【データで見る世界Vol.9】Amazon の労働賃金の値上げは他の中小企業に影響を与えるのか?(モノプソニー理論)
このシリーズでは、日本語ではなかなか翻訳されない(もしくは時間がかかる)世界中で起こっている興味深い研究やデータを紹介していきます。本記事は、"When Amazon raises wages, nearby firms follow suit (30th APR, The Economist)"の記事を翻訳・要約したものです。約3分(1700文字)で読めます。
1. Amazon従業員による労働組合結成の動き
アラバマ州にあるAmazonの倉庫で働く一部の労働者は、昨年の夏に労働組合を結成するための運動を始め、その努力が5,800人の労働者の給料の上昇につながることを期待していた。残念ながら、今月行われた労働者投票で1,798票対738票という大差で反対派が上回り、労働組合設立の動きは失敗に終わった。しかし、労働者は給料を上げることには成功したのだ。4月28日、E-commerceの覇者・Amazonは、130万人の従業員のうち50万人以上の賃金を引き上げると発表した。時給50セントから3ドルの上昇範囲で、5月〜6月の間に実施される予定だ。
2. Amazonの賃金政策の影響は他の中小企業へ波及する?
これは、Amazonの従業員にとっては良いニュースだ。しかし、他の企業の従業員にも喜ぶべきニュースとなるだろう。カリフォルニア大学バークレー校のElloraとブランダイス大学のClemensとDavidが最近発表した論文によると、アメリカの大企業が時給制の労働者の賃金を上げると、ローカルの他の経営者も労働者の給料を上げる傾向があるという。Derenoncourtらは、Burning Glass Technologies社(労働市場データ分析会社)のオンライン求人広告のデータベースと、Glassdoor社(雇用者評価サイト)の調査を用いて、Amazonが2018年10月に最低賃金を15ドルに引き上げた際(約20%の上昇)、近隣の中小企業も影響して平均で4.7%の時給を引き上げたことを明らかにした。研究者たちは、Walmart、Target、Costcoといったその他の大企業の給料上昇に対しても、同様の波及効果を確認した。
3. Monopsony Powerがある大企業とその影響
これらの相関関係は、労働市場が本来の機能を果たしていないことを示唆している。需要と供給によって決定される競争市場では、賃金は労働者の生産性、つまり労働者が1人増えることで生み出される追加生産量によって理論的には決定されるはずなのだ。そのたAmazonや他の大企業がこの市場論理から逸脱した給与設計をしても、他の会社の労働者の賃金には影響しないはずなのだ。AmazonやWalmartの賃金政策に他の企業が反応するという事実は、これらの大企業が、その他の中小企業の賃金をもコントロールできるMonopsony Power (買い手独占する力)を持っていることを示唆している。
今回のAmazonのケースは、労働者の意向に沿って賃金が変化したのかもしれない。だか、Amazonのような大企業の他の企業の賃金をもコントロールできるMonopsony Powerは、労働者に支払う低い賃金を設定する為に使われることもある。なぜなら、新しい仕事を見つけるためのコスト高や、そもそも労働市場の独占をしているなど、Monopsony Powerをもつ大企業は労働マーケットに一定の影響力を行使できるからだ。コロナ渦によって、一層経営が順調なAmazon。4月29日、Amazonはアナリストの予想を大きく上回る、第1四半期の売上高1,080億ドル、利益81億ドルを発表した。より一層GAFAM等の大企業の影響力が増す中、労働市場の適正な在り方も今後議論されていく必要があるだろう。
4. 本記事の重要英単語
"Monpsony Power" 需要独占。多数の購買者と一人の販売者からなる市場。
労働力(大企業)の買い手が圧倒的な優位にあるため、労働力を提供する側は多少、賃金が低くても失業するよりはましとして、その低賃金を受けいれざるをえない状況が作られやすい。
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