手の中の音楽19〜ジョニ・ミッチェル「レディズ・オブ・ザ・キャニオン」
映画「コーダ あいのうた」の中で、ジョニ・ミッチェルの名曲“青春の光と影(Both Sides, Now)”が重要な位置を占めている。
その一番は、こう締めくくられる。
I'v looked at clouds from both sides now
From up and down, and still somehow
It's cloud's illusions, I recall
I really don't know clouds at all
私は両側から雲を見た
上方からそして下方から、それでも何故だか
それは雲のまぼろし、私が思い出すのは
本当のところ、私は雲を全然分かっていない(拙訳)
この後、両側から見るのは、「雲(Clouds)」から「愛(Love)」そして「人生(Life)」へと移っていき、最後は“本当のところ、私は人生を全然分かっていない”と終わる。
ジョニ・ミッチェルの2枚目のアルバム「青春の光と影(Clouds)」は、最後の曲として名曲“Both Sides, Now”を収録しているのだが、アルバム自体はやや地味な感じである。
私が好きなのは、次のアルバム、3作目の1970年の「レディズ・オブ・ザ・キャニオン(Ladis of the Canyon)」である。
朝はこの曲と共に起床したいと思わせる、"Morning Morgantown”から始まるこのアルバムは、ジョニ・ミッチェルの才能が開花した、前作よりも幅が広がった作品になっている。
そのクライマックスは、“♪ 彼らは楽園を舗装し 駐車場を、ピンクのホテル、ブティックや流行りのスポットを作った ♪“という歌い出しで、環境破壊を表現したアップテンポの"Big Yellow Taxi"を含むラスト3曲である。続くのは、”愛と平和と音楽”のフェスティバル、ウッドストックを描いた"Woodstock"。CSN&Yのバージョンも有名で私も好きだが、ジョニ・ミッチェルの吟遊詩人のようなパフォーマンスも素晴らしい。
そして最後は、少年が20歳になるまでの人生を、美しく映し出す、"The Circle Game"である。この圧巻の名曲3連発で名盤は幕を閉じる。
ジョニ・ミッチェルは翌1971年、名盤中の名盤「ブルー」を発表する。以前に書いたが、「Blue」は米Rolling Stone誌が2020年に発表した”史上最も偉大なアルバム500”で3位にランキングされた。
その時の繰り返しになるが、私にとっては「レディズ〜」が愛聴版である。「コーダ」を観て、再び思った