手術⑤|永遠に感じる時間
しばらくの間、待合室で待機。
時間が経つにつれ、さらに緊張感が増す。
特に水分をこまめに摂っているわけもないのに、トイレが近くなる。
待合室の前を看護師が通る度に、「手術終了の報告に来たのではないか」と顔をあげるが、それもしんどくなり、立ってストレッチをしたり、妻とも家族とも時折会話をしたり、スマホをいじったりするも、何をしても落ち着かない...
そんな状況だった。
正直、この手術の待ち時間というのは二度と経験したくない。
「生きた心地がしない」ということを、身をもって体験したが、神経がすり減り、心が疲弊するだけでなく、確実に寿命が縮んだと思う。
そんな中でも時間は進み、終了予定の「16時30分」を迎えた。
しかし、一向に終了の連絡が来る気配はない...
ただ、「完全大血管転位症」の手術のレポをSNSなどで見てみると、6時間で終わっているケースはほぼ無いようだった。
8時間や10時間、中には「13時間以上」かかったケースもあるということを、一応は認知していたので、まだこの時は許容範囲内というか、夫婦共に「まぁやっぱそうだよね」と捉えていた。
しかしながら、17時になっても、17時30分になっても、看護師からの声掛けはない。
「『BAS手術』の時もそうだったから、今回もきっとそうかもね… そう思いたい」
息子が生まれて間もなく行った「BAS手術」。
あの日も “予定より2時間以上後ろ倒し” になっていたことを思い出し、妻にも話す。
開始が遅れたことと確認作業で後ろ倒しになっただけで、 “何もなかったあの日” と、今回も同じであることを祈るような思いだった。
そして、更に1時間以上が経過し、時刻は18時30分を過ぎた頃、ついに看護師から声を掛けられる。
「手術が終わったようなので、移動しましょう」
「先生から『説明』があるそうです」
(「説明」…?)
と、一瞬引っかかったが、深くは追求せず、ひとまず家族みんなで手術室へ向かう。
移動中、念のため看護師に
「手術室からの連絡で、『何か異常があった』とか伝達ありました?」
と尋ねたが、
「いえ、『終了した』としか連絡は来てませんね…」
とのことだった。
同じ看護師と言えど「科」が違うので、わかってはいたが、不安は募るばかりだった。
そして、手術室に到着し、
「ご両親だけ、 “説明室” にてお待ちください」
と案内され、手術室と隣接している部屋へ待機することに。
(私の両親は同フロアのエレベーターホールにて待機してもらっていた)
いざ、説明室に入ったが、異様なほどに静かで、不気味な空間であった。
そしてすぐに来ると思っていたが、医師も看護師も誰も入ってこない。
5分… 10分… 15分… 待てど待てど、全く音沙汰がない。
無音の狭い空間で夫婦で2人きり。
嫌でもお互いの緊張感や不安感が伝わってくる。
待合室以上に、この「説明室」での待機時間はまさに “地獄” のようだった。
ひとまず、私の両親に「まだ始まらない」ということだけ連絡し、座れる場所へ移動してもらうことにした。
そんな中、ドアの向こうで話し声が聞こえ始め、その直後、看護師が説明室に入ってきた。
「手術は終わったんですが、問題が発生して、再度確認することになりますので、もうしばらくお待ちください!」
看護師は明らかに “焦っている” 様子だった。
夫婦して「何かあったんだな」と即座に悟った…