甘い暴力『噛み痕』
シングル『玩具にして』収録曲。
歪な恋の終わりを歌った曲。
この曲を聴いていると、まるで真夜中の歌舞伎町をひとり歩いているような気分になります。
おそらく、この曲の主人公は、恋の相手と付き合っていたわけでは無さそうです。
体の関係はありそうですけれど。
もしかしたら、「相手には本命がいる。自分は浮気相手の方」とか、「ホストと大勢いる客の一人」といった関係だったのでは無いでしょうか?
きっと、「愛してる」と囁き合うことも無ければ、「さよなら」とわざわざ別れを交わすことも無い関係。
恋って、色んな形がありますものね…。
綺麗なだけじゃない。
他人から何と言われても、傷つくことが自分でも分かっていても、止められない。
相手が自分に残すものが、たとえ、傷痕であったとしても。
痛みも、熱も、心の支え。
それは、どんなに歪な形であったとしても、自分が誰かを好きになれたという証だから。
きっと、一瞬でも誰かと繋がることが出来たという思い出をよすがにしなければ、自分をこの世に繋ぎとめられないのでしょう。
メンタルを病んでいると言わざるを得ないけれど…。
そもそも世の中には「恋の病」という言葉がありますよね?
恋って、病気です。
きっと恋する人はみんな病んでいます。
…それに、主人公も気づいています。
嘘に嘘を重ねていることも。
依存と支配という甘美な毒に侵される関係だということも。
そんな相手との終わりが見えていることも。
全てを悟っているであろう主人公の気持ちを想像し、わたしはこの曲を聴く度に涙します。
もしかしたら、周りの人たちから見れば、主人公は愚かな人間なのかもしれません。
けれど。
主人公は、恋に病んでいる自分も、嫉妬する醜い感情を爆発させる自分も、真実から目を背けて恋に溺れたままでいたいという自分の弱さも、全てを曝け出しています。
そんな勇気を持った主人公のことを、わたしは決して愚かだとは思いません。
むしろ、主人公の純粋さにわたしは何度も心打たれています。
きっと心も体も傷だらけで、疲れ果てているだろうに。
きっと相手からは数え切れないくらい裏切られただろうに。
それでも、自分が相手を裏切ることはしたくなかった…。
なんて美しい人なのでしょうか…。
願わくば、その先に希望がありますように…。