おひまのある方は寄席にどうぞ〜鈴本演芸場九月上席 夜の部
時間ができたので、たまには寄席に行くかと思い、東京かわら版で寄席の番組をチェックしたら、上野・鈴本演芸場の夜の部は、落語協会会長の柳亭市馬が主任。東京ポッド許可局でもお馴染みのサンキュータツオが居島一兵とコンビを米粒写経も出演するので、久しぶりに鈴本に向かった。
2022年9月1日、上席の初日である。
17時開演、5分ほど前に入場したら、前座の春風亭貫いちが「やかん」を演じていた。前座は、入場料金外なので、開演時間前に演じる。前座としては、達者で感心したが、客席は私を入れて二人。まぁ、これからボチボチ来るのだろう。
閑散とした客席を反映してだろうか、二つ目の柳亭市童「高砂や」、翁家勝丸の大神楽曲芸、柳亭燕三「しの字嫌い」、どれも地味でピリッとしない。いくら客が少ないと言っても、これでは盛り上がらない。
鈴々舎馬るこが登場し、明るい雰囲気にホッとする。馬風師匠の、打ち上げネタでようやく客席がほぐれ、「糖質制限初天神」で笑いを取る。
漫才の米粒写経。寄席の舞台では初めて。香川照之などの時事ネタから、サンキュータツオの得意な言葉ネタ。“森と林の違い”=様々な木が生えているのが森、同種のものが並ぶのが林。“山と丘の違い”=威圧感があって神様がいるのが山、だそうな。
春風亭百栄「ぞろぞろ」の後に登場したのは、中トリの柳家さん喬。入った噺は「転宅」。間抜けな泥棒と、機転の利くおめかけさんの話だが、こういう演目のさん喬師は好きである。ほどよく力が抜けていて、心地よく聞ける。
中入り後、紙切りの林家一楽。苦労しながら切るのも一つの芸か。続いて、春風亭一朝。強情ものが熱熱の朝風呂に入るくだりから「強情灸」へ。こちらも手慣れた噺という感じで、見事な高座である。
ひざ代わりの奇術、アサダ一世をはさみ、主任の柳亭市馬登場。碁・将棋のマクラから「笠碁」。分別盛りの二人が、碁の“待った”をきっかけに仲違いし、その後に。。。。という噺。師匠の先代柳家小さんも得意にしたネタだが、私はどうも苦手だった。
それが、この日の市馬師の登場する二人の魅力、可愛らしさ、友情がスッと伝わってきた。「笠碁」というネタを好きにさせてくれる口演だった。
市馬、一朝、さん喬という大御所が、空席の目立つ客席をものともせず、本寸法の高座を見せてくれた。流石である。
問題は客席。実際は空席が目立つどころではない。入場者は15人にも満たない。楽屋で働く前座も入れると、芸人の方が多い。しかも、全員が一人で来ていて、バラバラに座っている。落語家がまくらでよく話す状況だが、まさか実際に体験することがあるとは思わなかった。演者はさぞかしやりづらかったことだろう。
記録を調べると、私は昨年鈴本に来ているが、柳家権太楼の独演会で当然満席。定席に来たのは2019年だった。ここ数年の寄席通いは新宿末廣亭が中心。落語芸術協会の芝居ばかりで、神田松鯉や伯山が主任の日、あるいは真打昇進披露だったせいか、いずれも盛況だった。
私の行った各種落語会も客席はほとんど埋まっていた。ようするに、わざわざ行こうと思うイベントは生き残っているが、ちょっとのぞいて行こうか、立ち寄って行こうかと思うようなエンタメは厳しいのだろう。リモートワークの平日の夜、上野まで出てくるのは相当ハードルが高い。
この日の鈴本が寄席の日常だとすると、興行が成立しない。コロナ禍により、生活スタイルを永続的に変えたとすると、抜本的な改革が必要だろう。
まぁ、私にできることは、たまには顔を出すくらいのことだが