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キャプション:シキ・キト・テツヤ

「・・・こうやって名前並べると、変な感じするね。」
「なんでてっちゃんが最後なの?」
「・・この順番で話すからじゃないの?どうも・・テツヤです。」
「・・シキです。」
「キトです・・」
「それでね・・てっちゃん・・てっちゃんはなんで、にぃ社長と病院行ったの?」
「トシさんのこと知ってたの?あの状態のこと。」
「知らないよ。でも本当に別件でさ・・それは・・多分この回で出てくるって思うけど・・本当に偶然だったんだって。」
「じゃぁ・・まだ俺たち産まれてないの?」
「そう・・まだ・・シキでも後・・二年くらいかかるんだよ。」
「かなり前なんだ・・シキのお母さんには出会ってるの?」
「・・それもまだぁ~・・だと思うけど・・どうだっけ・・」
『・・・・』

Yoshiki

「!!どうしてそれを早く言わないんだよ??」
どこまで掴んでるかが気になって、光樹が出社したという連絡を受けて、会社に来た。
最初は、全体的な流れを聞いて、トシ自身がやはりおかしいということがはっきりと分かったところで・・一人ではやはり無理があるから、今は有給で休んでいるニィ兄が傍に居るというが、彼が仕事を復帰したら、光樹が傍に居ると言い出した。
この話を光樹から聞いて驚いた。
家が荒らされてたってのは・・見てたから知ってたけど・・
ただの空き巣じゃなかったんだ・・。
「聞けば、絶対仕事放棄なんて当たり前になるでしょ?兄貴。」
「・・・」
「今、それされると困るんだ。」
「なんで・・・?」
「・・トシ、すごいよ!彼のおかげで、Xメンバー候補を上げてたんだ。」
「え?!どうやって・・?探して・・どうやって・・知ったんだよ・・光樹・・」
「その切欠は・・小室さん。あの人、飛んでもない人とコンタクトを取ろうとしてたんだ。フランスの音楽プロデューサと会う約束してたんだ。非公開で。だけど約束の日にその人は来なかった。事務所間で話をしたら・・その日一日、その人もゆっくり話したいってんで、時間を取ってた。なのに来なかった・・当然、あちらの事務所も驚く話で、動いてたんだ。それで・・イタリアでも同じことが起きている人がいるという話がつながって・・大事になってるんだよ。音楽業界が。」
・・・・なんてことだよ・・知らなかった・・そういう流れになってるなんて。
「恐らくトシは・・体に異常を抱えたまま、自分の仕事を熟しながら、いろんな人を伝って、新しいメンバーを探してたんだろうな・・お陰で問い合わせが殺到。トシの事務所がないんで連絡するところっていうと、もうここにしかなくて・・都内事務所を通じて俺のところに連絡が来てた。」
・・・あいつ・・
メンバーを外すこと・・先に読んでたの?
メンバーを大事にしていたのは知ってる。
ちゃんと彼らから話を聞いてたから・・俺との間で異変を感じていたのかもしれない。
その辺は・・トシにしか気が付かず、俺が突っ走てたって事か。
「兄貴・・・トシは・・深入りはしてほしくないって・・そう言ってる。ただ・・アイツの兄貴が・・たぶん・・まだ帰国して無いだろうから、その行方だけ追って欲しいと・・・どうするよ?」
こう聞いてくるのは、俺は徹底的に探らないと気が済まない性格なのを光樹は知っているからだろうな。
「・・俺は来年から、Xが動かせるなら・・そっちの方がいい。そのためには、深追いして時間を費やすよりも、ミツ兄が言う通り、彼の兄貴だけだ探して、それで元に戻せたら・・って思うんだけど。兄貴は・・それで納得できないんじゃないの?だとしたら、兄貴が決めて!それに従う。」
・・・俺の判断で・・・すべて決まるってんなら・・答えは決まっている。
でも・・そうなれば・・・恐らくトシもそれに従いそうな気がする。

大体・・家があらされたって・・それ・・あの連中は知ってんの?
トシの家・・
「なんで・・トシの家が狙われたと思う?」
「え?!」
「考えてみれば、分かることだけど・・なんで知ってたんだ?あいつの兄貴が知ってたのか?」
指定された病院に向かうことになっていた。
それを無視して別の病院へ向かうという計画を立ててた。
いつまでも現れないんで、家を狙ってきた・・って事なら、その日じゃなくて、翌日か・・その日の夜になりそうなものが・・そうじゃなかった・・。
行動が早すぎだ。
そこになぜ今頃気が付いたんだ・・俺は・・・。
「たぶんだけど・・その前から荒らされてたんじゃないかな・・”脅し”のつもりで。”逃げられると思うな”って意味だと思うけど。」
・・・そこまで狙われてるって・・
「予想しかないけど、たぶんサンプルが少ないんじゃないの?本当に向こう側も焦ってるんじゃないかな・・だからこうなってるとしか言いようがないのは確かだろうね・・トシと同じように、いろんな人の手を借りて奪還されることが多いんじゃないかな・・だとしたら、目的を果たせていない相手側は当然焦るでしょ。」
まだここへきて間もない・・体制が整ったとはいえ、まだまだ足りてない事方が多い。特に、セキュリティー面では。
守りが浅いとなれば、攻めやすいのもうなずけるけど・・・このままにしておくのも気が済まなくなりそうだ。
「分かった!トシには弾き続きここで仕事してもらうことにする。」
「はぁ~?!」
「これまでと同じく、トシには、英語のレッスンも、ボイトレもしてもらう。うちのスタジオで。」
「・・・それで?」
「仕事もしてもらう。」
「平然として言うな!今がどういう状況か分かってる?表立った仕事させる気でいるのかよ・・仕事って。」
「当然じゃない!お前最初に言ったよ!?”人質になってもらう”って。」
「・・・蒸し返すなぁ・・・」
「こっちに戻ってくれば打つ手があるとも言った。だったら、そうしてもらおうか?!」
「・・・あんたの方が余程・・犯罪めいてる気がするわ・・・」
「やられたらやり返す!俺のもんに手を出したんだ。絶対許したくない!」
トシには、これまで以上に仕事に追われてもらう。余計なこと考えさせる暇は絶対に与えたくない。
「睡眠薬なんてものが必要なくなるくらいたぬっ倒れて寝てしまうほどの仕事量を兎に角入れ込んで。それが次につながればそれでいい!」
「・・・あんた・・トシを殺す気か?」
「殺されるくらいなら、俺が殺したいの。」
「!!!」
はっきり言えば、俺も壊れてる。
でも・・先にそうさせた相手だけは、絶対に許したくない。

