「死との約束」〜アガサ・クリスティー、無名の名作

先月、三谷幸喜xアガサ・クリスティーのスペシャルドラマ第3弾が放送された。第1作は「オリエント急行殺人事件」、第2作は「アクロイド殺し」ならぬ「黒井戸殺し」、そしてこの第3作は「死との約束」だった。

「死との約束」? このドラマの第1・2作に取り上げられたような、アガサ・クリスティーの超有名作品は大抵読んでいる。それ以外についても、このようなリストー日本のファンクラブのベスト、アガサ・クリスティーの自選ベストーを眺めながら、「予告殺人」「火曜クラブ」などを読みつつ、それ以外も未読までもタイトルは認識しているつもりだっが、「死との約束」は私の意識の中には留まっていない。

ドラマを観たところ、なかなか面白かったので(松坂慶子の存在感が良かった)、原作にあたってみた。本作は、「メソポタミア殺人事件」、「ナイルに死す」に続く、中近東シリーズの3作目、1938年に発表された。「ナイルに死す」は前述のファンクラブ投票では5位と、名作の誉れが高く、本作はこの影に隠れているように見える。

エルサレムに滞在中のポアロ、部屋の窓を閉めようとしたところ、話し声が聞こえてきた。「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」 そして、ポアロには分からないが、読者は、それがポイントン家の次男レイモンドが、長女のキャロルに向けて言った言葉であることを知る。金持ちの同家は母親のポイントン夫人が子供達を金銭的/精神的に支配し、一切の自由を許さない異常なファミリーである。松坂慶子が演じたのが、ポイントン夫人の役である。

小説は、このファミリーに外側の登場人物が絡み、想像に難くない人物の死が訪れ、その謎の解明へと進む。見事なのは、その解明が関連する人々の証言、その背後にある動機が見事に結びつき、その動機と各人の人格設定が整合的に描かれている。さすが、女王クリスティーである。

クリスティー作品をもう少し読むというのが、私のTo Doリストの中にあり、霜月蒼著「アガサ・クリスティー完全攻略」という本を買っていたので、参照してみた。この本では、全作品のオススメ度を付していて、満点は星5つの5点、<未読は許さん、走って買ってこい。>である。さて、この「死との約束」はといえば、満点の5点だった。著者は、<傑作だ、これまで題名さえ知らなかったが、これは素晴らしい>と評する。

ちなみに、「ナイルに死す」は4.5点となっていて、両作は<よく似た作品だが>、「死との約束」の方が<クリスティーのキャリアにとって重要である気がする> 、と霜月は書く。

「死との約束」、”走って買ってこい”!


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