#22 青年失業家・田中泰延「コピー、文章、本」(2020.8.7&20)
すっかり廃屋みたいになってしまってるこのnote、死んでるわけじゃないんです。いろいろやることがあったんです。ちょうど半年前の放送を思い出してみましょう、そう、田中泰延(ひろのぶ)さんの回。中身が濃すぎて3回放送になったっけ。写真まだ半袖だし、、、
田中さんの肩書「青年失業家」となっていますが、それは自称。実際はフリーランスの物書きとして初の著書『読みたいことを、書けばいい』(ダイヤモンド社刊)が発売1年で16万部の大ヒット。ベストセラーでございます。
田中さんとの話は、まずは本の話からスタートしました。学生時代に読んだ本が6,000冊とか。
学生の頃、図書館通いをしてて、日記をつけてて、それを数えたら6,000冊あったんです。本をたくさん読んでる影響はあると思います。ただ、糸井(重里)さんにもよく叱られるんですけど、「本をたくさん読んでりゃ偉いってわけじゃないぞ」と。好きで読んでるだけだから偉いとは違うけど、でもその中の忘れない行とか、メモらなくても残るくらい忘れないものが自分の書くものには出てくると思うんです
そして子供の頃の話に流れ、お父様が広島と関連があったという話題へ。
僕の大阪の実家は壁が全部本棚だったんです。父が本好きで、占い師だったんです。漢文の四書五経、孔子とか朱子とか漢文をそのまま読んでたから僕も小さい頃から読んでて。漢文を読むと日本語はラクだと思いますね(笑)
父は大正15年生まれで、糸崎機関区で蒸気機関車の機関士をやってました。父の日記によると、昭和22年、広島駅で大阪から来た占い師に会ったらしいんです。その占い師が「きみはこの汽車の運転士をしとるのか? やっててモテるか?」って聞いてきたんです。父が「モテません」って答えたら、「占い師はモテるぞ~」と言って。それを聞いて父は翌日、家族の反対を押し切って機関士を辞めたみたいで(笑)。僕は父が大阪で占い師になった後に生まれたんですけど、父が広島でその占い師に会ってなければ、僕は今日大阪からここに来てないっていう。父は亡くなるまでずっと機関車の写真を机に飾ってました
田中さんのキャリアで目を引くのは青年失業者以前、あの電通で24年間コピーライター・CMプランナーをしたところ。ここからはしばしコピー論。
僕が会社に入ったのは1993年。糸井さんがコピーライターとして天下を獲ったのが1980年代前半から後半くらい。その頃、僕は中高生で「コピーライターってすごいな。1行で何百万でも稼いで」と思って。でも実際コピーライターになったら、コピーの技術は盗むしかないんです。過去のコピー年鑑や名作コピーをパクったら「パクっただろ?」って言われるから(笑)、どういうルートでその言葉になったのか、その“回路”を勉強したんです。いいコピーって上手に言うとかじゃなく、結局は発見なんですよ。売らなくちゃいけないものに対して、「そういえばそうだ」って発見があるものがいいコピーだと思います
その「発見」のコピーの代表作として田中さんが挙げるのが、糸井重里さんの名コピー、新潮文庫「想像力と数百円」。
これ、すごいなと思って。文庫本って数百円で買えるものだけど、書いてあることを読むには読む人の想像力が問われるわけで。だから「想像力と数百円」。これを見た人は「文庫本ってそういうもんだよな」って思うし、これは新潮文庫の広告だけどすべての文庫本の広告でもあるじゃないですか。宣伝文句で普遍的な真理が作れるんだっていうのは大きな学びでしたね
そこから田中さんが見たコピーの変遷を駆け足で辿ってみよう。
80年代、美辞麗句の世界にアンチテーゼを突き付けたのが糸井さんや仲畑貴史さん。たとえば車の広告も、昔は『いつかはクラウン』『ケンとメリーのスカイライン』みたいにあこがれとして描いてたんです。それに対して糸井さんが『くうねるあそぶ。』(1988/日産セフィーロ)を叩きつけた。風邪薬にしても「思いやりの~」とか「よく効く~」っていう表現を、仲畑さんが『ベンザエースを買ってください。』(1986/武田薬品)って小泉今日子に言わせた。「え、それでいいの!?」って衝撃でしたよ
その人たちが革命を起こした後、僕はコピーの世界に入ったんですけど、だからもう草も生えてなくて。美辞麗句があり、カウンターカルチャーがあった後、じゃあ何をすればいいのか?と。2000年代後はSNSが発達したので、みんなに遊んでもらえるコピーがポイントになりましたね。『ぜんぶ雪のせいだ。』(2013/JR東日本「JR SKI SKI」)とか。あの後みんなツイッターで「ぜんぶ○○のせいだ。」って遊ぶようになって、SNSでみんなが遊べるものを作ると商品の認知が進むという現象が進みました
しかしそんな広告業界の超大手から、46歳で田中さんはドロップアウトする。好待遇をドブに捨て裸一貫のスタート。いったい何があったのか?
