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いにしえの本牧亭〜伯山ティービーから安藤鶴夫

かつての寄席は畳敷きだった。畳敷きということは、靴を脱ぐ。そこには下足番がいて、下足札を貰って客は入場する。知識としては知っている、写真も見たことはある。が、体験したことはない。

8月27日放送のTBSラジオ「問わず語りの神田伯山」で、伯山がそのYouTubeチャンネルに、今はなき本牧亭の貴重な映像をアップしたと話していので、早速視聴する。

YouTubeのチャンネル「伯山ティービー」、昨年の真打披露興行から始まり、面白いコンテンツを配信して来ているが、最近は【講談放浪記】と称して、講談ゆかりの地を取材し放送している。その第4回が“鈴本演芸場〜本牧亭の記憶をたずねて“というタイトルである。

私も知らなかったが、鈴本演芸場のルーツは、安政4年(1857年)に立った講談の定席「軍談席本牧亭」にあったそうで、戦後、本牧亭を復活させた。残念ながら、その本牧亭も1990年に閉場となったが、その辺りの思い出を、鈴本の現席亭 鈴本敦氏に伯山が聞く。

そして公開されるのが、ホームビデオで撮られた、本牧亭の様子である。畳敷きに客が座り高座を聞く姿が動画で見ることができる。さらに、名物の下足番のおじさんと下足棚、下足札。“テケツ“、入場券売り場。当時の空気、匂いを感じることができる、貴重な映像である。

安藤鶴夫の著作に「巷談 本牧亭」という作品がある。本牧亭や講談を狂言回しにした連作小説で、1964年の直木賞に輝いた作品である。この映像を見た後、本棚から取り出してみた。

冒頭は、主人公が地下鉄の上野駅から地上に出るシーン。赤札堂の屋上からオルゴールで「荒城の月」が流れる。それを聞きながら、広小路を歩き、<交通公社と根岸カメラ店の横丁を左へ曲がると、左ッ側に、ほんの一と足で、かわいい幟を立てて、本牧亭がある>。まさしく映像の通りである。

この日は、本牧亭で講談忘年会が開かれるが、<女主人のおひでさん>が登場する。伯山ティービーで紹介される、鈴本演芸場の大旦那の娘、石井英子さんがモデルであろう。

あとがきで“あんつるさん“は、<小説だから、むろん、うそはある>としながら、実在の人物も登場するので、<そのひとたちの本質を曲げることのないうそをついた>と書いている。

小説の中のおひでさんは、現存するとんかつ屋「武蔵野」で開かれたクラス会に参加するが、中座して、客席で中入り時にお菓子を売り歩く。中売りの品には、かきもちや薄荷糖が含まれ、<東京ッ子らしい心づかいをした>。

神田伯山の人気で、講談という話芸が少し見直されてきている。安藤鶴夫の書いた世界が復活することはないが、“本牧亭の空気“は伝承されていると思う


献立日記(2021/8/30)
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