三浦文彰x清水和音 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会II(その2)〜名曲!!第7番Op30-2
(承前)
休憩を挟んで演奏されたのが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第7番 Op30−2 イ短調。6番・8番と共に、1802年の春頃に完成されたとされる。
一度聴いたら忘れられない主題が、ピアノとヴァイオリンで演奏される。私は“不安“を感じる、音楽によりベートーヴェンの、そして多くの人が時折抱く感情が表現されるのだ。この日演奏された、第3番・第6番とは違った世界が、この第1楽章では提示される。“不安“と共に、長調に転調して奏でられる“希望“が交互に提示されていく。
そんな気持ちの揺れを鎮めるかのように、第2楽章は美しい。三浦文彰が鳴らすヴァイオリンの音は、純粋さを保ちながら流れていき、清水和音のピアノが呼応する。
第3楽章のスケルツォはハ長調で、楽しい。人間は深刻さだけでは生きていけない。遊びが重要である。この楽章により、聞く人の気持ちは一旦弛緩される。
フィナーレは凄い! としか言いようがない。音が迸る、その勢いは誰にも止められない。ヴァイオリンとピアノが、時には戦っているかのように対峙する。聴力の低下による苦しみと、芸術への思いを爆発させるがごとく、音楽を紡いでいる。これはロックしている!
第6番から第7番への変容はとてつもない。この第7番は、全く違った次元の音楽になっている。ベートーヴェン31歳の年。その音楽の進化を象徴するような1曲である。
翌年、ピアノ協奏曲第3番、交響曲第3番“英雄“、ピアノ・ソナタ第21番“ワルトシュタイン“ができあがる。ベートーヴェン、30歳代の怒涛の進撃が始まる。
名曲を名曲として聴かせてくれる演奏、それは名演なのだと思う。三浦文彰・清水和音に感謝したい。
アンコールを促す拍手に応え、三浦が「ベートーヴェンではないのですが」と演奏したのは、ポンセ作曲「エストレリータ(ハイフェッツ編)」。
蒸し暑い“海の日“の午後だったが、サントリーホールは満足感で満ちていた
*参考:クレーメル/アルゲリッチの演奏
ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第7番 第一楽章 第二楽章 第三楽章 第四楽章
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