side:Kohki

珍しく・・表情亡くした冷たい顔の兄貴を見た。
怒り狂ってるってんじゃなく・・感情そのもの捨てた・・人間性が欠けてるとしか言いようがないあの感じ。
あれ見たの・・・お父さんが亡くなった時以来だわ。

・・・それでまた・・探せばあるもので・・・なんでここまで人気があるの?まだ駆け出しだってのに。
トシに対する影響は本当大きかったんだ・・・
一声かければ、降り積もってくる仕事の山。
トシ・・ってすごく影響力があるのかもしれない。
ヨシキのプロデュースがあるからこうなってると思ったが・・アイツのキャラクターがどうやら受け入れられているらしい。

・・・ここまで公にしっぱなしだと・・精神的に持つのか?
今のこの状態で・・。
そんなことが心配になって、一度ちゃんと話をしようと、トシのところへ。

「・・いいよ。仕事、する。」
・・・本当にわかってんの?
この感じ。
兄貴とは違った意味で表情が表に出ていない。
ポカーンとしている感じに見えるんだけど・・
「寝起きか?」
「うん。さっき起きたの。」
・・・寝てたのかよ。
「光樹君・・」
「なに?」
ニィ兄に呼ばれてそっちを見た。
「英語レッスンの講師は、何人もいるんだよね?」
「ああ。5人程度かな・・まだ増やすみたいだけど。」
「・・だったら・・セラピーや、カウンセリングができる人も、そろえてくれたないか?」
「・・え・・?」
「そこで治療も受けられれば、ヨシキの傍にはいられるだろ。」
「そんなことしたら、余計に休む暇なしだぞ?」
「・・さっきコイツが寝てたのは・・治療だったからだ。」
・・思い出した。
ホーム治療を受けれるように手配済みだった。
だけどそれじゃ予算がかさむ。
幾ら、こっちの銀行口座を開いたとしても・・動くお金が入ってくるお金以上になれば・・まだ保険だって・・え?!
そういうことでもこの兄ちゃんつけるじゃん!
「分かった!こっちで探してみるから、それで御願いなんだけど、ニィ兄の銀行でも、保険って・・扱ってるよね?医療とか・・いろいろ・・」
「ああ・・だが保険部門はまた別・・」
「今こう言う状態のミツ兄だよ?金額がかさむんだけど・・入れる保険とか探してくれない?」
「それならこいつは自分でかけてんだよ。」
は?!
「それを何とか、動かしたいという相談もしてきた。そ子にまで手を書付けられちゃまずいと踏んだんだろうな・・受け取り人が俺なの。」
・・・流石!やるぅ~!!
「それなら安心したわ。じゃ・・そこからお金出してんだ。」
「そういう事。アメリカで動かしたからだろうな・・・この家が狙われたのは。」
そこで足が付いたのかよ・・・全く手の込んだ調査も向こうはするもんだ。
これで確実になった。
イチ兄は・・あいつらの手中にいる。
ややこしいわぁ~・・・ただ・・これで兄貴の倍返しだか何だか知らんが、できるようになったと。
・・もう・・!!!
いいのか悪いのか・・。
「なんで毎度こうなるよぉ~~・・どっちかが辛い目に遭うと、どっちかの願望が叶うんだから。」
「ミツとヨシキの事か?」
「そうだよ!全く・・ミツ兄はイチ兄だけ助け出せば・・・って事だったのに・・兄貴のやつ、ミツ兄がぶっ倒れるまで仕事させる気になって、その間にやり返しを考えるって・・音楽してればよくない?」
「・・・音楽でやり返すんじゃないのか?」
「・・そんなぁ~~芸術性が高い連中かよ?医学界の連中が!!?信じらねぇって。」
はっきり言って、ああいうお堅い連中が音楽・・しかもロックなんて・・そう考えてる俺は、あんな奴らは絶対理解し合えない世界感だとしか思えねぇって。
・・!!!!?
うそ・・また寝てるの?!
「ああ・・寝たか・・」
「・・そんなにきついのか?催眠療法って・・・」
「さぁ・・どうだかな・・ただ・・英語能力が、戻っては来ているんだ。」
「ええ?!」
驚いた・・通訳なしじゃないと話せないとばかり思っていたのに。
だから、この治療中もニィ兄が傍に居たとばかり・・。
「傍に居るんだろ?」
「ああ・・だからこそ気が付いた。ひとりでに話すようになったんだ・・だが・・何を自分で話したかは・・分かってない。」
・・・これ・・仕事できる状態と言えるのか?
いいのか?そんな状態で仕事させて。
うちの兄も・・本当に考えなしなのよね・・・この状況を知ってから判断してほしいものだけど。

