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#45 アシラセ・千野 歩「千の野を歩け」(2021.10.15&22)

D-EGGSシリーズ2人目は「株式会社アシラセ」の千野歩さん。アシラセが何をやる会社なのかは後で話すとして、HONDAにいたのを辞めて起業したというところがまず目を引きます。大手を蹴ってアドベンチャー。一体、千野さんに何が起こったんでしょう?

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僕は本田技研で、ずっとエンジニアをやってたんです。担当はハイブリッドや自動運転の開発。自動運転はHONDAの中でもホットな分野でしたね
HONDAに入った理由は2つあって。まず母親の実家がHONDAのディーラーで昔からHONDA車に親しみがあったんです。もうひとつは僕の名前の「千野歩」って「広いフィールドを自分の足で歩いて行ってほしい」という願いを込めて父が付けたんです。ただ、子供の頃から乗り物への憧れが強くて、バイクや車に惹かれて。本田宗一郎の言葉にも魅了されていたので、HONDAに就職したんです

HONDAの中でも最先端の部署で働き11~12年。仕事はやりがいがあったが、プライベートで事件が起こりました。

妻の祖母が川の横を歩いてるとき、足を踏み外して亡くなってしまったんです。それがなかなか壮絶で、4日間くらい川の中で見つからなくて……そこで思ったのは、歩くという行為をモビリティと捉えてもいいのでは、ということ。「人の根幹のモビリティ=歩行」。そこから歩くということを見つめ直すようになって。曽祖母は80代でほとんど目が見えなかったので、視覚障がい者に話を聞きに行き。それがアシラセのスタートになりました

視覚が不自由なことで起こった身内の悲劇。千野さんはそこから「歩行」という行為にHONDAで関わっていたDXの技術を組み合わせて考えます。そして生まれたアシラセのコンセプト。その中身とは?

アシラセとは「視覚障がい者向けナビゲーションシステム」。通常のナビは視覚や聴覚を頼るので、視覚障がい者には難しいところがあります。そこで靴に振動デバイスを設置。前進、停止、右折、左折といったナビ機能を足への振動で伝えることで、安全な歩行を実現しようとしているのです。

私たちが作っているのはナビゲーションデバイスなので安全を直接保証するものではないんです。視覚障がい者の人に「信号は青ですよ」「障害物がありますよ」って教えるのではなく、あくまでナビのルート情報を伝え方を変えて伝えるだけ。ただ、そこには想いがあって……安全って難しいんです。僕も自動運転の分野で安全について勉強しましたけど、安全を担保するには大量のセンサーが必要だし、事業リスクとしても「安全デバイス」と銘打つと難しくなる。そこで注目したのが「注意資源」という考え方なんです

「注意資源」って何ですか?

たとえばテレビ見てるときに奥さんから話し掛けられると生返事するじゃないですか? あれがまさにそうで、注意資源とは「人は注意力を一定量しか持ってなくて、あるものに集中してしまうと他の五感の入力が制限されてしまう」という考え方。ホームから線路に落ちた人に話を聞くと、足の裏や杖先に注意していれば普通転落しないけど、電車に乗るときはどの電車に乗ればいいかなど意識が分散して、それで落ちてしまうと言うんです。それを聞いたとき、伝える情報を直感的で無意識的なものにすれば安全に集中できる注意資源の量を確保できると思ったんです

なるほど、ナビ機能をスムーズにすることで注意に割ける意識量が確保できるという考え方なんですね。そんなアシラセはD-EGGSに採択され、広島で実証実験を敢行!

外から見ると広島市って特殊だと思うんです。バスにしても複数の会社が同じ路線を走ってたり。あれも視覚障がい者はわかりにくくて。それ以外にも市電、アストラムライン、JR、フェリーといろんな交通手段がある。ある種、日本を凝縮してるところがあるんです

そのポテンシャルが認められたアシラセは「サンドボックス賞」を受賞。今後はアシラセ=歩行ナビ機能をベースに、豊かに生活できるサービスやソフトウェアを搭載していきたいとか。現在は2022年度中の販売を目指して鋭意制作中。未来は明るそうですね、千野さん!

毎日吐きそうな中でやってますけどね(笑)。最近思うのは鈍感力も重要だということ。「これはリスクだ!」って思えばどんなものでもリスクに感じますから。大きい会社から外に出て一番思ったのは、社内にいたときは一生懸命仕事してると思ってたけど、「本気で社会を変える、世界を変える」って胸を張って言えてはいかなかったな、ということ。でも外に出て自分たちでやるとなると、そこを発信しないといけないし、それが投資家さんや仲間とのつながりには不可欠で。そういう意味では視点が広くなったし、僕はそっちの方が合ってたと思います

広い世界を自分の足で歩くということ――そえはまさに「千野歩」を地で行く生き方だったりするのでした。

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2021.10.6 on-line

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