第636回三越落語会〜人間国宝・五街道雲助の「夢金」
3回連続となった三越落語会、2025年1月29日の会である。
開口一番、18時の開演前に前座が登場するが、この日は入船亭辰むめで「子ほめ」。勉強になる。
金原亭馬治で「てれすこ」。当代の金原亭馬生の弟子。2000年4月に入門したが、同日に弟子入りした同期がいる。2003年11月に二人は同時に二つ目に昇進するのだが、師匠・馬生の前名である馬治をどちらかが襲名することとなった。1日でも先に入門した方が先輩で、馬治を継ぐのがおさまりがよいのだろうが、全くの同日入門。じゃんけんで、負けた方が継ぐことにしたらしい。現・馬治が負けて襲名、もう一人は馬吉などを経て、現在は金原亭小馬生を名乗っているとのこと。
二番手は、古今亭菊丸。先代・圓菊の弟子のベテランが、季節にふさわしい「ふぐ鍋」。旦那と幇間・一八のやり取りがメインだが、一八の造形が師匠ゆずりで明るく、華やか。客席ものってくる。
長く落語を観てきたつもりだが、馬治・菊丸とも初見。ここのところ、落語協会の寄席に行っていないせいもあるだろう。こうした落語家に出会うのも、三越落語会の魅力である。
中入り前が、柳亭市馬「寝床」。私の好きな噺。浄瑠璃好きの旦那、“下手の横好き“で周りは大いに迷惑する。市馬は、その歌だけでも公演を打つほどの腕前、「寝床」の旦那とはレベルが違う。安定の上手さ、安心して身を委ねて聴けた。
中入り後、瀧川鯉昇。好きな落語家だけれども、特に追いかけはしていない。ところが、定期的に高座を拝見している。これも縁なのだろうか。マクラで、トリの人間国宝と同じ大学(明治大学)であること、ただし雲助さんはずっと上(たかだか5歳だが)であること、自分は年寄りに見えるが、まだ落語界では中堅であることを話す。ちなみに、菊丸は鯉昇の2つ上、鯉昇は年男の今年72歳、山下達郎と同い年である。
演目は「馬のす」。翌朝釣りに出かける予定だが、テグスがいかれている。軒先につながれた馬の尻尾の毛を抜いて、釣り糸に使おうとする男に、友人が警告を発する。極めて落語的な、バカバカしい話なのだが、こういうネタを演らせると、鯉昇の右に出る人はいない。まさしく、その人、“ニン“から出てくる可笑しさである。
トリは、人間国宝・五街道雲助。これまで、落語家で人間国宝になったのは、五代目柳家小さん、三代目桂米朝、十代目柳家小三治。彼らは、誰しもが認めた名人だが、雲助はちょっと地味かもしれない。
演目は、季節ネタ「夢金」。雪降りすさぶ夜に、大川端の船宿を訪れた浪人と若い妹。深川まで屋根船を出してくれと主人に頼むが、生憎まともな船頭は出払っている。いるのは、寝言でも「金欲しい」と訴える、欲張りの熊だけ。「それでも、構わぬ。骨折り酒手ははずむ」という侍の頼みに応える熊。船を出すのだが。。。。
古今亭志ん朝はこのネタが、好きだったのだろうか。私の手元には、1969年「ニ朝会」、1977年三百人劇場での独演会、その後の東横落語会における2度の口演、1991年大須演芸場の独演会、そして落語研究会の動画と音源が沢山ある。
その理由は、非常に演劇的な演目だからではないか。浪人や娘の描写、船頭が船を操る所作、蓑や笠から雪をはらう手、雲助の高座を観ていると、その思いが強くなった。人間国宝のこうした芸の細かさは、流石絶品である。
次回の三越落語会は3月5日、トリは林家正蔵で「蜆売り」。どうしようかなぁ