人数がまだ少ないうちの会社・・それでも仕事は早かった。
嘘みたいな怒涛のスケジュールが組み込まれた向こう1か月分の用紙を渡されて、瞬時にめまいがした俺。
・・・熟すの・・?これを??
”俺の”じゃないのに、この恐怖感・・・ミツ兄に見せたらどうなるか・・。
見てるだけで恐ろしいって。
『・・まだ足りませんか?』
どこの口が言うの?
『・・これ・・あなた熟せる気する?』
『まるでトライアスロンですね・・これ熟してるところを見るのは好きですけど。マネージャ・・3人では足りませんが・・どうします?』
そうだった・・・これに付添わせる人数が・・そういう意味での話でしたか・・・仕事の量なのかと思いました。
仕方ない!
今は兄貴は小室さんのところでレコーディング中だ!
スタジオの技術者を、トシのマネージメント業務に突き合せることにしよう。

『え~!?したことないんですけど。』
『それはこっちも同じだよ。こんな仕事量抱え込んだ会社なんて、俺もないわ!それでも今は、お前ら手隙だろうが。働け!給料なしにするぞ!!』
無謀でしかないこの惨事に、戸惑うのもわかるスタジオスタッフに、同情している暇はないの。
無理やりにでも仕事してもらう。
『・・暫くは誰か・・お手伝いしてくれる人・・』
『甘えんないるわけないわ!失敗しながら覚えてけ!』

そんな付け焼刃でそろえたなじみがない連中との仕事で、ミツ兄も滅入るはずなのに・・トシは・・全く狼狽えることもなく、更に・・普段俺たちの前で魅せている・・軽はずみな失敗も何もなく・・仕事を熟していた。
ラジオ出演の仕事も恐る恐る入れてみたが・・それさえも自然と話していたトシ。
ただ・・その反動は、会社に戻った後で・・あからさまに出てきた。

「・・お疲れぇ~・・どうだった?仕事。ラジオは聞いたけど、凄く面白かったよ。他の仕事は・・どうだった?」
「・・・ラジオ・・俺出てた?」
ほらな・・・自分で何しているのか・・分からなくなってる。
でも・・これだけの仕事量熟してんだ・・分からなくなるのも無理はないが。
何一つ覚えてないってことがあるのかって事なんだけど・・
「ラジオ以外でだったら、何か覚えてるか?」
「・・さぁ・・・なんか人にいっぱいあったのは覚えてる・・あいさつしたけど・・それくらい。」
屈託のない笑顔で、それを平然と言っているって・・おかしいとも思わないのね・・・まだまだって事か。
ただ・・受け答えはちゃんとできているし、英語だってちゃんと話せてる。
問題発言は一切していないという報告も出ているから・・今のところは大丈夫だけど・・。
いいのか?これで・・・。
ヨシキの言う通りにことを動かしているが、心配になっているのも本当。
記憶がこのままなくなっててもいいけど、この状況から早く脱出してほしいというのは、俺自身の願いだわ。

「・・明日のスケジュール・・どうなってる?」
「スケジュールなら、トシに渡してるだろ?家にあるんじゃないか?」
「あ・・そうか・・見ておくよ。」
「・・それなら、これだけ覚えておいて。明日は朝8時にここにきて!いい?明日朝8時に会社に来るんだよ。」
「わかった。ありがとう。」

催眠治療に当たっているドクター曰く、毎日のアウトプットが大事だといった。
だから、ここへきて報告させることにした。
まだ・・記憶は曖昧で、時間経過ごとに起きている変化がしっかりと自覚できていないミツ兄。
それでも、その場その場で大事なことは意識的に考えてその行動ができている。

