村上春樹プロデュース「村上JAM Vol.3」〜腕っこきによる“熱く優しい“ジャズ
村上春樹がディスクジョッキー(これって、素敵な言葉ですよね)を務める、Tokyo FMの番組「村上RADIO」。2018年に始まり、月1回のレギュラー化、6月で64回を数えました。そこから派生したライブ「村上JAM」は今回で3回目。今回は会場が大きくなり、すみだトリフォニーホール。
ステージ上にはラジオ・ブースのセットが置かれ、「村上RADIO」のオープニング、ドナルド・フェイゲンの“Madison Time“とともに、舞台に登場した村上春樹は「毎回会場が大きくなります。次はマジソン・スクエア・ガーデンかなぁ」と冗談を飛ばしていました。
村上さんと共にMCを務めるのは坂本美雨。坂本龍一と矢野顕子の娘で、初めて本人を目にしましたが、矢野さんのふっくら・おっとりとした感じと、お父さんのキリッとした印象、両方を感じさせくれます。ちなみに、村上さんは随分昔に白金にあった蕎麦屋「三合庵」(今は広尾に移転)で、隣のテーブルにいらっしゃったので、“生“村上は今回二度目です。
今回は“熱く優しい、フュージョンナイト“と題されたライブ。冒頭のトークで、坂本美雨が「フュージョンとは?」と訊ねると、村上さんは「説明しだすと2時間くらいかかるけど」とし、代表的な演奏家としてマイルス・デイビスの電子楽器グループ、スタッフ、クルセイダーズ、ボブ・ジェームスなどを挙げながら、「ざっくり言うと、フリージャズとモードジャズが走る中、コルトレーンの死などもあって、ジャズの進化が行き詰まっちゃった。そんな時に現れた新しいジャズスタイル」という感じで説明されていました。
今回のライブのための音楽監督はピアノ/キーボードの大西順子。一時は引退を決意しながらも、小澤征爾/村上春樹によってジャズの世界に連れ戻された方。この二人に説得されたら翻意せざるを得ないですよね。村上さんは「大西さんのエレピが結構好き」と話していました。
始まったライブですが、これで即席のバンド(大西順子曰く、ほとんどぶっつけ本番的)なのかと思うほど、それぞれが個性を示しつつつ、互いに共鳴しあうステージで、腕っこきのミュージシャンが集うとこうなるのかという感じでした。
全体を引っ張るのは、大西順子とエレキ・ギターのマイク・スターン。1953年生まれの彼は、マイルス・デイヴィスが引退状態から復帰した80年代の“カムバック・バンド“に参加しました。
もちろん、他のメンバー、ベースのジョン・パティトゥッチ(1959年生まれ)は6弦エレキ・ベースを駆使して、素晴らしい演奏。ドラムのエリック・ハーランドは、1976年生まれと相対的には若いのですが、6人の個性を包み込みながら、パティトゥッチとの痺れるような掛け合いでは自身を表現していました。
テナーサックス/ソプラノ・サックス/フルートのカーク・ウェイラムは、“スムーズ・ジャズ“でグラミー賞を獲得した人ですが、そのリリカルなフレーズが素晴らしい。1980年生まれと、ダントツに若い黒田卓也の尖ったプレイと良い関係を響かせていました。黒田は、前半最後の“Spain“(by チック・コリア)のアランフェス交響曲のフレーズも!
村上さんの思惑通り、素晴らしい演奏家が創った2024年のフュージョン、客席は大満足でした、前半・後半の演奏が終わり、最後はアフタートークということで、村上さんがメンバーに質問。“十代の頃のアイドル音楽家は?“、“練習は好きですか?“。第1曲“Jean Pierre“(マイク・スターンが参加したマイルスのライブ・アルバム「We Want Miles」(1982年)所収)は村上さんからの、リウエストだったそうです。
17時の開演から3時間が経過し、「村上JAM Vol.3」はほぼ強制的に終演。翌日(6月30日)夜は、ブルーノート東京でのライブ、こちらは配信もあります
■セットリスト(こちらの記事より)
前半
1、Jean Pierre
2、Tipatina's
3、Ana Maria
4、Spain
後半
5、Direction
6、Cantaloupe Island
7、Wing and a prayer
8、Chromazone
アンコール
Some Skunk Funk