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ずっと書けなかったイベント〜松任谷由実「深海の街」ツアー(その2)

(承前)

オープニングは、荒井由美時代の最後のシングル、1976年の“翳りゆく部屋“。荘厳な曲調で始まるこの曲は、ショーの開幕にふさわしいと思うが、男性と別れ変化していく部屋を歌うのだが、強烈なのは、

♫どんな運命が 愛を遠ざけたの
輝きはもどらない わたしが 今 死んでも♫

この<わたしが 今 死んでも>というフレーズが、頭からなかなか離れない中、次の曲が81年の“グレイス・スリックの肖像“。ジェファーソン・エアプレインのボーカルを歌った曲だが、これも物悲しい。

そして「深海の街」から、“1920“。<♫アントワープの静かなオリンピック 空席だらけのコロシアム>、アルバムは2020年に出されたものですが、私は2021年の東京オリンピックを連想しました。本人の解説によると、彼女の母親が100歳になり、生年の1920年は五輪・スペイン風邪の流行と、現在との共通項を感じ、作品にしたとのこと。

3曲スローテンポが続き、4曲目「深海の街」からの“ノートルダム“でテンポは上がるのだが、題材となっているのは2019年に消失したパリのノートルダム寺院。喪失と希望、ウクライナにおける戦火に思いを馳せずにはいられない。

5曲目はアルバム・タイトルとなった“深海の街“、深海の中で、何かに呼ばれている、何かを探している。松任谷由美は、このショーを通して、時空を超えた精神の旅を提示しているようにも感じる。

続いて、1981年の“カンナ8号線“、そして1983年の“ずっとそばに“、ここに来て私のイメージしていたコンサートが始まった感があった。

新曲が続くのだが、ポップな“What to do? wa woo“、ユーミンらしい優しさの“知らないどうし“、“あなたと私と“と来たので、これはギアが変わったかと思った。

この辺りで、コンサートは折り返し点である

引き続き新アルバムから、“REBORN 〜太陽よ止まって“。ラテンのリズムなのだが、決して軽くはなく、 REBORN=“再生“というところに、強いメッセージ性を感じる。

次も「深海の街」から、“散りてなお“。まるで和歌が現代によみがえったような名曲だと思う。ただ、<♫散りてなお 咲いている 君の面影胸に>、<♫手を伸ばせばふれられる 時の後髪に>といったフレーズに、消えてしまった何かを追い求める、ずっしりとした思いが込められているように感じる。

やはり、ショーのギアは変わっておらず、重大な何かを提示している。そこで歌われたのは、ファースト・アルバムから“雨の街を“である。

♫夜明けの街はミルク色 静かな街に
ささやきながら降りて来る 妖精たちよ
誰かやさしくわたしの 肩を抱いてくれたら
どこまでも遠いところへ 歩いて行けそう♫

悲しいメロディに乗りつつも、強さを感じさせる歌に続いて、ユーミンは“ひこうき雲“でたたみかけて来た。 こちらはのんびりと気持ちの良いメロディで、<♫空に憧れて 空をかけてゆく あの子の命はひこうき雲>と歌われる。

私は幸いコロナ禍や世界情勢の変化から、辛い思いをすることはほとんどなかった。それでも、この2曲は心に沁みた。

コンサートはクライマックスに向けて進む





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