ずっと書けなかったイベント〜松任谷由実「深海の街」ツアー(番外編)
(承前)
松任谷由美「深海の街」ツアーが、“良い意味で“私のイメージと違っていたと書きながら、過去はどうだったのだろうと思ってしまった。
ユーミンは、苗場での「Surf & Snow」など、さまざまなコンサートを行なって来ているが、今回のツアーのように、新アルバムを引っ提げてのものは、2016年11月発売の「宇宙図書館」ツアーとなる。
セットリストを調べてみた。全23曲、内1曲はメドレー。「宇宙図書館」からは、9曲が歌われており、新曲の比率という意味では、今回のツアーとほぼ同じである。
セットリストにしたがってプレイリストを作り、聴いてみた。新曲から落ち着いて始まるが、中盤から一気に加速し、“これぞユーミン“、つまり私がイメージしていたショーである。エンディングこそ、新曲“GREY“で締めるが、アンコールが凄い。
2曲目の怒涛のメドレー。“DANG DANG“、“14番目の月“、“守ってあげたい“、“埠頭を渡る風“、“真珠のピアス“、“春よ、来い“、“カンナ8号線“、“DESTINY“と来る。アンコール3曲目の“卒業写真“で幕が閉じられている。
このコンサート、観ておきたかったと思う。一方で、これを観たら「やっぱりユーミンは凄かった」で終わっていたようにも思う。今回のように、松任谷由実というアーチストを、より深く理解しようとはしなかっただろう。
松任谷由美が、これだけ長い間第一線で活躍している理由は、単純化すると彼女の持つ2つの顔である。「深海の街」ツアーで、メインの最後で歌われた“水の影“が収録されたアルバム、「時のないホテル」を例にとろう。
表題作“時のないホテル“は、まるでミステリー小説のような楽曲である。少しヤンチャだった女性が結婚に向かう“セシルの週末“、骨髄性白血病に苛まれた男性を歌う“雨に消えたジョガー“、<♫最初からわかってたのは パンプスははけないってこと>と歌い出される、“5cmの向こう岸“、汽車のコンパートメントで、睡眠薬を飲み自殺を図る“コンパートメント“と、魅力的かつ文学的な曲が揃っている。
このアルバムは1980年6月にリリースされたが、この半年後に発表されたのが、“恋人がサンタクロース“を含む「SURF & SNOW」である。
この2つのアルバムに見られる通り、欧州の落ち着いた雰囲気とリゾート、内省的と祝祭、思索と活動といった2つの顔が松任谷由実の作品には見られるのだ。
松任谷由実は、時代のアイコンだったのだが、ベースにあるものはより深い、普遍的でありかつ創造的な世界なのである。ファンの方々からすると当たり前のことなのだろうが、「深海の街」ツアーを体験し、私は強く感じた。もっと言うと、文学、思索、内省といった要素が彼女の本質なのだろうと思う。一流のエンターテイナーであることは論を待たないのだが、松任谷由実Nakedは別のところにある