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著…池辺葵『プリンセスメゾン』

 疲れた心にじんわりしみる漫画。

 わたしはこの漫画の1巻が発売された当初から、大好きで大好きで何度も読み返しています。

 なぜこんなにこの作品がじんとくるのか、改めて考えてみたいと思います。

 わたしが思うに、この作品は、「次はどうなるんだ!?」「ラストはどうなるんだろう!?」とドキドキさせるタイプの作品ではありません。

 わたしはそうやって読者を煽るタイプの漫画も好きだけれど、この『プリンセスメゾン』は、そういった作品とは違います。

 「この世界観、とても心が落ち着くなあ。お気に入りのシーンをパネルにして部屋に飾っておきたいな」と素直に思える作品なのです。

 まるで作者が読者に「ごゆっくりどうぞ」と言ってくれているみたい。

 何度も読み返したくなるタイプの作品。

 それくらい、この漫画の世界は穏やかなのです。

 まず、コマ割りがガチャガチャしていない。

 わざとらしいセリフ回しも無い。

 だから、読んでいてグッタリすることがありません。

 絵柄はシンプルなようでありながらも、実は人物の表情や背景がとても繊細に描き込まれていて美しいです。

 この作品にBGMを付けるとしたら、静かな雨音のようなピアノソロがいいなぁ。

 ストーリーにおいては、誰もが多かれ少なかれ抱えているどうしようもない孤独も描かれているけれど、社会問題をテーマに…なんて胃もたれしそうな押し付けがましさは全くありません。

 登場人物たちがそれぞれ自分の居場所を自分のペースで見つけていく様子が、とてもさらりと自然に描かれるのです。

 ああ、いい言葉だなぁ…とハッとさせるようなセリフは幾つも登場します。

 しかし、説教であったり、誰かを否定する内容では決して無いので、読者は心を無神経に掻き乱されること無く、安定したリズムでこの作品を読めます。

 まるで、登場人物たちが彼らの生みの親である作者からダメ出しされたりせず、一人一人違う生き方やそれぞれが理想とする住まい探し=居場所探しをそっと見守ってもらっているような…。

 そんな、寄り添うようなあたたかさを感じます。

 だからこそ、読者はこの作品を読むことを通して、「この漫画の登場人物たちがそうであるように、わたしもわたしでいいんだ」と、自分で自分を優しく見守れるのだとわたしは思います。

 だからわたしはこの漫画が大好き。

 6巻の最後で登場人物の一人が空を見上げながら呟く、「どこかにいるお前たち 自由にとべよ」というセリフもとても印象的でした。

 完結したのが嬉しいような、寂しいような、という気はしますが、これからも読み返していきたいです。

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