『キンキーブーツ』日本版を巡る気持ちの変化
日本で三度目の公演となる『キンキーブーツ』。
初演、再演と見ていない私は、初代ローラの春馬くんが永遠にローラ役を降りてしまってから、春馬ローラに、『キンキーブーツ』にすっかりはまってしまった一人だ。
先日、とうとう生で『キンキーブーツ』公演を見た。
今回のnote記事は、『キンキーブーツ』を巡る私の気持ちの変化を中心に記そうと思う。
ありのままに。
自分の気持ちの整理のために書いた記事なので、あまりミュージカルレビューになっていないと思うので、悪しからず。
『キンキーブーツ』日本版再演を観に行かなかった後悔
そもそも、見るチャンスはあったのだ。
2019年『キンキーブーツ』再演を迎える数か月前に、ある方に
「先行予約でチケットを一緒に取ってあげようか」
と声をかけていただいた。
ちょうどその頃我が子の受験を控えていた私は、気持ちに全く余裕がなく
「4月以降の予定もわからないし、今回はパスします。次の再々演で見ます」
と断ってしまったのだ。
2020年7月、春馬くんが永遠にローラ役を降りてしまってから、あのチケットのお誘いを断ったことをどれだけ悔やんだことか。
そこから、私は本気で『キンキーブーツ』を学び出した。
Youtubeを駆使して、過去の囲み取材やゲネプロ公開の映像を見漁った。
そして2020年10月、『Kinky Boots Haruma Miura Tribute movie』が公開された。
ありがたい気持ちと共に、悔しさと悲しさが半端ない。
ブロードウェイスタッフが絶賛する春馬くんの努力と謙虚さと優しさ。
圧倒的なダンスと歌と演技。
この映像を見てはしょっちゅう泣いていた。
松竹ブロードウェイシネマ『キンキーブーツ』鑑賞の頃
2021年3月、ウェストエンドで上演された『キンキーブーツ』の舞台を撮影した映画が日本で公開された時には、『Kinky Boots Haruma Miura Tribute movie』や公開ゲネプロ映像、CD音源などで細切れに把握しているストーリーを一続きで体感したい、と思いミュージカル好きの我が子達と観に行った。
この映画を見て、私はたくさんの感動と教示をいただき、『キンキーブーツ』日本版の再々演を切望する気持ちになった。
いつか日本で再々演される時には、絶対に見に行こう、とそう思った。
そう思っていたはず。なのに。
『キンキーブーツ』日本版再々演のニュースに激しく動揺する
2021年11月、突然『キンキーブーツ』公式さんから、再々演のニュースが発信された。二代目ローラは、春馬くんとも親交があった城田優さん。
その時の動揺した私の呟き。
その時の心情を自分なりに分析してみたnote記事。
既に日本のミュージカル界で評価されている城田さんが、春馬くんが見られなかった栄光を見るのかもしれない、というそのことで、私は嫉妬していると分析。
まだ、一年近くある。それまでに心を整えて、再生した『キンキーブーツ』を心から応援できるようになるといい。いや、きっとできる、と書いている。
『キンキーブーツ』日本版再々演チケット発売の頃
2022年5月、三度目の『キンキーブーツ』のチケット発売について告知があった。
その時の呟き。
この呟きからもわかるように、私の心はまだ整っていなかった。
巷では、二代目ローラ城田さんに関して、真実なのかそうでないのか、あまり喜ばしくない情報が飛び交っていた。心が整わないのはそのせいなのか。
いや実は、私はそんなことを気にしていたわけではない。
単純に、春馬くんが不在の『キンキーブーツ』を見る自信が無かった。
この機に及んでもまだ、受け入れる自信が無かったのだ。
やっぱりまだ整わない自分に焦る
9月に入り、刻一刻と『キンキーブーツ』開演の日が近づいてきていた。
