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“あと一日だけがんばる“ことの重要性〜大坂環著「トンネルの向こうへ」

テニスの大坂なおみが、2ヶ月ぶりにツアーに復帰した。初戦は勝利、2回戦は強豪ガウフに敗れたが、まずは再スタートを切ること、まずは「一日だけがんばる」ことが重要だ。一日一日の積み重ねに夢の実現があるはずだ。

買っておいた本があった。彼女の母、大坂環の著書「トンネルの向こうへ」、副題が “「あと一日だけがんばる」無謀な夢を追い続けた日々”である。

番組名を忘れたのだが、ラジオ番組に大坂環さんが出演した。彼女がスタンドから娘を応援する姿は、しばしばテレビの画面に映し出された。また、親の反対を押し切り結婚、北海道から大阪を経てアメリカに移動した家族の話は、断片的にメディアにも登場した。

そんな彼女が、ラジオに出演し、本書のさわりを紹介していた。その内容もさることながら、想像するに大変な日々を、比較的軽やかに、しかも飾らずに話す語り口に惹かれ、購入していたのである。大坂なおみ復帰のニュースをきっかけに読んだ。

根室の良家に生まれた女性が、ハイチ人のマックスと知り合い、駆け落ちさながらに結婚し渡米する。これだけでも十分なドラマなのだが、彼らの“無謀な夢”は<子供たちを「プロのテニスプレイヤーに育てよう」>、なおみが赤ちゃん、姉のまりが3歳の時である。

その原動力は、夫のマックスさんで、環さんはその行動力に振り回される。それでも、家族が日々暮らせたのは、環さんの生活力・マネジメント力、くじけない力、そして娘たちに対する愛情がある。

そのチャレンジの日々を、<「お金がない」「働きどおしだった」 そして、「泣いてばかりいた」>と表現する。23歳で結婚してから、<「もう一日がんばってみよう」>という日々が続く。

二人の娘がプロテニス選手になると、環さんの負担は減るどころか、彼女たちのマネジメントも必要となり、まさしく二刀流・三刀流、睡眠不足がたたり、通勤の車の運転時に眠くてたまらなくなる。<気づいたら、自宅に着いていた>ということが、何度かあったとのこと。

それを聞いた二人の娘が、必死に仕事を辞めさせようとする。大坂なおみは、<「私はチャンピオンになる。信用して!」>と。驚くのは、そうして環さんが仕事を辞めるのは2018年、この年に大坂はインディアン・ウェルズで優勝し、さらには全米オープンにも勝利する。あの頃まで、環さんはギリギリの生活を送って来ていたのである。

ラジオのインタビュー同様、赤貧洗うが如しの生活であるにもかかわらず、そのトーンはどこか楽しげで、あっけらかんとしている。

そして、本の最後に、独立した二人の娘に対して、<自分で考えて、なんでもやってみなさい>と励ましつつ、<だけど、もしもこの先、ケガをすることがあったときには、その傷の手当てができる場所をつくっておいてやりたい>と書く。

私も、二人の娘を持つ親として、セーフティーネットを提供するくらいしかできることはないが、それはそれで重要なのだと思う。

環さんの父親は、彼女の結婚に反対し、生まれてきた孫には優しいが、娘には<「野垂れ死にせえ」>と言う。これが、環さんの心に火をつけ、<「いつか見てろよ」>という力になった。しかし、お父さんは、そう言いつつも、心の中ではセーフティーネットを用意していたのではないだろうか。

この本の根底に流れる明るさは、そうしたことも手伝っているのではないかとも感じた


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