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エジンバラからロンドンの旅(その9)〜ミュージカル「Hadestown」@Lyric Theatre

(承前)

プライオリティとしては、オペラの次はコンサートなのですが、あいにく滞在中に行きたくなる公演はなし。連日、各所でクラシック・コンサートが催されているロンドンでは珍しいことです。

次に探したのはミュージカル。私はクラシックなブロードウェイ・ミュージカルを好むので、目についたのが「ハロー・ドーリー!」。しかし、このリバイバルは7月から。もう一つは、こちらもかつて映画化された「Guys and Dolls(野郎どもと女たち)」。こちらは劇場がタワー・ブリッジのたもとなので、場所がウエスト・エンドではない。義妹も一緒なので、折角ならロンドンの劇場街の雰囲気も味わって欲しい。

そうして目にとまったのが、ちょっと気になっていた「Hadestown(ヘイディズ・タウン)」。こちらは、新作で2019年のトニー賞で最優秀ミュージカル賞、オリジナル楽曲賞など8部門で栄冠に輝いた作品。今年の2月にロンドン公演が始まり、12月までチケットが販売されています。

ロンドンを立つ日の前日、4月11日のマチネーを観ました。ミュージカルを観て、最後のディナーを楽しもうとしう目論見です。

この「Hadestown」というミュージカル、好きでした。

まず音楽が良い。舞台は、ニューオーリンズをイメージしたセットになっていますが、ジャズ・ブルース、リリカルな楽曲、フォーク・ソング的な作品などなど。ドラマ・舞台美術・音楽が見事にマッチしています。

オペラなどの題材になっている、ギリシャ神話「オルフェウスとエウリディーチェ」をベースにして、現代の物語に仕立て上げています。芝居の間に音楽が入るというよりも、楽曲中心に物語を綴っていくスタイルで、詩的な作品になっていおり、それが世界観とピッタリあっています。

この作品を創ったのは、アメリカのシンガー・ソング・ライター、Anaïs Mitchellです。2006年、彼女はオリジナル版の「Hadestown」をアメリカ・バーモント州の街で上演します。本人もEuridice(実際の発音は“ユーリディシー“という感じです)役で出演します。

その後もいくつかの街で上演を続け、それを基に彼女としては4枚目のアルバム「Hadestown」を、2010年にリリースします。Mitchellはこの作品をさらに膨らませたいと考え、一人の舞台演出家とコンタクトします。

それが、トルストイの「戦争と平和」のミュージカル化、「Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812」で成功を収めた、Rachel Chavkinでした。

二人のコラボレーションは、本作をさらにグレード・アップし、2016年オフブロードウェイ、2018年ロンドン初演、そして2019年にブロードウェイに進出し、既述の通りトニー賞を受賞します。

ところが、その後コロナ禍に見舞われるという悲劇があったのですが、2021年ブロードウェイで再演、今もロングランが続き、今年ロンドンでの再演も開始したというわけです。

内容について少し触れます(ネタバレあり)。オルフェウスというのは、音楽家でリラ(lyre〜竪琴)の名手、音楽の力を持っています。彼が恋したのがユーリディシー、二人はカップルとなります。

彼らと対比して描かれるのが、ヘイディーズ(Hades〜ハデス〜一般的に日本で使われるギリシャ神話の人物名)とペルセフォニー(Persephone〜ペルセポネー)の夫婦。ヘイディズは冥界の王ですが、ミュージカルでは地下世界で工場を営んでいます。ペルセフォニーは、地下世界と地上を行き来しており、彼女が地上にいると世界は明るく暖かく作物が生育します。

この夫婦、ちょっと倦怠期という感じなのですが、ペルセフォニーが地下に移動すると、地上では食べ物がなくなってしまいます。これは、ちょっと環境問題とつなげている感じです。そんな折、ヘイディズはユーリディシーに「地下に来ると食べ物がふんだんにあるよ」と誘い、ユーリディシーはまんまと地下世界へと踏み込み、労働者となってしまいます。

恋人を追って地下世界に向かうオルフェウス、ヘイディズ/ペルセフォニーと音楽の力も借りて交渉し、遂に脱出の許可を得ます。ついた条件が、「暗闇の中でオルフェウスがユーリディシーを先導して地上に向かう、そして決して振り向いてはならない」というものでした。

相手への信頼感を試されるのですが、地上に向かうオルフェウスは最後の最後で振り向いてしまうのでした。

こうしたドラマを、素晴らしい歌い手が演じ上げていきます。四人に加えて狂言回しの役がヘルメス、オリジナル版では男性が演じましたが、ロンドン公演はちょっと友近に感じが似た女性が演じています。

悲劇的な結末なので、どうクローズするのかと思っていましたが、アンコールで“パーティー・ガール“ペルセフォニーが中心になって、オルフェウスと音楽の力を称えて大団円。

観客席にはリピーターも結構いる感じで、大盛り上がり。スタンディング・オベーションで終演となりました。

前述の録音、そしてブロードウェイのオリジナル・キャスト録音が配信サービスで聴くことができますので、ご興味持たれた方は、まずは音源でも聞いてみてはいかがでしょうか。前述の通り、セリフの部分が少ないので、楽曲を聴くだけでかなり疑似体験ができると思います。

旅行記も明日で最後にします。エジンバラ・ロンドンで私は何を食べたかです。

続く




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