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新入幕の獅司と日本の“ママ“〜中日を終えた大相撲九州場所

大相撲九州場所、中日を終えて折り返しとなった。28年ぶりの満員札止めだそうだ。九州場所は他の場所のように、チケットを安定的に販売してくれる相撲茶屋がないことが、札止めにならない要因とされている。それが、大の里というスター候補の台頭、元大関魁皇の浅香山親方始めとする協会の努力もあり、連日満員御礼。そのこともあってか、熱戦が多い印象だ。

中日(11月17日)現在、大関・琴桜と豊昇龍、平幕の隆の勝と阿武剋が1敗、大の里・尊富士らが2敗で追う展開と、なかなか面白い展開になっている。

見どころは沢山あるのだが、新入幕の獅司についてのエピソード。

ウクライナ・ザポリージャ州出身の27歳。4年前に初土俵を踏んだが、その後にロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。ザポリージャ州といえば、原子力発電所がある場所で、ロシア軍が制圧した。獅司の両親はウクライナ在住、さぞかし心配だろうと思う。

幕内に上がった獅司は、「幕内に上がってお金いっぱいもらって、ママ、パパに送ります」と、新入幕に向けての決意を口にしていた。

そんな獅司には、強力な日本の「ママ」がいることが、報道されている。初日のNHK大相撲中継を見ていたら、放送席から獅司の師匠・雷親方(元小結・垣添)のおかみさんについてコメントがあった。

おかみさん、栄美さんは、日大相撲部出身で3度の日本一に輝いた、女子相撲のパイオニア。彼女が、元々は右四つの獅司に左四つを勧めたとの解説。舞の海だったと思うが、「おかみさんが相撲を教えてくれるなんて、すごいですね」と。

11月12日付の朝日新聞に詳細が報じられていた。栄美さんは、十両時代の獅司が左手を痛めていることに気づいた。右四つの場合、左手が上手になるので、逆の左四つを進めた。記事によると、<慣れない動きに獅司は「嫌だ、嫌だ」と渋ったが結果は出た。雷親方への相談はなく、親方が獅司の変化に驚いたと言う。

相撲部屋のおかみさんといえば、厳しい稽古・普通とは異なる生活環境に苦しむ若者たちを、“母親“として支える存在というイメージだが、栄美さんは、相撲技術の指導まで行っているのだ。

11月14日付の日刊スポーツにも囲み記事が掲載されていた。見出しは、「獅司 もう1人の“師匠“」。稽古とちゃんこ、そして就寝時にしか部屋にいない獅司。栄美さんが探したところ、公園でウクライナの家族に電話したらしい。<「ママ、ママ」って本当に心配でした。そんな獅司に、本当の家族とは違うが、<「(部屋の)みんなファミリーだよ」>と教え込んだ。

さらに雷親方のコメント。<「技術的なこともね、向こう(おかみ)の方が詳しいから」>。強力な「ママ」の指導もあり、獅司は新入幕を果たした。

喜びをあらわす際、「うれしし(獅司)」とコメントするのが、ちょっとした話題になっているが、今場所は初日から2連勝したものの5連敗、中日は白星としたので、現状「うれしし」3勝に5敗。

「流行語大賞」を目指し、そしてウクライナの「パパとママ」を元気づけるためにも、後半戦の活躍を期待したい


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