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バッタでバッタバッタ

 今朝6時。

 わたしは窓のカーテンをシャッ!と開けました。

 爽やかな光を部屋の中に取り込むためです。

 しかし。

 次の瞬間。

 わたしは無言で、カーテンをまたシャッ!と閉めました。

 なぜかというと、窓の外から視線を感じたからです。

 視線の主は、…大きな虫!

 わたしは当初、「台風の影響で、大きな緑色の葉っぱが窓ガラスにくっついちゃったのかな?」と思ったのですが。

 それがワサワサ動いたので、「むむっ! これは虫だ!」とすぐに気づいたのです。

 このままずっと無視するわけにもいかないので、一度は閉めたカーテンを再びシャッ!と開けて、わたしは恐る恐るその虫の正体を確認しました。

 どうもバッタです。

 しかも、小さくて可愛いバッタではなく、やたらと大きめ。

 恐らくショウリョウバッタのメス(成虫)。

 なんと彼女はわたしの部屋の窓ガラスと網戸の狭〜いスキマに挟まって、そこから出られなくなっていたのです。

 網戸の防虫ゴムが大分かためなので、それに脱出を阻まれている様子。

 本来、防虫ゴムは虫が入るのを防ぐためのものなのに、今回は虫が出ていくのを防いでしまったのです。

 なんてこった!

 「あなた、いつ、どうやってそこに入ったの?」と聞いてみましたが、彼女が答えるはずもなく。

 長い脚をワサワサ動かしながら、「明らかに困っているオーラ」を出しています。

 もしわたしの部屋が一階であれば、わたしがいったん外に出て網戸を取り外して彼女を救出してあげられたのですが。

 あいにく、ちょっと高さがあります。

 また、彼女が挟まっている窓付近にはベランダがないので、わたしが外から彼女を助けるのは物理的に不可能です。

 というわけで、わたしは部屋の中から網戸を取り外そうとしたのですが…。

 これがまた絶妙に外れにくいのなんの。

 「網戸を動かせないなら、窓ガラスを動かせばいいじゃない」とピーン!ときて、窓を少し開けてみたのですが。

 すると、彼女は逆に、もっと奥へとワサワサ移動していってしまいました。

 わたしとしては彼女を助けるべく試行錯誤しているのですが、あいにくその意図は伝わりません。

 きっと「攻撃されている」と思ったのでしょう。

 彼女はワサワサ!ワサワサ!と動いてパニックになっている様子。

 わたしは「怖い思いをさせてしまった。悪いことをした。しばらく放っておこう。その間に出勤前の準備をしよう。また後で見た時には、いなくなっているかもしれない」と考え、お弁当を作ったり身支度を整えたりしました。

 そして7時。

 窓を見ると…。

 まだいるーーー!

 しかも、きっと動き回ったせいでしょう、彼女の脚が網戸にこれまた絶妙に絡まっているではありませんか…。

 さっきよりも状況が悪化してるーーー!

 わたしは思いました。

 「遅くとも7時半には出勤しなければ、仕事に遅れてしまう。どうにかしなければ」

 と。

 そこで、窓と網戸の間に丸めた新聞紙を挟み、スキマを拡げようとしたのですが、大した効果は無し。

 もしも網戸を引っ張り過ぎたら、彼女に怪我をさせてしまうリスクもありました。

 …わたしは思いました。

 「いっそこのままにして出勤してしまおうか?」

 と。

 しかし、まだまだ鹿児島は暑い日が続きます。

 天気予報を見ると、今日は晴れ。

 丸1日このままだったら、「バッタの網焼き」が完成してしまうかもしれません。

 とはいえ、小さくても一つの命。

 救えるものなら救いたいです。

 なのに、膠着状態のまま。

 …そんな折、わたしの頭の中に、高見のっぽさんの『グラスホッパー物語』がフッと流れてきました。




 の、のっぽさん…!


 「もしこのまま彼女が命を落としてしまったら…、のっぽさんに顔向け出来ない! 子どもの頃、のっぽさんとワクワクさんは2大ヒーローだったんだ…!」

 とハッとしたわたしは、思い切った作戦に出ました。

 窓ガラスと網戸の狭〜いスキマに、自分の指を無理やり突っ込んで、バッタをつまんでつまみ出す作戦。

 「子どもの頃は素手でダンゴムシだって触れたじゃないか! クワガタだって飼っていた! バッタくらい簡単だ!」

 と気合いを入れました。

 …しかし素手で触るのはやっぱり抵抗があったので、ゴム手袋を装着。

 どうにか指をスキマにねじこみました。

 ちょっと痛い。

 彼女の体を出来るだけ優しくつまむと、彼女は「!!!」と大変驚いた様子で、バタバタし始めました。

 「やめて〜! ストップ! ストップ! 助けさせて! やめてやめて、動くと脚がちぎれる! イヤ〜! モゾモゾ、イヤ〜!」

 とわたしもちょっと何言ってるか分からないセリフを半泣きで言いながら、どうにかこうにか彼女を救出!

 そ〜っと外に連れて行き、花壇に放してあげると…。

 彼女はピョーン!と元気良く飛び跳ねて、無事に逃げて行きました。

 ああ、良かった。

 もしかしたら彼女は今頃、バッタ仲間に「変な女にいじめられた!」と被害届を出している頃かもしれませんが。

 ひとまず、小さな命が一つ救われて良かったです。

 また、わたしも出勤前にバッタバタしてしまいましたが、奇跡的に出勤時間ギリギリで職場に無事滑り込みました。

 わたしの社会人としての「遅刻しない」という最低限のラインも守られました。

 ある意味、2つの命が救われたのです。

 良かった、良かった。

 …そして、先ほど職場から帰宅して、改めて、事件現場となった窓ガラスと網戸のスキマを確認してみました。

 やっぱりすご〜く狭い!

 あのバッタ、本当にどうやってここに入ったのでしょう?

 台風から逃れようとして無我夢中でスキマに入り込んだは良いものの、出られなくなってしまったのでしょうか…?

 もしくは、『G-darkさんちの窓からの脱出』という脱出ゲームをやっていた…?

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G-dark/本好きの頭の中
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