当初私は、10月末の一回のみ、ミュージカル好きの息子と観に行く予定でチケットを取っていた。
だけど、まだ冷静に観れる自信がない。隣で大泣きして観ていたら息子にドン引きされるのは明白。
息子と観に行く前に一度見ておいた方がいいと思い立ち、チケットを多めに購入していた方から譲っていただいた。
ちょうど、10月18日のチケットだった。春馬くんの月命日ではないか。
『キンキーブーツ』日本版カンパニーの皆さんの想いに泣く
開幕前から、『キンキーブーツ』プロモーションのため小池徹平さんがいくつかの雑誌のインタビューで、今回『キンキーブーツ』を引き受けたいきさつや並々ならぬ覚悟、春馬くんへの想いなどを語ってくださっていた。
ラジオに出演されているものも聞いた。
どれをとっても、小池さんのブレの無い言葉をとても信頼できると思ったし、春馬くんへの深い愛情を感じることができた。
パット役の飯野めぐみさんのブログでは、稽古中の様子の中で、そこに春馬くんがいることを感じさせてくださり。
プレ公演の後には、カンパニーの他の方々もお気持ちを呟いてくださっていた。そこには、しっかりと春馬くんがいた。
皆さんで春馬くんを迎えに行って、シアターオーブまで連れて行ったとは。
エンジェルスの穴沢裕介さん。まずは、プレ公演に入る前。
そして、プレ公演が終わった後の呟き。
エンジェルスの浅川さん。これ、春馬くんのことだよね?
パット役の飯野めぐみさんがブログに書いてくださったように、演出家のジェリーさんは春馬くんのことを想い、共に、という時間を作ってくださったという。
ローレン役のソニンさん、二日間のプレ公演が終わり本公演初日のブログ。
そして、ソニンさんの楽屋には、春馬くんと一緒に撮った写真が飾られていた。
ブロードウェイスタッフ振付け師のラスティ・モーリーさんは、10月3日本公演初日のインスタグラムストーリーズに、春馬くんとのツーショット写真を上げて下さり
との言葉を載せてくださっていた。This KINKY is for you!…胸が熱くなる。
そして、二代目ローラとなった城田優さんのインスタグラム。
どれだけのプレッシャーと闘っているのだろう。
皆さんの春馬くんを思う気持ちを感じて感謝の気持ちでいっぱいになった。
そんな『キンキーブーツ』カンパニーの皆さんの想いのこもった舞台を、私、誠実な気持ちで見届けなければ、とそう思った。
10月18日、1回目鑑賞
この日は、春馬くんの月命日でもあったので、観劇前に春馬くんが眠る築地本願寺へお参りに行った。
ここに来るのも三回目だ。
この日は月命日ともあって、春馬くんのお参りと思しきご婦人たちが結構いらした。
春馬くんをシアターオーブまで連れて行こうと思って行ったけど、もう既にいろんな人が連れて行ってるよね、なんて思ったりして。
東急シアターオーブに着き席に着いた。
1階席の前から1/3くらいの、センターあたり。
ドンの前説の後、プライス&サンの社歌と共にいよいよ始まった。
観劇前までは、
「全然大丈夫でした。すっかり受け入れ、十分楽しめました」
と、そういう感想を持ちたい、と願っていた。『キンキーブーツ』という演目そのものを、フラットな気持ちで見たいと思っていた。
いや、むしろ、そういう感想を持たなければ、とすら思い込んでいたような気がする。
でも。
全然だめだった。
「Land of LOLA」で
♪ローラ~、ロ~ラ~♪
の歌声が聞こえ、いつも映像で見ていたあの愛しいローラより、一回り大きなシルエットが浮かび上がったところで、胸はぎゅーっと締め付けられ、はらはらと涙がこぼれ落ち・・・
もう、諦めた。
今日は理性はどこかにやって、心のままに、ありのままに感じて観よう、と思った。
結局、声を押し殺しほとんど最後までポロポロと泣きながら観てしまった。