広告ってまったく自分に関係のない商品を売るわけじゃないですか。「なんでそれをずっとやっていかなきゃいけないの?」って気持ちがあって。ただ、その商品とまったく関係ないことを広告に結び付けることができる人もいるんです。たとえば缶コーヒーに宇宙人ジョーンズっていう全然関係ないキャラクターが登場するCMが10年以上続いてます(2006~/サントリー「BOSS」)。それは発案者がトミー・リー・ジョーンズを好きだったんでしょう。それを結び付けられる人は広告の世界で好きに遊べるんでしょうけど、僕は真面目だから「アメリカの俳優が宇宙人になる」っていう発想にならなくて。「ひょっとして向いてないんじゃないか?」って思うまでに24年もかかってしまいました(笑)
そして田中さんは会社を辞め、青年失業家の道に進む――というのが超特急でお話いただいた「これまで」でした。
さて失業者となってどうしたか? 会社は辞めたが、その先のアテはナシ。田中さんはいくつかのウェブ媒体でライターとしての活動をスタートさせます。そんな中できっかけとなったのがツイッター。田中さん一日50~100ツイートの猛者で、現在フォロワー数は6.5万人です。
ツイッターは100円にもなってないけど、結果的に本を書くという出会いにつながりました。ツイッターで見てくれている人の中に出版社の編集者の今野さんがいて、「あなたはツイッターでいつもなにかをつぶやいてるけど、本、書けるんじゃない?」って。今野さんの企画書の中にもう『読みたいことを、書けばいい。』ってタイトルがあったんです。これは糸井重里さんと僕がネットで対談したとき、糸井さんが「田中さん、書きたいことを書くんじゃないんだよ。読みたいことを書けばいいんじゃないかな?」って言われて。コピーライターっていう仕事もそうだし、なにか雑文を書くときも小説を書くときもそう。それで盛り上がったところを今野さんは逃さなかったんです
『読みたいことを、書けばいい。』、この書名がもうすべてを物語ってるというか、つまりそういうことなんです。これも名コピーなんです。
人は書きたいことを書くと、だいたいくだらないんです。「税金下げろ」とか「汁なし担担麺食べたい」とか。「言いたいことはそれだけ?」というか、大体の人は書きたいことを書くとつまらないか、意味がないか、社会の邪魔か。そうじゃなくて「自分がお金出してでも読みたいことを自分で書けたら、それだけで幸せじゃないですか?」っていうのがこの本の言いたいことです
実はこのタイトルには主語が抜けていると田中さんは言う。もっと正確に言うならば「(自分が)読みたいことを、(自分で)書けばいい。」。誰のためだかわからない文章を自分自身に奪回する、そこがコペルニクス的転換だし、勇気を与えてくれるのです。
この本ではマーケティングはよくないよって言ってて。僕ら広告の仕事やるときは必ずマーケティングリサーチします。でもそればかりやってたら他人の人生を生きることになってしまう。「女子高生に売れる水って何だろう?」って考えてると、女子高生のことばかり考えるわけで、でも調べても考えても女子高生のことはわからないんです。よくこの本の題名を「消費者が読みたいことを書けばいいんでしょ?」って誤解されるけど、違うんです。本来は「自分が読みたいことを書けばいい」なんです
田中さんに今後の目標を尋ねたら、出版社をやりたいという意外な言葉が返ってきた。2020年に登記した「ひろのぶと株式会社」はなんと出版社だったのだ!
自分の本が16万部も売れてるのにお金がそんなには入らなかったという経験に基づき、印税を倍にしましょう、いや、最高では5割にしましょうと(笑)。うちがあまり儲からなくても、著者に分ける出版社にしたいと思って。やっぱり本に囲まれた親父の家で育ったことが僕の原点なんです。この紙の厚みや重みは多少なりとも著者の人生なんだろう、と。時代に逆行しているかもしれないけど、そう思うんです
ここでつながるお父様の思い出。コピー、ツイッター経由、書籍行き。この最終目的地、ホントーBOYSとしては胸アツでしかありません。
昨日、広島のクリエイターのみなさんの作品や活動を見て、めちゃくちゃレベルが高い!と思って。いい意味でガラパゴス的に進化してると思うんです。限られた地域の中で煮詰まってクリエイティブなレベルがめちゃくちゃ高くなってるから、大阪や東京に発信したらすごい突破力があるんじゃないですかね。福岡がそんな感じで突破してるから、広島も熱いと思います!
そんな広島主催の田中さん参加イベントがまもなく開催(って今回はリモートですが。リアルイベントは4/3開催予定)。はい、これに合わせて今回原稿書きました。やっぱり締切ってないとダメですね。
BOYSの相方、カミさんも出るよ! ではシーユースーンで!!
2020.7.25@IC4 DESIGN