『トシ・・今帰りましたよ。車、出しました。』
『そう・・ありがと。』
ここでの報告が終わった後、ラウンジで、座って呆然としていることが一度あった。
帰るのを忘れてたんじゃなく、そこが自分の家だと勘違いをしてしまっていたからだ。
それで声をかけたスタッフから、その報告を聞いて、送り迎えもしっかりさせるように、徹底させた。
仕事中にはこういうへまはしないで、ちゃんとこの会社には戻ってきて、俺の部屋にやってくる。
そこまでは、しっかりと頭に入っているらしい。
・・・集中力のなせるわざって事か?
『それで・・どうだった?トシと一緒に仕事してみて。』
今日は4人で回した。
その内の最後の一人に話を聞かせてもらうことにした。
『仕事中は、本当に問題がないんです。ただ・・移動中とか・・控室の中にいると・・おかしなことを・・するんです。』
・・・まぁ聞いてる通りだな・・
『例えばどんな?』
『・・それが・・レコーディング最近していないとか・・かと思うと・・元祖Xのメンバーのことを・・今もいるみたいにして話し出したり・・。これから個人事務所を立ち上げないといけなくて・・とか・・』
・・この話は、誰から聞いても同じことが出てくる。
トシ・・ミツ兄は、今の状況になる前の記憶に戻っているのか・・。
『社長をどうやって決めていいかと・・相談してきたんです。』
『それで・・お前なんて言ったの?』
拙い!このことは、詳しくこのスタッフたちに話していない。
下手に”今はもう会社がない”なんて言われたら・・
『候補はいますかと・・聞きました。』
!!!?
『そしたら・・”ニィ兄”って・・。でも仕事を別にしていて、NYにいるし、幹部の立場だから・・たぶん無理と・・それで・・”イチ兄”なら・・この業界に興味があるみたいだし・・いいのかなって・・言ってましたね。社長業は大変で、目立った仕事じゃないから、それでも喜んでくれるかなと・・。』
・・・喜ばせたいんだ・・何が何でも。
『”イチ兄”が・・社長になったら、”俺のやることの方が多くなりそう”と言ってました。それでも仕事が楽しいと思ってもらえたら、”俺も嬉しい”と。あの笑顔・・俺も大好きですよ。この仕事・・本当に自信はないんですけど、あの人の為になるなら、俺続けようって・・そう思ってます。』
・・・そうやって影響を与えていくのね・・ミツ兄は。
誰かのと勝負しようなんて気は毛頭なかったか・・。
ヨシキはそれで腹を立てたり、頭に血が上ってたけど、勝負するのはヨシキ!お前自身で十分じゃない。
トシを楽しむことが武器なんだよ。
『分かった!報告ありがとう。じゃ・・引き続き、よろしく。明日もまた夕方から夜までだからね。』
『はい。では。』

日に日に・・情報は集まってくるけど、これと言って、イチ兄についての情報がない・・。
全くどこにいるのか・・全く分からない・・。
トシは、相変わらず、仕事はそつなくこなして、移動中や休憩中、一番ひどくなるのが、この社長室・・と・・。
どういう頭の回転をしたらそうなるのかわからないけど、第三者の目からは何も問題があるとは思われていないどころか・・次の出演依頼が殺到・・。
泣きそう・・もう~~・・・
休ませてあげられない~~。
帰ったら帰ったで、睡眠セラピーが待っている。
日替わりで、何と毎日夜になると、ホーム治療が行われるという・・この環境・・休みなしで治療してて・・改善するのかどうかも怪しいってのに・・。
本当にこの生活でいいんだろうか・・
俺が知っている誰よりも、ミツ兄は休めていないんでは??

家には常にニィ兄がいて・・パソコンと電話で仕事はしてくれている。
俺の手伝いみたいな感じで・・。
今のところ目立った動きは銀行を通してみる限り無いらしいが、相変わらずお金の動きは大きいようだ。

ある日の日中、ニィ兄がうちの会社へやってきた。
前日に会って話したいことがあるというんで、約束をしていた。
”明日なら・・”と俺が言ったら、驚いていて、”そんなに早く時間取れるの?”って・・。
今が一大事なのは十分わかってるし、こちらが表立って動けないから人を回しているって状態。
俺はできる限り連絡係に徹していた。
なんせ、誰にでも話せることじゃないんだから。

「何か掴んだの?」
入ってくるなり、席を立って声を上げたのは俺。
「それが・・内定調査に踏み出すことになったらしい。銀行が依頼した。」
ニィ兄が務めているのはNYが本社の銀行・・そこが内定調査を・・
「いったいどこに?」
「ここ。」
見せられた用紙に書かれていたのは・・病院・・
外国に何店舗も構えている大手の病院・・
「これ・・ここに調査が入るの?本店にだけ?」
「いや・・総て。」
・・・
「この病院の視点総てに各国の調査隊が入ることになった。」
「・・そこが根本だって確証が付いたって事?」
「ああ・・。」
話を聞くと、どうやら他の国での動きも目まぐるしくなていったいらしい。
極めつけが、本当に身近なところで・・知ってか知らずか・・メディア界の人間が帰ってこなかったということで、調べていた国がある。
それで・・大きく広がりを見せていた。
こちらにはその情報が入ってこなかったが。
「まさか・・報道関係者が何人か捉われていたなんて思いもしなかった。」
「報道関係者なら、一気に表に出しそうなんだけど、なんでそうしていないの?」
「表に出そうとしたんだ。そしたら・・殺された映像が流されたんだと衛星通信を使って。」
・・・そこまでするのかよ・・
「お金要求をしてきたって事?」
「してきていない。報道するなという警告だけだったらしい。それでお金があらぬ方向に動いてたの・・一気に一昨日、昨日と・・」
「・・どこからどこに?」
「報道機関から報道機関に・・。」
は?
「金を出すから、報道するなって・・警告だったらしい。」
根回ししてたんだ・・・
「命を助けるために呼び掛けることもある。だけど、命を助けるために、呼びかけないという方法もあった。だから・・そのお金の受け取り拒否って動きも銀行を通して行われているわけね・・何が何なのかわからないが・・うちらの銀行をはじめ、大手銀行が、一斉に調査に入る様に要請願を出した。」
報道はできない、国家機密も動かせない・・だったらお金を動かして銀行に頼った・・・。
それがSOSって・・銀行が読み取ったんだ。