楽しく引き上げられる「Raise you up」ですらも涙で滲み、私はすっかり打ちのめされたような気持ちで観終えてしまった。
何が悪いわけでも無いのだ。
むしろ、初めて生で観た『キンキーブーツ』は凄まじく素晴らしかった。
もともと、脚本の素晴らしさ、演出、楽曲の素晴らしさ、それぞれのキャラクターの素晴らしさ、それはブロードウェイ版の映画を見てわかってはいたけれど、それにも増してオリジナルキャストの方々の熱が凄まじいものに感じた。
恐らく、喪失と悲しみを乗り越え、いや、もしかしたらいまだに抱えながら、もしかしたら心に血を流しながら、あそこに立っておられるのではないか、と思われた。
それでもやり遂げたいという熱意、そのキャラクターをまた演じられる喜び、カンパニーの仲間たちへの感謝、そして春馬くんの意思を継承したいという想い。
おそらく、ほかのどんな舞台よりも強いだろうそれぞれのキャストの想いが、ぶつかり合って、めちゃくちゃ化学反応を起こし、物凄いものに昇華していたように思えた。
二代目ローラの城田さんは、破格サイズで舞台を華麗に舞っていた。
野太い声やコミカルな表現は、以前観た松竹ブロードウェイミュージカル版のローラに近い感じがした。
セリフやアレンジがところどころ変わっていることもあるし、ローラというキャラ設定をおそらく城田さん独自のキャラクターに作り上げて挑んだのであろう。春馬くんのローラとはまったく別のローラに見えた。
想像を絶するプレッシャーの中、ここまでのローラを見せてくれる、それは本当に流石だと思った。
だけど。
すべてが終わり客電が付いた頃には、私はすっかり打ちのめされた感じでフラフラだった。
私、とんでもないものを見逃してしまったんだ・・・
春馬君。
どうしてあなただけ、そこに居ないの・・・?
とにかく春馬ローラ祭り
その日以降、私は取りつかれたように春馬ローラのことばかり考えていた。
『Kinky Boots Haruma Miura Tribute movie』や公開ゲネプロ映像を改めて何度も見たり、2016年盤のCDを繰り返し何度も聴いた。
色々なインタビューも読み漁ったし、春馬くんのボイストレーナーの先生が先般出版した書籍の、春馬くんが『キンキーブーツ』のためにどれだけ努力し鍛錬していたかの部分を読んでは泣いた。
いろんな方が書いた過去レビューを改めて読み返し、映像を注意深く見直しCDを注意深く聴き、
「うわ、本当だ、この視線の流れよ!表情よ!」
とか
「わわわっ!この語尾の跳ね上がり!」とか確認しながら、
春馬ローラを改めて堪能した。
ビジュアルとしての美しさ。丁寧なしぐさ、表情。指の先からつま先まで、少しも手を抜かない動き。リズム感、キレ。巧みな声色使い。歌声に込められた深い感情。そして、画面越しにも伝わる熱い情熱。
どれをとっても、素晴らしいローラだ、と改めてそう思った。
きっと、今後何代ものローラが生まれるだろうが、上書きされたり消えていったりすることなんかない。それほどのローラだ。
そうしてもまだ、
「どうして、あの再演の時、観に行かなかったんだろう…私の馬鹿っ!」とぐずぐずと悔やみ、
「どうして、春馬くん、あなたのローラを観られないの」と
女々しく涙する、という・・・(女だから女々しいのはしょうがないが)
ああ、私って本当に往生際が悪い。自分でも、ここまでとは予想していなかった。
だったら観に行かなければいいのに、どうしてもまた観たいのだ。
私は、春馬くんが愛した『キンキーブーツ』というミュージカルを、カンパニーの皆さんが命がけで続けてくださった日本版の『キンキーブーツ』を、丸ごと、正確に受け取りたかった。
息子と鑑賞した二回目はソワレ
それから10日ほど後の日程で取っているチケットはソワレだった。
