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映画「ブライアン ウィルソン 約束の旅路」〜レジェンドの今と未来に元気をもらう

ビーチボーイズの支柱、ブライアン・ウィルソン。彼はサーフィンはやらないが、人生の中では、数えきれないくらいの大波を乗り越えてきた。

どのような波が彼を襲ったのか。断片的な知識を整理してくれたのは、2015年の映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」だった。さらに、2016年に出版された「I am Brian Wilson: A Memoir」(邦題「ブライアン・ウィルソン自伝 I am Brian Wilson」)で、その詳細を知ることになった。

これらに先立ち、村上春樹は音楽エッセイ集「意味がなければスイングはない」の中で、“ブライアン・ウィルソン”という章を設け、思いを述べている。

さらに数年の時が経ち、新しいドキュメンタリー映画「ブライアン ウィルソン 約束の旅路」が公開された。

ブレント・ウィルソン監督のこの映画は、ブライアン・ウィルソンとビーチボーイズの軌跡を駆け足で巡る。ブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョン、さらには指揮者のドゥダメルらの証言もフィーチャーされる。ただ、そこにはブライアン本人がいる。

「ローリング・ストーン」誌の編集者でブライアンに関する記事を書いてきたジェイソン・ファインが、助手席にブライアンを乗せ、ロサンゼルス近郊をドライブする。そこには、ブライアンの生家があった場所、ビーチボーイズのアルバム・カバーの写真を撮ったビーチなどがあり、ジェイソン・ファインはブライアンと共にそうした場所を訪れる。また、そこには薬物依存となったブライアンが家族らから隔離され、ユージン・ランディから治療を受けたマリブの家も含まれる。

ランディは高額の治療費を要求、後に倫理規定違反・不正行為によりカリフォルニア州から医師免許を剥奪される。ブライアンは、このドライブの途中で、数年前にランディが死亡したことを聞かされる。この映画の中で、私の印象に残るシーンである。ブライアンは動揺を隠さず、映画は、"Love and Mercy"を演奏するシーンに移る。ブライアンは、“Love and mercy, that's what you need tonight(愛と寛容、それが今夜あなたが必要なこと)と歌う。

ビーチボーイズのメンバーで弟のデニスが作ったソロ・アルバムを、映画の撮影中にブライアンは初めて耳にする。デニスは1983年、39歳の若さで水死する。兄弟の中で、デニスだけがサーファーだった。

もう一人の弟、カールのこともブライアンは語る。ブライアン・ウィルソンという天才を兄と持った、二人の弟が、音楽の世界の中で才能を開花させたことに、ブライアンは心底嬉しそうであり、二人ともう会えないことを悲しんでいた。カールは、1998年51歳で他界している。

このように、この映画で映し出されているのは、あくまでも今のブライアン・ウィルソンである。確かに、過去の物語が引かれるが、基本的には今のブライアンを通して表現される。

そして、ブライアン・ウィルソンは、こうした過去も踏まえた上で、音楽に対する熱情をまったくもって失っていない。ライブにも積極的、ロックン・ロールのアルバムを作りたいと語る。

映画の副題、“Long Promised Road“は、カール・ウィルソンとジャック・ライリーの作品で、カールがリード・ボーカルを取った。この楽曲は、ビーチボーイズの隠れた名盤と言える「Surf's Up」に所収されている。(なお、村上春樹は前述の書の中で、アルバム「Surf's Up」とそれに先立つ「Sunflower」について、両作の魅力として<ビーチボーイズがブライアンのワンマン・バンドであった黄金時代とは一味違う、積極的な「共有感」が生じている>としている。)

歌詞の一部を拙訳で引用する;

未来の謎を解くのはとても難しい〜過去の人生を捨て去ることは難しい〜でも、僕は立ちはだかる戦いでは懸命に攻める。行く手を阻む障害物は取り壊す。拘束する手かせ足かせは振り捨てる〜長く約束された道。明け方に始まり、季節の終わりまで続く

ブライアン・ウィルソンの道はまだまで続いている。懸命に進もうとしているブライアンの姿に、元気をもらった


蛇足だが、Facebookは時折、“XX年前の思い出”として、過去にアップした写真を自動的に見せてくれる。昨日、Facebookを開くと、10年前に香港で観たビーチボーイズの結成50周年リユニオン・コンサートの写真が現れていた。そこにはブライアンの姿もある。“鹿島さん、これってスピってませんか?”


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