Raphael『Evergreen』
アルバム『Raphael Singles』収録曲。
漫画に出てくるような青春に憧れた。
友情。
初恋。
「自分もあんな風に生きたい」と願った。
けれど、その夢は叶えられなかった。
10代という、決して取り戻せない日々は、永遠に失われてしまった。
…そんな方は少なくないのではないでしょうか?
この曲の作詞・作曲を行った、バンド「Raphael」のギタリスト・華月くんもその一人。
人一倍ロマンチストだった彼は、特に少女漫画の世界に夢中でした。
たとえば、『トーマの心臓』『天使なんかじゃない』。
どれも学校を舞台にした作品です。
が、実際の彼はというと、あまり学校には通えませんでした。
元々、人間不信に陥りやすい傾向があり、同級生たちから浮いていて、ひとり、窓際の席で外を眺めているタイプ。
家族とうまくいかず、家に帰れなくて、友人宅で居候をしながら音楽活動を行う日々。
そんな中でたまに高校へ行き、同級生たちとの絆を感じていたけれど、ある日失望。
友情など無かった、ウワベだけの関係だったんだ…、と。
その詳細については、彼が著した私小説『蒼の邂逅』に書かれています。(アルバム『卒業』の付録)
彼はやがて高校を中退。
自分が参加出来なかった高校の卒業式を想って作ったという曲『lost graduation』は孤独や決意を切なく奏でる曲ですが、この『Evergreen』は希望に満ちています。
スポーツで汗を輝かせ、密かに憧れている読書家の女性とすれ違うだけでドキドキしてしまって告白どころか声すらかけられなくて、そんな自分が悔しくて、そんな中でも仲間たちと友情を育み、不器用ながらも将来の夢を描く…。
そんな、彼が夢見たけれど手に入れられなかった青春のイメージが、この曲を聴く度にわたしの心の中に広がっていきます。
そして想像します。
どこまでも青い空を。
学校のきらめく芝生を。
部活動に励む少年少女の声を。
…わたしにとって、『Evergreen』はまさに永遠の夏を歌った曲です。
彼は10代という若さで、ミュージシャンとして成功。
雑誌の連載、ファンとの交流、ライヴ活動といった様々なことに忙しく、また、衣装・グッズ等のデザインも手がけ、更にソロプロジェクトを始動させる等、精力的に活動しました。
そして。
『Evergreen』をリリースした数ヶ月後…。
彼は亡くなってしまいました。
享年19歳。
子どもでもなく、大人でもない。
そんな境で、彼の時は永遠に止まってしまいました。
また今年も、彼が生きられなかった夏がやって来て、そして去っていきます。
誰も10代という時間を取り戻せないのと同じように、失われた命もまた、蘇ることはありません。
それがあまりに悲しくてやり切れなくて…。
けれど、とても美しい曲だから、わたしは毎年『Evergreen』を聴きます。
そして想像します。
もしも華月くんが生きていたら、どんな風に今年の夏を過ごしていたのだろう? と。
わたしなどには想像もつかないほど多くのファンから深く愛されるミュージシャンになっていたかもしれません。
新しいものを取り入れるのが好きな人だったから、誰よりも早い時期からYouTubeを始めたり、インスタライヴをやったりしていたかもしれません。
ミュージシャンとして成功する前に将来の選択肢としてあったという、アパレル関係や美容師も始めたかもしれません。
或いは、それら以外のことにチャレンジしていたかもしれません。
特徴的な、あのニカッ✨という笑顔を浮かべながら。
特徴的な、あの喋り方をしながら。
そして、ほんの少し寂しそうな表情をして、夏の終わりの蝉たちの鳴き声に耳を傾けたかもしれません。
…そうやって、何度も、何度も。
わたしは「今生きている華月くんの姿」を想像し続けます。
この先何年でも、わたしの命が続く限り。
夏が来る度に。