ウィントン・マルサリスの芸術(その1)〜2023年3月25日サントリーホール
今、外国のジャズ・アーチストで、新宿文化センター(1800席)を2日、サントリーホール(2000席)1日というコンサートを開催できる人はどのくらいいるのだろう。ちなみに、ブルーノート東京のキャパは400〜500だと思う。
今回、その規模で来日コンサートを行ったのは、トランペットのウィントン・マルサリス。アメリカのジャズの顔とも言えるミュージシャン、当然なのだろう。奇しくも私と同じ歳の1961年生まれ。ジュリアード音楽院を在学中から、プロとしてキャリアをスタートし、1982年にはデビューアルバムをリリース、終始表街道を歩んできた彼も、円熟の年齢に達した。
1980年代後半からは、ニューヨークの音楽の中心地、リンカーン・センターでジャズ公演を推進し、当地を本拠地とするニューヨーク・フィル、メトロポリタン・オペラと並んで、ジャズ部門は独立した組織となり、Jazz at Lincoln Center Orchestra(JLCO)の活動へとつながっている。
また、2008年はウィリー・ネルソンと、2011年はエリック・クラプトンと共演した魅力的なアルバムを出している。
私は縁がなく、コンサートに行くことはこれまでなかったのだが、今回初体験となった。ウィントン・マルサリス・セプテット(七重奏団)としての来日である。
ステージに登場すると、盛大な拍手。東京3日間の最終日、観客の期待が込められている。セプテットとは言っても、曲によって構成を変え、テナーとアルトのサックス奏者は、曲によってソプラノ・サックス、フルート、クラリネットなどに持ち替える。曲調もバラエティに富み、あっという前に前半最後の“Stardust“が演奏され、50分経過で休憩となった。
マルサリスは終始リラックス・ムードだったが、後半のテナー・サックスとピアノ、リズム・セクションいよるカルテット演奏の時、彼の表情が面白かった。出番ではない彼は、ニコニコしながらピアノ脇に腰掛け、演奏を聴いている。ピアノ・ソロに入ると、ピアニストの手を覗き込みながら、「へぇーそう来る」「そう閉じるわけね」といった表情を浮かべ、「なかなか良いね」とうなずく。当たり前だけれど、この人は本当にジャズが音楽が好きなのだということがよく分かった。
演奏は、都会的で洗練されていて、心地よく身をゆだねられる音楽である。全体の構成も完璧で、まさしく“芸術的“なジャズ・コンサートである。マルサリスはもちろんのこと、他のメンバーも手練のミュージシャンだが、リーダー以外ではトロンボーンのクリス・クレンショーが特に印象的だった。
アンコールの1曲目が終了し、大拍手とスタンディング・オベーションで見送られ、場内に「本日の演奏は、以上で終了です。。。。。」というアナウンスをかき消すように拍手が続く。
すると、バンドが再び登場。始めたのは、ニューオーリンズ流の楽しい曲。後で確認すると、ジェリー・ロール・モートンの“Dead Man Blues“だった。軽快な演奏、客席の盛り上がり、楽しい時間を過ごすことができた。
帰宅してから、ふと思い出したのが、村上春樹の「意味がなければスイングはない」である。確かマルサリスについての章があったはず。明日は、そのことについて
メンバー
ウィントン・マルサリス(トランペット)
ダン・ニマー(Dan Nimmer、ピアノ)
カルロス・エンリケス(Carlos Henriquez、ベース)
オベド・カルベール(Obed Calvaire、ドラム)
クリス・クレンショー(Chris Crenshaw、トロンボーン)
クリス・ルイス(Chris Lewis、アルトサックス)
アブディアス・アルメンテロス(Abdias Armenteros、テナーサックス)
セットリスト(Setlist.fm より)
Set 1:
Knows-Moe-King
Tenor Madness
Tom Cat Blues
Knozz-Moe-King (Interlude)
The Dance We Do (That You Love Too)
Stardust
Set 2:
Sophie Rose-Rosalee
Ballot Box Bounce
Number 3
Moscow Blues
Encore 1: Number 6
Encore 2: Dead Man Blues