「調査の依頼で・・もしうちの兄貴がその場にいた場合・・・どうなると思う?」
「・・あ・・」
ミツ兄・・相当心配するだろうな・・今の状態がようやく落ち着いてきたってのに・・また悪化したら・・
「でもさ・・・やったことはやったことだよな・・。冷たいけど・・認めるしかなくない?」
「・・そうだよな・・。」
もしも・・万に一つの可能性があったとすれば・・イチ兄はたぶん難を逃れてるかもしれない。
”先に・・洗脳されてたのは・・兄貴かもしれない・・”
そういったニィ兄の言葉が浮かびあがってきた。
だとしたら・・逃れられなくなってるかもしれないけど、目的がミツ兄だけ。それなら・・恐らくは、彼だけが香港につれていかれて、イチ兄は・・日本かもしれないんだ。
睡眠導入剤を投与されすぎているミツ兄は、既に抵抗できなかった状態に追いやられてたとしたら・・イチ兄は・・連れて行かずとも済む・・?
!!?
日本にいたから海外に目を向けて探したところで見つかるはずないだろう・・。
「ぅわぁ~・・灯台下暗し・・ってまさにこのこと・・」
「なんだ?!どうした光ちゃん・・」
「・・・なんで気づかなかったの・・イチ兄・・・日本かもしれない・・」
「!!?」

sideYoshiki

久しぶりに休暇ができた。
一日だけ休み。
その理由は・・小室君の風邪。
あの人でも風邪をひくんだ。
言ったら、既に風邪声で、聞くに堪えないから飛び出してきた。
”その声が治ったら再開してやるよ”って・・先輩だってのに、頭に来すぎたせいで、考えもなしに言い放って出てきてしまった。
元気になったら謝ろう。
”一日で治すよ”って・・そういったから、一日だけ休み。

なにしようかな・・・スタジオ行ってもトシが英語レッスン受けてるか、ボイトレしているか・・仕事でいないかだろうし。

そう思いながらも、スタジオへ何故か来てしまった。
きてどうするかまでは考えてなかった。

そしたら・・
『ヨシキ!!今すぐ上に上がって!!早く!!』
・・・なんだっていうのか、引っ張られるがまま階段を上がっていく・・
何だ?いったい・・

『だから今すぐ帰せってんだ!!』
『落ち着いて。今帰国しても居所ははっきりしてないんだから。』
・・・
訳も分からず様子を立ち尽くしてみてるしかなかった。
一体何があってここまで荒れたってんだよ・・・
他に誰かいるのかと周りを見渡すと、いた!!
光樹とニィ兄が、この様子を青ざめて見ていた。
「いったい何があった?」
「・・どういうわけか・・俺たちの会話が漏れたんだ・・」
「なに?」
『・・ちょっとどいて!』
何だよ偉そう・・に・・って・・白衣姿・・・
俺たちを素通りして、トシの元へすたすた歩いていくドクター?
どこから来たの?誰が呼んだの?なんでいるの?
『・・・ン・・・』
『これでいいわ。寝かせて置いて。』
・・・!!!
『ちょっとアンタ!睡眠導入剤は使わないってことになってる。一体何したんだよ。』
『安定剤を打っただけ。落ち着いたんだからいいでしょ?』
安定剤と、睡眠剤の違いも分からない俺にとって、同じような気もするが。
『ここの幹部は、あなたたちよね?丁度いいわ。話があって来たら、ここに通されたのよ。どこか、話ができる場所、ある?』
・・・なんでこうも偉そうなんだよ・・この人・・。

