小さな駅前の風景を心に焼きつけて
ある日突如として更地があらわれる。
都会ではよくあること。
えっと、更地の前のここはなんだったっけ。
よくある夫婦の会話。
しばらく通っていなかった道。気づくとマンションが建っていたり。巨大スーパーやドラッグストアができている。
この地域に30年近く住んでいるけれど、あたりは目まぐるしく変わっている。
越してきたころの駅前はどんなだったっけ?子どもの通学路には何があったっけ?
うまく思い出せない。
新しい街なみはすぐに定着し生活の一部になる。過去はどんどん忘れさってしまう。まるで存在していなかったかのように。
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近くの駅はもうすぐ高架工事が始まる。
完成すると大きく景色が変わるだろう。
今はまだ階段を数段のぼると改札があって。ホームがあって。これがいいのよね。高架の駅になるとなかなかホームまでたどりつけない。
ロータリーにはバスが一台。順番に乗る人たち。「どこそこは行きますか?」運転手に大声で話しかけるおじさんがいて。
駅前広場にはいつもキッチンカーが止まっている。
大きなのぼりがはためく。今日はたい焼きやさん。
子どもたちを遊ばせながらお喋りにふける母親たち。
改札口の右手には売店。奥ではおばちゃんが座っていて口を隠しながら大あくび。
足早に駅に向かう人。
「ふぅ帰ってきたよ、やれやれ」
疲れをいやす人たちと。
踏切りを待つ長い車の列。
夕方のラッシュ時にはなかなか開かない。
高架の駅になると車の列はなくなるだろうけれど、人は増えるのかな、お店も変わるだろう。便利になりそうだけど、不便なりにのんびり過ごしていた駅前は消える。
今の風景を見ている私もいなくなりそうで、あわてて小さな駅のすがたを深く心に焼きつけてみる。
忘れさってしまわないように。
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