Netflix「極悪女王」出遅れたけれど一気観した!〜フィクションとドキュメンタリーの融合
今年9月に配信開始された、Netflixのドラマシリーズ「極悪女王」。かなり出遅れたけれど、あまりに面白く全5話を一気に観てしまった。
主人公は悪役女子プロレスラー、ダンプ松本。“全女“と言われた全日本女子プロレスの最初のスターはマッハ文朱、その後、1976年に結成されたジャッキー佐藤/マキ上田の“ビューティー・ペア“が一世を風靡した。ダンプはその後の世代である。
私はプロレスファンではあったが、女子プロレスは色眼鏡で見ていて、特に興味を払わなかった。それでも、前述のレスラーは目に入ってくるような存在であり、ダンプ松本も然りであった。
ただし、あくまでも横目で見ていた程度であり、彼女たちの姿をしっかりと認識したのは、柳澤健が著した「1985年のクラッシュ・ギャルズ」(文藝春秋、光文社文庫としても復刊)を読んだ時である。
本書の中心は、長与千種とライオネル飛鳥の“クラッシュ・ギャルズ“、「極悪女王」は、もちろんダンプ松本が主役で視点が異なる。ただし、「極悪女王」は三人の群像劇にも見えるし、“全女“という団体を映したドラマとも言える。
長与・飛鳥・松本の三人は同時期に入門、苦労を重ねながら、それぞれの個性を活かしてスターダムにのし上がる。
柳澤健の著書はノンフィクションだが、このドラマはあくまでもフィクションではある。とは言え、“全女“のドキュメンタリー的な見せ方がされる。さらに、ダンプ松本を演じるゆりやんレトリィバァ、長与千種の唐田えりか、ライオネル飛鳥役の剛力彩芽、彼女らがそれぞれの役柄を演じあげるというノンフィクションのようにも見える。
それくらい、彼女らの肉体的・精神的変化が凄まじいのである。
その最右翼は、もちろんダンプを演じるゆりやん。
思い出したのが、1977年のドリー&テリーのファンクス兄弟とブッチャー/シークのタッグマッチ。ブッチャーが凶器のフォークを取り出し、テリーを血まみれにした試合である。ゆりやんのダンプは、この時のブッチャーをはるかに上回る迫力で迫ってくる。
唐田/剛力も、“負けたら引退“くらいの熱量、女優生命をかけて戦っている。他の“全女“レスラーも素晴らしい。
良い味出しているのが、“全女“の経営者である松永兄弟。五男役が斎藤工である。
皆が役作りする中、エンジョイしているように見えるのが、名物アナウンサー志生野温夫役の清野茂樹。古館伊知郎を継承するスポーツ中継アナだが、素のままで“全女“を追体験しているように見える。
企画・共同脚本は鈴木おさむ、彼を始めNetflixの制作陣の手腕がうかがえる。
本作に刺激され、11月21日発売の「Sports Graphic Number」(文藝春秋)は、“「極悪女王」秘話“という特集。ドラマを観た後、この特集を読むと、面白さが増幅される。
ドラマ後までカバーする、前述の「1985年のクラッシュ・ギャルズ」も「極悪女王」の世界を深掘りする上で、お勧めである。本稿書くにあたって、再度開いてみたのだが、読み始めたら止まらなくなった。
ドラマでありドキュメンタリーでもある「極悪女王」、お勧めです。ただし、反則シーンは本当にすごいです