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人間国宝が演じる河内山宗俊〜新宿末廣亭七月下席千秋楽(その1)

新宿末廣亭七月下席夜の部、神田伯山と三遊亭遊雀が主任を分け合う芝居。伯山がトリの日についてはすでに書いたが、七月三十日千秋楽の最後は遊雀が〆る。

この日も前売券を入手していたが、またしても最前列である。前座が終わったタイミングで入場、高座に上がったのは遊雀の弟子、三遊亭遊かりで「鷺とり」を中場まで。

続いて活弁士の坂本頼光。中入り後の食いつきで出ていたのだが、「この後、鯉朝さんとの会があるので」と浅い出番となった。「自分も含め、幇間芸の松廼家八好さんらを入れてくれた落語芸術協会の懐の深さ」と話していた。本当にそうである。この後出る玉川奈々福らも含め、芸協の取り組みは寄席を華やかにし、観客の満足度を高めていると思う。寄席にスクリーンと映写機を持ち込み、無声映画を映しながら活弁を披露する、画期的である。この日の作品は、抱腹ものの「赤ずきん」。

三遊亭希光は新作「ツッチュウ」。ヤクザの親分が、漫才のツッコミ中毒になってしまし、配下のものは親分の指示にボケで返さなければならないという状況。大いに受けていた。

十分に温まった空間に登場した三遊亭萬橘は「新聞記事」。新聞を読まないとバカにされ、かつがれた男が、誰かにやり返そうとするお馴染みのネタだが、萬橘が演じるとこの男の“危うさ“が半端ではない。前半の弛緩したボケと、後半のドライブがかかったボケのコントラストも素晴らしく、大熱演に客席は大爆笑で返していた。

コント青年団は、前回と同じネタだが、微妙な違いを発見するのがまた面白い。三遊亭遊馬が落ちついた「粗忽の使者」で一旦場内を落ちつかせた後に、浪曲の玉川奈々福。演目は「浪花節更紗」の発端。原作は正岡容(いるる)、浪花節の世界に入る浪太郎の足跡を描く。浪太郎のモデルは、立川談志も愛した木村重松。浪曲、いいなぁ〜、もっと勉強しなければ。なお、本作のフルバージョンはU-NEXTで配信されている。

宮田陽・昇の漫才を挟み、中トリは人間国宝・神田松鯉。足をくじかれて休演されていたが無事復帰、歩いて高座に登場、客席からは大きな拍手。講談は本来続き物であることを話し、今日は河内山宗俊をと。坊主ではあるが、僧侶ではなく数寄屋坊主、大名のお世話をするいわゆる茶坊主。しかし、宗俊は将軍家に仕え、気に入られ権勢をふるったことをさらりと説明し、本題に入る。

松鯉の読み口は決して派手なものではなく、しっとりと落ち着いたものなのだが、思わず知らず引き込まれてしまう。市井に卵を買いに行く宗俊、策を弄して主人から百両の金をゆすり取る。「天保六歌撰〜玉子の強請」。

考えてみればひどい話なのだが、この悪人・河内山宗俊をいかに格好良く見せるかが腕の見せどころ。読み手の本性が悪人では聴くものを不快にする可能性がある。しかしながら、神田松鯉という“ニン“〜人柄と話芸によって、嫌な気持ちを発生させない。残るのは、宗俊の行為から受ける痛快さである。考えるにつけ、芸の凄さを感じた。

「玉子の強請」は、続き物「天保六歌撰」からの抜き読みだが、河竹黙阿弥は講談「天保六歌撰」を基に、「天衣粉上野初花(くもにまごううえののはつはな)」、通称「河内山」を作り、アウトロー河内山と直次郎を歌舞伎の舞台に持ち込んだ。

寄席は中入り〜続く

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