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‘Expectations‘に翻弄されるピップの運命〜BBCのディケンズ原作ドラマ「大いなる遺産」

しばらく海外ドラマを観ていなかったので、何を観ようかと思案、半年ほど前にチャールズ・ディケンズ原作のドラマ「荒涼館」(原題:Bleak House)を思い出した。同じBBC制作でディケンズものはないかと探したところ、「大いなる遺産」を発見した。

我が家の階段脇に文庫本が入るサイズの棚が作り付けられているのだが、そこには、未読のディケンズ「大いなる遺産」、ユゴー「レ・ミゼラブル」、フィールディング「トム・ジョウンズ」が並んでいて、階段を上がる時に、しばしば「いつ読んでくれるの?」と本の固まりがプレッシャーをかけてくる。

その「大いなる遺産」のドラマ版、各回約1時間で全3話、見やすい長さである。これがめっぽう面白い。「荒涼館」でも感じたが、「大いなる遺産」もプロットがシンプルで分かりやすい。さらに、ちょっとしたミステリー仕立てになっていて、シャーロック・ホームズの探偵小説や、アガサ・クリスティーを生み出した土台は、ディケンズだったのではないかと思わせる。

主人公のピップは、親は他界しており、姉とその夫である鍛冶屋のジョーと共に貧しい土地に住む。ピップはクリスマス・イブの日、両親が眠る墓地を訪れていたところ、足枷を付けた脱走囚マグウィッチに遭遇する。マグウィッチはピップを脅し、ヤスリと食料を届けさせる。

ピップの身の上には、もう一つの不思議な出来事が起こる。近隣に豪邸“満足荘〜Satis“を構える、謎の女主人、ミス・ハヴィシャムに屋敷に招かれる。そこには、彼女が養子にした少女エステラが同居していた。ミス・ハヴィシャムはどんな意図を持って、ピップを呼んでいるのか。

ピップの成長とともに、その人生は変動していく。

全3話という構成で、とにかくテンポが良い。ダレ場が全くなく、ドラマの世界に一気に引き込まれ、最後まで駆け抜けることができる。シリーズ・ドラマの中には、長々エピソードを見せられった挙句、この程度のドラマだったのかと落胆することがまれにあるが、そんな心配は全く無用である。

BBCのドラマは、当時のロンドンの空気を見事に再現し、丁寧に作り上げられている。それも、このドラマの魅力である。

「大いなる遺産」の原題は、“Great Expectations“である。‘Expectations‘(通例では複数形)、‘遺産‘ではあるが‘見込まれる遺産相続‘(リーダーズ英和辞典 第3版)である。‘Expectations‘に翻弄される、ピップの運命やいかに。ドラマを楽しむことができると共に、ディケンズの代表作の一つを、取り敢えず頭に入れておくことができる。

ミス・ハヴィシャム役には、「荒涼館」にも出演,「ザ・クラウン」ではサッチャー首相を演じた、ジリアン・アンダーソン。怪演とも言える芝居。成長したエステラ役の女性も、見たことあると思ったら、やはり「ザ・クラウン」でマーガレット王女を演じたヴァネッサ・カービーだった。

テンポが早い分、もう少し深く知りたい箇所が残るのはやむを得ないだろう。うーん、階段脇に並ぶ文庫本を開こうか



*‘expectation‘を辞書で調べると、新英和大辞典第6版<遺産相続の見込み>、ジーニアス英和大辞典<遺産、(遺産相続の)見込み>、学習系のウィズダム英和辞典第4版<(遺産相続の)見込み>と、基本の意味<予期、期待>といったことに加えて語釈が掲載されている。ところが、不思議なことに、学習系の王者、ジーニアス英和辞典第5版には見当たらない。(最新の第6版は未確認)古い使われ方と判断したのだろうが、ディケンズの代表作のタイトルにもなっているのだから、是非掲載して欲しいものである。

**今回、色々調べていたところ、BBCは「ピーキーブラインダーズ」などを制作したスティーブン・ナイトの下,「大いなる遺産」をリメイク。今月イギリスで公開されるようだ。ミス・ハヴィシャムはオスカー受賞歴もある、オリビア・コールマンが演じる。日本でも,そのうち配信されるだろう。



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