れいわ怪異譚⓫ 【合理と冒涜と政治家 〜 人体リサイクルの衝撃】


                    四百字詰原稿用紙五枚程度

※極端な内容が含まれますので、センシティブな方はご遠慮ください。

 皆さまがたには、本日はご多用中にもかかわらず万端くり合せご参集いただきまして、まことにありがとうございます。

 当会合におきましては、大きな意味での廃棄物の発生抑制という観点から、遺体の処理と再利用を包括した新しいシステムにつきましての検討の現状をご報告させていただき、我が国の将来のより清浄で豊かな環境の構築、その議論に資していきたいと考えております。よろしくお願いいたします。

 さて、我が国における二千二十年の年間死亡者数は約百三十七万人であり、今後も漸次増加を続け、二千四十年には百六十万人程度に達すると見込まれております。

 毎年、京都市あるいは川崎市の総人口に匹敵する方々が亡くなっておられるわけです。これは戦中・戦後の一時期を除けば最高水準にあります。

 こうした状況にともなって、すでに報道などでもご承知の通り、火葬場の処理能力はすでに飽和状態に達しております。とくに東京や大阪など大都市圏では数日間の火葬順番待ちが常態化し、そのために遺体とご遺族共用の宿泊施設、ホテルまで誕生する事態となっています。

 一方で肥満傾向の遺体の脂肪がもたらす異常燃焼による焼却炉の損壊が頻発し、憂慮すべき問題となってきました。

 また、焼却用燃料にはガスあるいは石油が用いられますが、火葬開始から終了まで少なくとも約一時間のあいだ、最低でも八百度を保持し続けなればなりませんので、これにかかるエネルギーの消費もまた莫大になります。

 さらに少子化によって世帯の後継者が減っていることから、墓所の維持・管理も遺族の大きな負担の一つに数えられているところであります。

 以上のことから、遺体の処理方法につきまして根本的に見直し、新しいシステムを構築していくべきではないかという問題提起がなされましたので、そうした主旨に沿って検討した結果を以下にご報告いたします。


〈試案a 自然分解処理について〉

 遺体を自然界に放置し、バクテリアや細菌などによって分解せしめるものです。

 分解が一定程度進めば、水分を抜いて堆肥用資材として農業などの分野で活用することができます。また時間はかかりますが自然分解を続けると、最終的には二酸化炭素と水に還元されます。

 放置の状態は地中、水中におけるよりも大気中にあるほうが分解が早く進み有利と考えられます。

 したがって実行には戸外に一定の広さの土地を確保し、野生動物等の干渉を厳しく排除して安置することが基本条件になります。

 すでにアメリカ、カナダ、オーストラリア、オランダなどでは死体の腐敗の過程の研究などを目的として「ボディファーム」などの名称で実証実験に取り組まれております。

「土に還す」というイメージにもっとも近い方法です。

 我が国において実現するには、まず広大な土地の確保、強烈な悪臭の除去、心理的・社会的抵抗の軽減などが重要な課題になるものと思われます。


〈試案b 家畜用餌へのリサイクルについて〉

 遺体を適宜解体し、豚などの餌として活用します。遺体を再利用するまでの手間がほとんどかからず、また骨格部分を除いてすべてを活用できる効率的な方法です。

 豚による食いつき、食い込みの加減、またそうして生産された食肉の食味につきましてはこれからの研究に待つところです。

 現在我が国における食用豚は年間約百五十万頭生産され、この肥育にかかる飼料は多くの場合、外国産の穀物に頼っています。

 遺体の飼料化が実現されればこれらの経済的負担が大きく軽減できますし、国内に大量の穀物が持ち込まれることによる国土の窒素汚染の解消にも役立ちます。

 我が国の年間死亡者数は冒頭に申し上げた通り百三十七万人ですから、豚百五十万頭分の飼料は十分に賄えると考えます。


〈試案a、b における今後の重要検討課題〉

1)宗教的禁忌
 イスラム教への配慮にはとくに慎重を期す

2)遺族の心理的安定
 髪の毛、(別途焼き上げた)喉仏は、希望によって遺族に渡してもよしとする

3)遺体の所有権の明確化
現状、遺体や遺骨は、相続とは関係なく、祭祀を主宰すべき者(祭祀承継者)に権利(多分、所有権)が認められている

ただし、医療分野の対象としての遺体・遺骨には死んだ本人や遺族の意向が尊重される

臓器移植法など隣接する各法律との整合性を考慮しながら総合的な法整備が行われることが望ましい


〈特記:ある委員からの発言〉

「私は死んだ親の思い出をいつも胸に政務に励んで参りました。苦しいとき、辛いときには必ず父や母の名前を呼びます。すると心の底からおのずと職務に対する力と情熱が湧き上がってきます。

 しかしながら今般のこの報告に記された内容が現実になった場合、残されたお子さんはなにに向かって、どこに向かっておとうさーん、おかあさーんと叫べばよろしいのでしょうか。豚に、とんかつに向かって叫ぶことになるのでしょうか。甚だ心配です」

                                                                                           以上





                                                                                         (了)



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