久方ぶりの「三越落語会」(その2)〜桃月庵白酒から柳家喬太郎
(承前)
中入り後に登場した桃月庵白酒、三越落語会のゆったりとした休憩時間に言及した。今でも20分と比較的長めだが、かつては25分あり、喫茶室でお茶する観客もいたそうだ。三越劇場のある三越日本橋本店の6階は、画廊や美術工芸品・貴金属売り場が入る、古き良き百貨店の空気を残している。
白酒の演目が「安兵衛狐」、これが良かった。長屋に住む偏屈ものの源兵衛、近所の住人が亀戸に萩を見に行こうと誘うのだが、素直に従うことをせず、自分は“墓見“に行くと。
墓を眺めながら酒盛りの源兵衛だが、シャレコウベを発見する。これに酒をかけ、供養して帰宅した源兵衛。夜になると、女の幽霊が訪ねてくる。源兵衛が見つけた骨の女性で、お礼にと夜にのみ現れる女房となる。
彼女の存在に気づいた隣家の安兵衛、同じような骨はないかと探しに行くが、見つけたのは狐狩りの男。捕まえられた狐を買い取り逃してやる。目的を果たすことなく帰宅の途につく安兵衛だが、若い女から声を掛けられる。助けた狐が化けたのだ。こうして安兵衛は狐を妻にする。
途中までは「野ざらし」のような展開だが、上方落語の「天神山」を東京に移したもの。「天神山」については、今年の1月に桂二葉の高座を聴いて記事にした。エンディングが歌舞伎にもなっている「葛の葉」の説話にかけていて、笑いの多い噺ながら“詩情“を感じさせる幕切れとなる。
一方、白酒の「安兵衛狐」の型は、落とし話としてカラッと終わる。途中の展開含め、白酒の明るさがピッタリと来る演出である。
最後が私のお目当て柳家喬太郎の「品川心中」。喬太郎は私と同世代だが、世代きっての上手さを誇る。それは分かっているのだが、あまり高座に接していない。その理由は、新作・古典の二刀流であること。私はやはり古典落語を好む、喬太郎は聴きたいのだが、「新作だとなぁ」と考えてしまう。その点、本会はネタ出し、しかも「品川心中」、彼の話芸を堪能できるはず。
品川の妓楼で板頭(いたがしら)、つまりナンバーワンを張ってきたお染だが、年齢と共にその地位は後退する。季節の変わり目“うつりかえ“という衣替えの祝いがあるのだが、お染はそのための金を客から工面することもできなくなった。
朋輩からの冷たい視線に耐えられなくなり、お染は死のう、どうせ死ぬなら“心中“と美しく果てようと考え、その相手に本屋の金造、通称“バカ金“を指名する。金造なら死んでも誰も悲しまないという、とんでもない理屈である。
ひどい話だが、そこは落語。明るく楽しく、喬太郎は展開する。廓の座敷、品川の海辺、親分の家、それぞれの場所が生き生きと描かれる。
「品川心中」の後半は、お染に対する仕返しとなるが、多くの落語家は中場で切って終わる。喬太郎も、「品川心中 上」を演じて終演。
お目当て以外にも、そしてお目当てにも満足した三越落語会。次回も足を運ぼうか。
(観客の年齢層を意識してか、18時開演、20時半頃の終演も早寝早起きの私には都合が良い)