場所を移動して、比較的落ち着いている、3階に。
まだ扉はないけど、今のところだだっ広い静かな空間になっている。
座るところもないので立ち話になるが。
光樹と、ニィ兄、そして俺・・この3人で、この医師の話を聞くことになった。
『トシを香港のある病院に連れて行ったのが誰か知ってる?』
『いや・・分からないままです。』
なんだ?唐突にこんな質問・・
光樹は、戸惑いながらも、素直に答えた。
『そう・・ならよかった、まだ手が届いてないってところね。』
・・・かかわりがある・・
もしかしてやばい人なのか?
『トシが受けている催眠療法の治療医は、元々病院で働いてたの。うちで働いてたのもいるけど、他所でってのもいるわけ。彼らの病院も今問題になっている、団体の傘下に入れと・・雲行きが怪しくなってるわ。だから辞めた人たち。』
!!!
『この治療法そのもの悪い事じゃない!でも、悪いことに使おうと思えばいくらでもそうできる。彼らだって知らなかったはず。こういう使い道のために利用されて理るなんて。』
『だから、黙って見過ごせと・・そう言いたいわけ?簡単に人の頭ん中、弄って、よくそんなことが言えるな?あんた』
あの様子を目の当たりにした、光樹は甲府に冷め止まず、頭にきている。
『違う!そこをたどれば、居場所は簡単に突き止められるとそう言いたいわけ。恐らくトシは・・どういう切欠か知らないけど・・思い出したことがあったんでしょうね・・だから・・あれだけ暴れた。それと・・ここがどこなのかも気が付いた。”元居た場所とは違う”そう気が合付いたから、”戻せ!”と、叫んでた。』
『・・・どこから見てたの?』
『私も、あの病院はやめて、今は、トシのカウンセラーとセラピストのあのメンバーを取りまとめる役割を担ってて・・光樹・・あなたから依頼を受けてたんで、派遣したまで似すぎないの。その報告は義務付けている。だからある程度は察しが付くわけね。』
・・・そういうことか・・
『だったら他にもそういう人がいるってこと?』
『そうだけど・・精神的ストレスを追った人は何人かいるだけで、あそこまで思い込みを植え付けられてる人ってのは・・トシくらい。』
・・・!!?
『なんで・・アイツだけ?』
ニィ兄の言葉俺の想いと重なった。
『本来なら過重なストレスを与えることで屈服させる・・これが狙いだった。下手に何でも投与すればそれだけで細胞が壊れてしまい、あの団体が必要としているサンプルが取れないから。つまり目的を果たせなくなるやり方はしたくなかったはず。だけど・・トシの場合・・それでは思い通りに動かなかったから・・あの方法を・・時間をかけるというやり方で細胞を守りながら徐々に屈服させるように仕向けたみたいね。』
『待てよ!だったら、なんで・・アイツの兄貴にも手を出すんだよ。』
『それがトシを弱らせる最大の攻撃策になるからじゃない!あの子・・自分が傷つけられても、何も気にしない・・それ以上に強くなれる。だけど・・自分のお兄さんが痛めつけられるの見るのは・・精神的にも大きなダメージを与えられる。トシの優しさを十分に知っているからこそできた方法なわけ。つまり・・かなり長い時間かけてトシを観察してた・・という事。』
・・・
だから家でも・・人が。
やっぱり監視されてたんだ。
”心配してもらってるとわかったから”
そうじゃなかったって事・・・
くっそぉ~・・お人好しが裏目に出たな、トシ。
『病院は。真っ向からその団体と戦う姿勢に張りと思う。そのためには、今いる人質が、どれだけいるのかを把握しないと、犠牲者の数が分からない。』
・・・は・・?
『言ってることがめちゃめちゃじゃないの?これからの未来を考えて、本当に必要な人間の細胞だから、採取してそれを培養するって話だったんだろうが?其れなのに・・』
『それでも、目的果たせなくなれば、見殺しにするなんて簡単なことなの。既に変死体が・・見つかってる。どこの誰かもわからない。時間をかけて調べてみたら、アメリカ人がアフリカの河で浮かんでいたとか・・二年も行方不明になってた人だったことが分かった。』
・・・そういうことがあるのかよ・・
 『これをメディアが取り上げないのは、既に巨額のお金が動いてたから・・?』
『そういう事。医学会がメディアに動かした。』
こんなことが起きているなんて・・
『まずは、ホームレスから始まって、借金まみれの依存者、ギャングの落ちこぼれ・・など・・社会的に見て騒ぎが広がらない人たちをサンプル資料に取ってたわけね。それが数を重ねれば、共通点が浮かび上がってきたから、確実に狙いを定められるようになて来たというわけよ。それでこれまで基盤となるサンプルの人たちは、お払い箱ってわけ・・。ただ・・運が悪かったとしか言いようがないけど、貧しそうで、目立たなさそうに見えても、実はくらいが高い人だってその世界に居たりする。それが・・メディア界の元大物。』
!!!?
『あの団体も人間を見る目がなかったんだでしょうね・・余程細胞に取りつかれたらしいわ。なので・・それで足が付いた。こうなれば、今ここにいるトシをはじめ・・事件に巻き込まれた人たちが危ないの。トシをテレビには出さない方がいいと思うけど?』
『その忠告に来たの?わざわざ。』
『いいえ・・ちょうど・・記憶の錯乱が始まる頃かと・・だから会いに来たんだけど。』
経験が余程豊富なんだろうな・・そして観察力もしっかりあるから、大体どれくらいの時期に何が起きるかを把握していた。
それで助けに来たつもりだろうけど・・このドクターの言い方・・追い詰めにかかってるとしか言いようがない。
『あんた・・ただのドクターって感じじゃないな・・』
ニィ兄が眉を細めて・・まるでにらむような目つき。
『そう!悪い?父はマフィアだし、兄はギャング・・でも・・それでも私はドクターをしているのは、私自身が殖婦だから。一番白血病にかかりやすいこの体質のお陰で、母から骨髄を分けてもらった。でも・・母が亡くなった。誰かの命のお陰で生かされる命があるのは私自身認めるけど、あんなやり方で、誰かを犠牲にして、助けられる命があっても幸せにならない。』
『・・トシを助け出したのは・・あんたなの?』
『・・・違う人・・。だけど・・その人は・・助からなかった。このやり方を止めるしかないから、医者軍団が立ち上がろうとしている。だからこの件からは手を引いた方がいい。』
誰が助けたのかを知っている・・・ってこと?
『・・総てでまかせだったってわけか・・体を差し出せば、お金が入るとか何とかってのは。』
光樹は、怒りを抑えながら吐き捨てるように言い放った。
『お金なら入るわよ!日本では、違法行為でも、香港では違法行為じゃないんだから。既にトシは細胞の提供はしていることが分かってる。ドクターもきれいな世界ばかり見てるものばかりじゃない。中には潜り込んで、命がけでサンプルを盗み出しているものもいる。その中で見つかった。トシと同じDNA が。』
『なんでアンタ・・トシのDNAを知ってんの?』
『だって・・入院したんでしょ?そこで受けたよね?検査・・。その結果・・あんたらも聞いたんじゃないの?』
『だから俺が言ってるのはなんでそれをアンタが知ってんだって事だよ!』
『私の恋人がそのこの担当医だったから。』
・・・
『あの人が・・?』
恐らくその時三人同時に一人のドクターの顔が浮かんだ。
『ええ・・文句ある?別にいいじゃない?同性愛だって認められつつあるよの中よ!文句はないでしょ?!』
『いや・・あのおとなしそうな人にこんな・・方が・・お相手だとは・・』
『甘く見ない方がいいよ。あの子が、忍び込んで持ってきたんだから。あのサンプル・・。』
!!!!
あの人が自分で動いた?!
危険犯すような人だったのか・・・。
『家・・荒らされたんですってね・・』
『なんでそれを?』
『トシが教えてくれた。セラピー受けてる時に。不思議だったらしいよ。何もない家に何を求めてあれだけ散らかしたのか・・』
『あなたは分かるの?』
ニィ兄が何かを求めるみたいに身をのりだした。
『盗まれた細胞サンプル。』
・・・そういうことか・・・トシがいなくなって・・それで・・
『じゃ・・あの時・・ここで検査した女医が助けた?』
言葉にしてから時間経過が合わないことに気が付いたけど・・先にそう思って言葉にしてた。
『同時に二つの事をすることは不可能だって。トシを助けたのは・・恐らくでしか言えないけど、そこで捕まってた人なんじゃないの?だとしたらその人は助からないって思うけど。』
そういう意味で言ってたのか。
本当に・・医者のすることなのか・・それ・・。
『どこまでをトシが思い出して何を話すかにもよるけど、今回の被害者を裁判に出すことはしたくない!だから・・この話は、絶対に口外しないで。それと、本人がこの話をしてきたとしても、絶対に何も言わないでただ聞いてるだけにして。思い出してもいいことはないの!い~い?どちらも辛いこと言ってるって私も分かってる。どちらかと言えば、記憶が錯乱しているトシ以上に、この情報を持っているあなたたちの方が知らない顔をするのは本当に大変だって思う。でも・・これ以上被害は大きくしたくない。今、捕まえられている人たちからは証言してもらうけど、あの場から逃れた人たちには、この件を忘れさせたいの。協力して。絶対に話さないって。』
『分かった。約束する。ただし、あいつの兄貴がまだそこいる可能性もある。それだけは探させろよ。』
『・・彼も・・サンプルなの?』
『違うが・・トシと一緒にそっちへ行ったかもしれないんだ。』
『・・あり得ない・・他の人間にその場所を教えるとは絶対に思えない。』
・・・
・・・
俺たちは顔を見合わせた。
「まさか本当に日本に・・?」
光樹が顔をしかめて呟いた。

