銭湯における注意はまっとうである〜文化財を守るためのマナー、御徒町「燕湯」
先日、中野坂上の「羽衣湯」について少し書いた。イベントの前の銭湯は気持ちの良いもので、ちょっと味をしめていた。
18時半から御徒町で所用があったのだが、その前の時間を利用しよう。この辺りなら、きっと銭湯があるはずだ。
ちゃんとありました、駅近くの「燕湯」。色々、ネットで検索すると、番台の方がとても厳しいと、批判的なコメントも見られた。さてどうだろう。
たたずまいは、ザ・銭湯という感じで、なんだか嬉しくなる。この銭湯は、登録有形文化財に指定されており、銭湯では都内初だったそうだ。入ると、番台に「巡回中、座ってお待ち下さい」というサイン。タオルも借りたいので、しばし待つことにする。
しばらくすると、男湯の扉を開けて、着衣の男性が出てきた。この方が銭湯の方だろう。番台に来るかと思ったら、扉に入ったところにいた、初老の男性に「そんな濡れた体で出てきちゃ駄目だよ〜」と小言を言っている。
「下が濡れちゃってるじゃない、他のお客さんに迷惑だよ。ちゃんと拭いておいて」。言われた男性は、小声で「すみません」と。ネットの口コミにあった通り、なかなかに厳しい対応である。
番台に戻った銭湯のおじさん、私は恐る恐る湯銭と貸タオル代を払ったのだが、普通に優しい応対だった。
この銭湯の良いところは、大きいロッカーが沢山あること。通勤鞄に加え、冬のシーズンは、コートがかさばるので、これは嬉しい。調べると、かつては近くに青果市場があり、そこにやってきた行商人のために、大きなロッカーを設置したようである。
玄関には大きな荷物がおけるスペースもあり、近隣の住民のみならず、私のような遠征組にも配慮があるのだ。それは貸タオル代にも現れていて、フェイスタオル30円、バスタオル60円と、極めて良心的である。
風呂場のつくりは、オーソドックスなものだが、壁の岩山は富士山の溶岩でできているようで、特徴的。シャンプーなどは、紐付きではあるが、1箇所にまとめて置かれている。
一風呂浴びて、叱られないよう、体をしっかり拭いて脱衣場に戻った。振り向くと、男湯・女湯の壁にまたがって描かれた富士山が見えるという趣向である。
平身低頭していたおじさんは、ちょっと可哀想に感じたが、銭湯はパブリック・スペースである。利用者がマナーを守り、お互いに気持ちよく利用する場所だ。故に、私はこの銭湯がとても気に入った。番台の男性は、貴重なこのスペースを守り、お客様を不快にしないよう、努力してくれているのである。とても信用できる場所だと感じたのだ。
重要有形文化財は、ハードのみならず、無形の文化も含めて“重要“な場所である。無形の文化が守られた空間は、とても心地の良いものである。
私が通うジムの風呂場では、体から水を滴らしながら脱衣場に出てくる人がいる。若い人のみならず、公衆浴場でのマナーをよく知っているはずの年齢の人もいる。そんな人たちは、一度「燕湯」に言って、小言の洗礼を受ければ良いのに。
そんな意地悪な発想も浮かんでしまった