んでいたので小説、しかもハードカバーのものを買うなんてかなり久しぶりだ。 ストーリーとしては、平成生まれで田舎育ちのわたしには正直すんなり入ってこない部分が多かったのだけど、どこかぼんやりとした世界は今にも消えてしまい

          男は失恋を美化したがる

          “働く”ということ

          テレビをつければ、その名を見聞きしない日はないのではないか。そんな個人的ツートップが、星野源と高橋一生だ。 そんな話題の人、星野源著『働く男』を先日ようやく読み終えた。 わたしが彼の名を初めて認識したのは、確か映画『聖☆おにいさん』のブッダ役&主題歌を歌っている人、としてだった。 だから、星野さんがそれ以前に演劇の仕事をしているなんて知らなかったし、書く仕事までしているとは想像もしていなかった。 《書く男》では過去に連載していた映画コラムを紹介しているのだが、読み進

          “働く”ということ

          正義を振りかざす女たち

          小学生のとき、「先生に言うよ〜」が口癖の女の子がいた。男子がちょっと悪ふざけをしたり、彼女をからかったりすると、すぐに怒ってこう言う。 けど、本当に先生に言うことはない。 それでも彼女は、間違いなく自分は正しいと思ってこの言葉を使っていたはずだ。 誰が正しいのかなんて、実際のところはわからないことの方が多い。とくに小学生のいざこざなんて、些細なことの積み重ねだ。 それが大人になっても、自分は正しいと信じきっている人がいる。 不倫する人を批判するのも、不幸があった後

          正義を振りかざす女たち

          使いたくなるあの名言

          小説や漫画を読んで気に入ったフレーズがあると、つい日常生活でも使いたくなってしまうのはわたしだけだろうか。 人が恋に落ちる瞬間をはじめてみてしまった 最近、使いたい!と思ったこのフレーズ。 羽海野チカさん原作『ハチミツとクローバー』で使われていて、とっても印象的なコトバ。 仕事帰りの夕方の電車。 見かけた中学生らしき男女の会話が、わたしにはあまりにもキラキラして見えたのだ。 女子「あ、お疲れ〜。野球部は試合?」 男子「そう、今日も負けたー」 女子「次は頑張れ

          使いたくなるあの名言

          瞬間ノスタルジー

          夏は夜。 といったのは清少納言だけれども、わたしも夏の夜が好きだ。 とくに日没前の、淡い青とまぶしいオレンジ、底に沈む紫のグラデーションを見るとたまらなくなる。 そうしてわたしの頭の中は、とたんに“ノスタルジースイッチ”へと切り替わるのだ。 草の匂いがした。もう19時だというのに、空はまだ明るい。あぁ、夏が来たのだ。 彼女は沈む夕日に目をやりながら、十数年前の夏の日を思い出していた。 こんな風に、ただ自分のモノローグを無駄に物語のヒロインかのごとく思い浮かべ

          瞬間ノスタルジー