あの医者が言っていた通り・・トシは日を追うごとに記憶を取り戻していって・・魘されるようになったらしい。
”らしい”っていうのは・・ニィ兄が付いているから、彼から聞いた話でしかなかった。
更に、光樹と仕事の報告をするので会えば、必ず、”あの時”起きた話をするようになったと・・。
光樹は、否定も肯定もせず、ただ頷いて聞いていただけにしたという。
そんな日々が過ぎて行って・・ニィ兄の有給はすべて使い切り、NYに戻る日が来た。

トシは、その状況が受け入れることができず、空港で呆然としていた。
掛ける言葉が見つからないというのでもなさそうで・・ただ・・呆然と自分の兄貴を見ていた。
「使いっ切った有休分は働いて返すことにする。そしたら、今度はちゃんとトシの傍で仕事をするからそれまで待ってろよな。」
「・・・」
これ以上ないってくらいの励ましの言葉だったと思うけど、トシは、虚ろな目で、何も返さず見送っていた。

車の中での移動中、トシはぐっすりと眠ってしまった。
それを見てすぐに想っていることが我慢できなくなった。
「トシは、俺のところで面倒見る!」
「兄貴ぃ~・・」
「このままにしたくない!あの家は今すぐ売りに出せ!その金はトシのもチキンにするから。」
「・・・そういうことじゃないの!ミツ兄を傍に置いておけないってことを言ってんだよ。」
「なんで?!」
「・・兄貴は、忘れてないだろ・・あの話は絶対しちゃいけないの。その切り替えが兄貴はできてない。一人でいさせた方が幾分楽なんじゃないの?兄貴にとっても。」
「・・お父さん・・」
「え?!」
「あの話は全部!お父さんのことにする!!」
「何を言うの・・一体。」
「突然消えたお父さんが・・俺にもトシにもいるんだよ。」
忘れてた・・わけじゃない。
いつか消えてなくなることがあるって・・ちゃんとわかってた。
乗り越えられたって・・そう思ってたけど・・違うんだ・・。
そうさせてくれた代わりのものがあったから・・夢中になれるものがあったから、気に掛けなかっただけで。
なのに見えなくなって、見失って・・見つけられなくなった・・これは全部お父さんの傷だって・・そういうことにして生きるから。
トシは、ずっとそれを守ってくれてただけなんだから。
「約束するよ・・トシには何もなかったって。」
「・・兄貴・・わかった・・。傍に居てやりなよ。あの家は売ることにするから。また‥ニィ兄の手が必要になったわぁ~。」