息子は学校から直接シアターオーブへやってくる。
私は一足先にシアターオーブに着き、グッズ売り場や写真撮影でごった返すロビーから逃げ出すように階段を昇り、写真で見た春馬くんがストレッチしていた場所へ行ってみた。
例によって、写真がへたくそでごめんなさい。
このエリアにも何人かはひとがいたが、比較的静か。少しセンチメンタルに浸りながら夕暮れの渋谷の街を眺める。
そのうち、息子がなかなか来ないのが気になって来た。18時開演にもかかわらず、17時40分に渋谷駅に到着したという息子の到着をひやひやしながら待つ。ギリギリ、開演10分前に姿を現した息子と、ようやく座席に落ち着く。
今回は、2階席の真ん中。ステージ全体がよく見える。
おそらく、演者の顔はよく見えない。オペラグラスは持ってきているが。
荷物を椅子の下に置いたりしているうちにすぐに、客電が消え聞き慣れたプライス&サンの社歌が鳴り響く。
あれ、不思議。
私、心が整っている。
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あっという間の3時間弱だった。
再び、生で聴く「Raise you up」で体はウズウズするし、「JUST BE」では滅茶苦茶楽しい気分になっていた。
カーテンコールで出てきたチャーリーとローラにも手を振り、退場のアナウンスを聞きながら、隣にいる息子と
「キンキーブーツ、最高だね~!!」と喜び合った。
春馬くん。
私、日本版の『キンキーブーツ』を、演目としてしっかり楽しめたみたい。
カンパニーの皆さんが届けたかった『キンキーブーツ』の真髄を、私なりに受け取れたと言っていいかな。
最後に
そうそう、二回目までの間に、私はAmazon primeで原作映画も観ていた。
2005年、実話をもとに作られた米英合作映画。
もともと、このストーリーが素晴らしく、チャーリーやローラのキャラクターはミュージカルにしっかり踏襲されていた。
ローレンは、ミュージカル版ほどコミカルではない。
そのローレンを徹底的にコミカルにして、ローラの取り巻きのエンジェルス達を見事にショーアップして、そして本当に素晴らしいシンディ・ローパーの楽曲が功を奏してあんなに素晴らしくて楽しくてパワーあふれるミュージカルになったんだと感心しきりだった。
これを観ておいたのも良かったんだと思う。おかげで、作品としての客観性が得られた。
でもきっと、あの一回目の、うちのめされた鑑賞が私には必要だったんだと思う。
あれを経なければ私はちゃんと『キンキーブーツ』を受け取れなかっただと、今はそう確信している。
今でも、毎晩、お風呂場に持ち込んだ防水スピーカーから流れる春馬ローラの「Sex in the Heel」と共に洋々と 歌う息子の歌声を聴きながら、笑みがこぼれる。
今回公演の『キンキーブーツ』日本版を初めて観て、すっかり『キンキーブーツ』にはまったミュージカルファンがここにもいるよ。
おそらく日本中にたくさんいるに違いない。
そして、そういう新しいファンがきっと、また初代ローラの春馬くんの歌うCDを繰り返し再生し、「あれ?初代ローラはどんなだったかな?」と『Kinky Boots Haruma Miura Tribute movie』を視聴する。
再演が繰り返されるたびに、どんどん広がる。
初代ローラの春馬くんの姿も、歌声も。
どんどん、どんどん、広がっていく。
春馬くんが愛した、そして春馬くんが届けたかったもの。
そして
強い強いメッセージ、届いてるよ、たくさんの人たちに。届けてくれているよ、カンパニーの皆さんが。
継承してくださった『キンキーブーツ』カンパニーの皆さんに、心から、本当に本当に、心からの感謝を申し上げたい。
そして、どうか、ずっとずっと
『キンキーブーツ』が日本にありますように!