見出し画像

“成瀬“の後に続いたものは〜宮島未奈の「婚活マエストロ」

本屋大賞を受賞した宮島未奈著「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)、そして続編「成瀬は信じた道をいく」(同)。大いに楽しんだので、新作「婚活マエストロ」(文藝春秋)がAmazon Audibleに入ったので“聴く読書“した。

主人公の猪名川健人は40歳、フリーのライター。一人暮らし、在宅仕事で、誕生日といっても特段のイベントはないのだが、外に出ると箒を片手にした健人が住むマンションのオーナー、田中が<「よう、ケンちゃん!誕生日おめでとう!」>と声をかけてくる。健人は大学入学時に住んだマンションで、いまだに暮らしているのだ。

その田中が、仕事の依頼をしてくる。知り合いがやっている婚活会社のPR記事を書いて欲しいと。

こうして、健人が出会うことになるのが、“婚活マエストロ“と称される鏡原奈緒子である。

私は24歳で結婚し、40年近くが経過する今も、無事に続いているので、“婚活“なるものを考えた経験はない。それでも、“出会い“の機会に乏しく、“婚活“を実践している人が存在することを、認識はしている。私の若い頃は、“お見合い“という仕組みが機能していたが、それに代わる仕組みとして“婚活“はマッチメイキングのための重要なのだろう。

その程度の理解だったので、この小説を読んで、“婚活“がどのようなものなのか。そこに集まる人々について、ほんの少しだけれど理解が深まったように思う。利用するつもりはもちろんないが、興味が湧いた。

「そう言えば、IBJ(私がかつて勤めた銀行の英語略称)という名の婚活ビジネス会社があったな」と思い、ネットで検索した。会社のサイトによると、婚活サービスは大別すると、“婚活アプリ(ネット婚活)“、“婚活パーティー“、“結婚相談所“の3つがある。IBJが手がけるのは、結婚相談所サービス。現代版“お見合い“と言えるだろう。

一方で、「婚活マエストロ」が描くのは、“婚活パーティー“。それに参加する人々の目線と、鏡原らパーティー運営側の視点、それをつなぐのがライターの健人である。

前述のIBJサイトによると、“婚活パーティー“のメリット・デメリットはこうである。

メリット
・必ず異性に会える
・一度に複数のお相手と出会える
・参加ごとの料金支払いなので、気軽に参加できる
デメリット
・限られた時間で自分をアピールできないといけない
・一度に複数人と出会うので、目移りしやすい
・カップリング後に進展しないことも多い


なるほど、なるほど。「婚活マエストロ」で読んだ通り。つまり、マエストロ・鏡原の能力は、このデメリットをいかに極小化するかにある。

宮島未奈の小説は、Amazon Audibleで“聴く読書“するのに最適。リズムがよく、文章が素直で、頭にスッと入ってくる。

そして“成瀬“シリーズ同様、本書も気持ちを少し暖かくしてくれるのだ。

この小説には、“成瀬“のようなスーパー・ウーマンは登場しない。それだけに、現実に寄り添うように、“普通の人“が動いて回る。

“スーパー“ではないけれど、ちょっとだけ特別な“婚活マエストロ“ 鏡原さんと健人の奮闘ぶり、素直に楽しめる小説である


いいなと思ったら応援しよう!