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怖い話

今回は怖い話の中で傑作と言われる
「くねくね」について紹介します。。

※最初に要約を載せましたが見たくない人はとばしてください。


要約

この物語は、作者が小さい頃、秋田の祖母の家に帰省した際の体験を描いています。作者と兄は、田んぼの周りで遊んでいるときに、遠くに奇妙な白い物体を見つけます。最初は新しい案山子だと思った二人ですが、動き続けるその物体に対する興味と恐怖が募ります。兄が双眼鏡でその物体を見に行くと、恐怖にさらされて真っ青になり、家に戻ります。祖父はその白い物体を見てはならないと警告し、家に帰ると兄は狂ったように笑いながら不気味に動き回ります。最後に祖母は、兄を田んぼに放す提案をし、作者は兄の変わり果てた姿に深い悲しみを感じながら家を離れます。物語は、見てはいけないものを見たことで起こる恐ろしい変化と、家族の絆を描いています。

原文

これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。

年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。

都会とは違い、空気が断然うまい。僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。

そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。

と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。

僕は、『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』と、

さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。

すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。その方向には案山子(かかし)が

ある。『あの案山子がどうしたの?』と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と

言って、ますます目を凝らして見ている。僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。

すると、確かに見える。何だ…あれは。

遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。

しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。

『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かった

から、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』

兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。

風がピタリと止んだのだ。

しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。

兄は『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』と驚いた口調で言い、気になって

しょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。

兄は、少々ワクワクした様子で、『最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。

すると、急に兄の顔に変化が生じた。みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく

流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、

兄に聞いてみた。『何だったの?』

兄はゆっくり答えた。

『わカらナいホうガいイ……』

すでに兄の声では無かった。兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。

僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を

取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。

しかし気になる。

遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。

しかし、兄は…。よし、見るしかない。どんな物が兄に

恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。

その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。

僕が『どうしたの?』と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、

『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』

と迫ってきた。僕は『いや…まだ…』と少しキョドった感じで答えたら、祖父は『よかった…』

と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。

僕は、わけの分からないまま、家に戻された。

帰ると、みんな泣いている。僕の事で?いや、違う。よく見ると、兄だけ狂ったように

笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。

僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。

そして家に帰る日、祖母がこう言った。『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。

あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か

経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』

僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。

また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。

何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。

祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。

僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。

表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。

そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながら

ずっと双眼鏡を覗き続けた。『いつか…元に戻るよね…』そう思って、兄の元の姿を

懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。そして、兄との思い出を

回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。

…その時だった。

見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。

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