ネイティブであるといふこと その2(半ケツの定義)
あらかじめお断りしておくが、お下品な話ではない。
子どもは産まれた瞬間(あるいは胎児の頃から)周囲からの言葉を浴びて育つ。それは単に無機質な音としての言葉ではなく、意味と意図のあるコミュニケーションとしての言葉だ。ネイティブというのは、その言葉のシャワーをふんだんに浴びて、言葉がたんと張られたバスタブに飛び込んで、長い時間をかけてバタバタ泳いでネイティブに育つのだと思う。
今日はシリーズ2回目として、半ケツのエピソードを紹介したい。
何歳の頃かは忘れたが、それは我が家の次男坊君がまだオムツをはいていた頃。一人でしっかりと歩けるようになり、あちこち自由に動き回る時期だった。オムツを交換していても、好奇心旺盛でアクティブな次男坊君はオムチェンの途中で抜け出して、別の場所に遊びに行ってしまうことが多かった。そんなときは、次男坊が逃亡した先にいる妻によくこう声をかけていた。
オムツがしっかりと着けられず、方側のケツがプリリンとはみ出ているその姿は、見まごうことなき「半ケツ」であった。オムツの半ケツ状態は大惨事につながりかねないので、しっかりと直しておく必要があるのは言うまでもない。
で、こんなことが日常的に何度も繰り返されていた。言葉のシャワーの中に「半ケツ」というワードがたびたび登場し、次男坊君は次第にそのおおよその意味を類推し理解していった。
ある日のこと。次男坊君が玄関に行き、一人で靴を履こうとしていた。まだ器用に履けるような段階ではないが、一生懸命な姿がかわいくてしばらく見守っていると、次男坊君は困った顔で私を見上げ、こう言ったのだ。
靴が!半ケツ?
なるほど。そうか、そういうことか。「靴がうまく履けない」という状況を説明するために、頭の中のデータベースから使えそうな言葉を集めてみたが、使えそうな言葉が「半ケツ」であったようだ。
もし私たち親が「半オムツ」や「半おしり」という言葉を使っていたなら、このようなナイストライは起こらなかったであろう。「ケツ」という得体の知れない言葉であったため、靴にまで応用できると誤解したのだろう。いや、正確でないことは承知で、とにかく使えそうな言葉を瞬時に選んできたのかもしれない。
しかし違うぞ息子よ。「半ケツ」はケツにしか使わない&使えない、ニッチな用途の言葉なのだ。ネイティブとしてしっかり覚えておくように。(了)
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