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20年後の磯野家の家計に例えてみる〜神田眞人「日本はまだ闘える」

本日(8月15日)は終戦記念日、なぜ“敗戦記念日“としないのかと言った人がいたような気がします。
文藝春秋九月号の、巻頭記事は前財務官・神田眞人の寄稿「日本はまだ闘える」です。

日本が多くの課題を抱えているということは、多くの人が感じていることでしょう。昨日(8月14日)、岸田首相が総裁選不出馬を表明しました。一つの転機と感じる人もいるでしょうし、「誰がなっても同じ」とシニカルな人もいるでしょう。岸田政権はさまざまな問題があったと思いますが、「根本的な問題に向き合っているのか?」という印象がありました。

では、根本的な問題とは何なのか。さまざまな視座がありますが、前述の記事は国際収支という観点から分析したもので、非常にわかりやすく課題を解説しているように思いました。とは言え、小難しい記事はちょっと敬遠という方もいらっしゃるでしょうから、単純化してご紹介します。

経常収支というのは、日本という国を一つの家計と見立てて、その収入と支出を分析したものです。例えば、私が新潟産のお米を買っても、これは一つの家の中での取引ですから、家計収支には関係しません。一方で、私がフランス産のワインを買ったら、フランスという別家計の人に支払うのでマイナスとなります。逆に、中国の人が日本産ホタテを買ってくれたらプラスです。

それでは、日本を20年後の「サザエさん」磯野家に見立てて解説してみましょう。

カツオ君は32歳になりました。念願の自動車メーカーに就職し、乗用車の開発チームに所属しています。チームが作る車は海外でも人気、好調な売り上げで、ボーナスもたっぷり出ました。それでも、友人と比べると沢山もらっていますが、同じ会社の海外スタッフと比べると随分見劣りします。しかも、週末乗り回す自分の車のガソリン代が円安もあってうなぎ登り。燃料費のために働いているようなものです。そもそも、ガソリン車の開発やってていいのか? 電気自動車・自動運転の時代では? カツオくんの悩みです。

一方、海山商事に勤める50歳のマスオさん。石油関連の海外プロジェクトが好調でその恩恵を受けています。ただ、会社はますます海外事業発展に熱心で、マスオさんが推進する国内のビジネスには無関心、あまり投資資金が回ってきません。それどころか、国内部門のマスオさんのボーナスは、海外事業担当の同期と比べるとパッとしません。

サザエさんは44歳になりました。タラちゃんは大学生、子供に残せるのは教育だけと、タラちゃんは大学院に進学する予定です。子供に手がかからなくなり、サザエさんはポケモン・ショップで働いています。コロナ禍が明け、お店はインバウンドのお客さんで大繁盛。人手不足で、観光客をさばききれません。

疲れたサザエさんを癒すのは、Netflixで観る海外ドラマ。仕事の行き帰りは、配信音楽を楽しみ、週末はAmazonでネット・ショッピングとネットサーフィン。気がついたら、最低賃金にちょっと上乗せされた程度のお給料は、これらに費やされています。なんだかインバウンドで稼いだお金を、GAFAなどに持っていかれてるのでは?

ワカメちゃんは、なんとアメリカで弁護士になっています。閉鎖的な日本にいても仕方がないと考えた彼女は、ロー・スクールを経てNYの法律事務所勤務。結構な高給取りですが、磯野家としては彼女の収入を当てにするわけではないので、ワカメは生活をエンジョイしています。日本への帰国も考えないではないのですが、結婚・出産をイメージするとアメリカの方が良いのではと、二の足を踏んでしまいます。

ワカメの友人のアメリカ人は、「日本には興味があるのだけど、ビジネスは基本日本語だし、ベビーシッター雇うのも一苦労、おまけに円安だから日本に転勤はできないね」と言っています。

波平さんは74歳。引退後、退職金を株式市場で運用していますが、山川商事時代の経験を活かし、外国株投資。タラちゃんの学費を支援したあとは、特に使うこともないので、儲けた分は再び海外株に再投資しています。

フネさん68歳。NISAを始めました。せっかくだから、応援したい日本企業に投資したいと考えたのですが、波平さんから「人口減少の日本は成長性に乏しい、企業の新陳代謝も進んでいない。米国株のインデックス投信か、オールカントリー(通称オルカン)全世界株投資信託にしなさい」と言われ、渋々したがっています。確かに上昇しているのですが、儲けは全て再投資に回るので、なんだかプラスの実感がありません。

さらに20年が経過した、磯野家の40年後はどうなっているのでしょう? カツオが働く自動車会社はまだ存続しているでしょうか? マスオさんはハッピーリタイアできたでしょうか? ワカメは帰国し、日本の発展に貢献しているでしょうか? 大学院を卒業したタラちゃんが、夢を持って働ける職場はあったのでしょうか? サザエさんはまだポケモン・ショップ? 待遇は多少改善されたでしょうか?

なんとなくイメージできたでしょうか?

日本の貿易収支は、自動車依存の上、現地生産の拡大、化石燃料の輸入によって赤字です。貿易大国は過去のものです。

サービス収支は、クラウド・サービス、検索サービス利用などによる、海外事業者に対する支出が年々拡大、インバウンド観光客は増えていますが恩恵は消去され、赤字です。

それでも日本の家計、経常収支は黒字が続いています。海外への投資で収益が上がっているからです。しかし、この儲けはあまり国内への投資として還元されていません。ガラパゴス化した日本、株や不動産を買う海外投資家はいますが、事業に直接投資する外国企業も乏しいのが現実です。

論稿には、これらに対する処方箋も書かれていますが、それに対しての意見は色々あるでしょう。しかし、経常収支〜数字はファクトです。

次期首相には、この現実を直視し、行動に移してもらいたいものです

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