見出し画像

#43 アートディレクター・大貫卓也「正しい広告のセブンルール」(2021.8.6&13)

広島の文化系ラジオに大物がやって来ましたよ!

大貫卓也。

画像1

広告業界でこの名前を知らない人はいないでしょう。クリエイティブディレクターというかアートディレクターというか、アレもコレもドレもソレも全部大貫さん作品。

画像2

画像3

画像4

画像5

画像6

いや、もう圧倒的。そんな大貫さんが広島を訪れたのは、1983年から続く「ヒロシマ・アピールズ」ポスターの2021年版を担当されたから。ほんとこのシリーズ、世界的大家が参加する広島の宝です!

しかし大貫さん、この仕事を引き受けるまでは葛藤があったとか。

この仕事は非常に難しくて、「はたして僕みたいな人間がやっていいんだろうか?」と思ったんです。若い頃、自分は戦争に関して無関心で能天気で。でもそんな自分だからこそ、これまでコミュニケーションのプロとしてやってきたクリエイティブの成果をここで表現するのもいいんじゃないかと思って。それで引き受けたところはあるんです

平和という崇高なテーマと、広告という下世話なメディア。「平和を広告する」という普段あり得ない組み合わせに大貫さんは悩みます。こんな自分が手掛けていいのか? いや、こんな自分だからこそできることがあるんじゃないのか?

広告だと「商品が売れる」とか、わかりやすい結果があるじゃないですか。僕は結果が出ないものは好きじゃないんです。今回は地域限定のポスターで結果を出すという意味では難しいけど、それでもやるからには大喜利みたいなものにはしたくなくて。お題に対して「はい、こんなのでございます」って上手に返すものではなく、本当に若い人に原爆や戦争、反戦のメッセージがヒリヒリ届くものにしたかったんです
広告って普通は「明るい未来」を提示するものなんです。でも今回は見たくない負の部分を感じさせようと思って。むしろそれを伝えることで「明るい未来」を提示することになるんじゃないか? 他人事ではなく、胸を締め付けられる表現になるんじゃないか?――と思ったんです

ということで完成した大貫さんの作品がコチラ。大貫さん自らその意図を説明してくださいました。

HA2021-scaled枠2

ポスターの中にはスノードームがあります。観光地に行くとお土産物屋で売ってて、たいていその都市の建物が中に封入されて、白い粉が舞ったりしてますよね。今回は原爆ドームの形に似てるドームの中に、白いハトが入ってます。で、よく見ると、ハトの背中には黒い粒が乗ってて、地面にも黒い粒が大量に降ってるんです。実はこのポスター「AR(仮想現実)ポスター」で、アプリをダウンロードしたスマホをかざすとポスターが動き出すんです。そうすると時間が逆回転して、地面に落ちてた黒い粒がドーム中を真っ黒に覆って、その黒い粉がドームの中に落ちてくる。そんな中で微動だにしない白いハトがあらわれる……見ると胸を締め付けられる表現になってると思います

そう、このポスターがスゴイのは単なる二次元の表現では終わらないこと。最新のテクノロジーを使って、若い人にアピールすることを意図してるんです。つまり、こういうこと。

さらにすごいのが、大貫さんは「その先」まで考えているところ。

いま思ってるのは、このスノードームを作って、実際に販売して、この気持ちを拡げていくことができないかって。いわば「負のお土産」。このタイムマシンとしてのスノードームを振って、いろんなことを考えてほしいんです

二次元⇒AR ⇒プロダクトとしての販売。作品のインパクトはもちろん、この二段構え、三段構えのアイデア展開。プロ中のプロの仕事ってこういうことなんですよ!

画像8

今回は大貫さん来場ということで、カミガキもシミズもさすがにド緊張。しかし後半になると、やっぱりアレやコレの裏話なんかが聞きたくなります。話題は大貫さん衝撃の登場となったコレに関して。広告業界のクリエイティブを一変させた名作です。

画像9

これは僕の実質的デビュー作。「としまえん」って東京のローカルな遊園地でね。その頃は広告業界がキラキラ輝いてた時代で、サントリー、資生堂、パルコ、SONYといったクライアントを糸井重里さんを筆頭にしたクリエイターが担当してたんです。そんな中、としまえんの仕事なんて誰もやりたがらなくて。みんなキラキラしたクライアントの仕事じゃないといい仕事はできないし、としまえんの仕事をやってるってだけでダメな感じを持たれると思ってたんです(笑)。僕も「カッコイイ仕事やってやるぞ!」って息巻いて広告会社に入ったけど、余ってる仕事はとしまえんしかなくて……それでガケから飛び降りるつもりでやったんです

「ビール冷えてます」ならぬ「プール冷えてます」。この広告が世に出たのは1986年。時代はバブル真っ只中。カッコイイ路線の全盛期。そんな中、この膝カックン的ヌケのセンスが大きな風穴をブチ空けます。

ただ、当時のカッコイイものしか認めない風潮には疑問があったんです。「はたしてそれはカッコイイけど、広告の本質である『見た人にメッセージを伝える』ことはできてるのか?」って。で、先輩から言われたのが「お客さんが思わずプールに行きたくなるポスターを作れ」。当時はみんな広告という媒体を使って自分の作品を作ってたんです。でもそもそも広告ってそういうもんだっけ? そば屋に行って「冷やし中華はじめました」。この方が広告として機能してるんじゃないか? これこそコミュニケーションじゃないのか?――そんなふうに感じたんです

そんな試行錯誤の過程で大貫さんは「正しい広告」を作るための7つのルールを発見したといいます。その奥義をここで御開陳!

僕はこの広告がヒットしたことで「どうしてこの広告は評価されたのか?」って分析したんです。結論から言うと、僕の考える広告のすべてがここに集約されてたんです。まず、みんなカッコイイことをやってる中で、ひとりだけバカをやった。めちゃくちゃ目立った。「①広告は目立たないといけない」。更にその行為も含めて「②広告は新しくないといけない」。あとこれは見た途端、誰でも一瞬でわかりますよね? 「③広告はわかりやすくなければならない」。もうひとつ「④広告はシズル感がなければならない」。シズル感って肉を焼く映像を見せて反射的に「うまそ~」と思わせること。これは暑い夏に涼し気な空気が感じられた。さらに「⑤広告は夢がなければならない」。僕は広告を見た人の未来が少しでも明るくなってほしいと思ってて、この広告を見たことで「としまえんに行けば気持ちよさそう」って提案になった。あと「⑥広告はその企業のブランドを表現しなきゃいけない」。ここには「としまえんらしさ」が表現されていた。その上で「⑦実際にお客さんが集まらないといけない」……こうして僕の中で「正しい広告」を作るための7つのルールができたんです。僕はここで開発したものを一生やってるだけなんです

おお、なんかこのセブンルールを守れば自分も名広告が作れるような気になってしまうからフシギだ! 後半はほとんど大貫教授の広告講義となったこの会議、最後に我ら生徒に御言葉を。

表現というかクリエイティブは世の中を変えるチカラがあると思うんです。僕も最初は「企業の売上を上げる仕事かな?」と思ってたけど、そうじゃない。本当にチカラのある表現によって未来は変わるんです。僕はそう思ってるから毎回手を抜かないし、クリエイティブな仕事をなめないでやってほしいと思います

クリエイティブには世の中を変えるチカラがある。

その言葉を胸に、今日もあと一歩進んでみようじゃないですかクリエイターのみなさん!

画像10

2021.7.9 at HFM

いいなと思ったら応援しよう!