その後の調べで、イチ兄は日本にいた。
会社の借金がかさんでたのは事実で、その債務は、総てトシが請け負うことにされていた。
だけど・・トシのLAでのあの仕事量・・本当に鬼詰めだったんだ。
返済はすぐに済ませた・・。
それで恐ろしいのが、トシ自身が知っていた借金以上に膨れ上がっていたことを、トシは知らなかったことだった。
・・トシ君・・知りもしないで稼いだんだね・・君って子は・・。

イチ兄は帰国していると知ったトシは、眠っている時その夢を見るようで。朝目が覚めると同時に、当然やはり会わせろと暴れることが重ね重ね起きていたけど、仕事の都合で今はいけないと、とにかく引き留めた。
一度思い出すと、かなり暴れるものの、仕事の時間になって迎えのスタッフがうちに入って来ると、コロッと切り替わり、別人になって仕事行ってくると、出かけていくという・・恐ろしい光景を見続けることどれくらい?
漸くそれにも慣れた頃には、トシが暴れてもそのうち迎えが来るからと落ち着いていられるようになった。
・・ただ・・二時間もの間、その声聞いてなきゃいけないのかぁ・・という苛立ちが沸いて出てくるようになった。
それまでは、声がというより、今すぐにでも出て行こうというのが激しすぎたんで、そっちに意識が向いていたためか、トシの声なんて全然気にならなかったのに余裕が出てくると、声に意識が向くようになったわ。

因みにこういう興奮状態のトシ君!
おかしなことに、子供になるらしく・・鍵の開け方もわからなくなるので、ドアノブをガチャガチャするだけになって出て行けない状態になっている。
時間になると、スタッフが外からカギを開けるので、外に出ようとするも、切り替わって、仕事に行くという頭になる。
・・・面白い・・・。

夢・・見なきゃいいのにな。
そうだ!!
それだよ!!

『え?記憶の変換ですか?』
『できるだろ?植え付けることができるなら、植え替えだって。』
トシが寝る前に必ず来ているセラピストとカウンセラーの二人に少し早めに来てもらって、話をすることにした。
悪夢を取っ払う方法があるとしたら・・そう考えて。
『まぁ・・そうですけど・・いったい何に切り替えるんです?』
『俺にできることはないんだけど・・兄貴・・アイツの兄貴なら。』
『ヨシキさん!!言ったでしょ?あの人のお兄さんの話は・・』
『あいつには二人いるんだよ、兄貴が。その二番目の兄貴。あの人なら・・トシが幼かったころの記憶・・それなりに知っているかもしれない。それに植え替えられないか?』
『・・・その方にお会いして来いというんですか?』
『そう。今有給使い切って、こっち来れないからさ。』
俺が聞いて伝えてもいいけど・・家族間の思い出だ。
直接聞いてもらった方がいいだろうからな。
『分かりました。では私一人で行きますから。引き続き、カウンセラーとせピーは受けていただきますからね!!』
『俺に言ってどうするよ・・』
『トシはまだ帰ってきてないのであなたに伝えたんです!トシにも伝えてください!!』
『はい。』
と言いつつ自分で後で伝えたらいいじゃんって思った。

俺は俺で、トシの足取りをたどるべく、連絡をし続けているという、メンバー候補に連絡してみることにしようと、まずは光樹に連絡をすることから始めた。

小室さんとのレコーディングは、無事に終わったし、暫くは・・トシが仕事を頑張ってくれている。
借金の返済で、大変だったはずが・・難なくその分を返し終わってこれから貯金をためることになったかと思ったら、何とちゃんと保険を払っているから、それなりに予算が残っていたトシ。
しっかりしているなぁほんと・・。
浪費家とは縁がないというのか・・切実な性格をしているトシ。
ただ・・記憶にまだ問題があるだけで。
性根が明るいんで、深刻さが全くうかがえないトシに、俺の方が戸惑ってたりもするんだけど。

「え・・?どういう事?それ・・」
【何がよ・・今言ったとおりだって。だから。】
俺は、光樹に連絡をとって、これまでに入ってきているという新しいメンバーの連絡先などを教えてもらおうとした・・
けれど・・これって・・
【トシのやつ・・利用できるものはとことん利用しろという兄貴の言葉をちゃんと聞いてた。だから、こういうパイプラインができたんだろうな。あいつの兄貴のやり方に反抗しながら、その中で”次につながる人”を探してたんだ。だからこれだけの連中が集まった。あとは・・兄貴がその中から選べばいいんじゃないの?】

”どこの誰かもわからない人を急に紹介されて、その人のご機嫌を取るだけの仕事って・・それじゃまるでアイドルじゃない!”次につながる”話もろくにしないのに!!”
アイドルという仕事をバカした言い方をしたんじゃない。
あの人たちが持つ技術がどれほど凄いものかを知っているからこそ、それをまねたやり方を付け焼刃でできるとは思えなかったからトシは怒ったんだ。
そう簡単に身に着けられるほどの簡単なものじゃないということを、トシの兄貴もその側近も知らずに、その役割をトシにさせた事、そのものが悔しかった・・。
それでいながら・・その人が誰なのかをしっかりと探り当てて、ちゃんとと繋がりを得ていたわけだ・・”次の仕事”に。
そんなことを考えることもしなかった兄貴の隣で・・トシは俺たちのメンバーになるやつが、その周りにいるのではないかと・・。

後期から聞いた連絡先を頼りに片っ端から連絡をしまくったら、次々と出てくる大手の芸能事務所。
そして・・”TOSHI"というのを伝えると、つなげられたのは、まだ若手のロックミュージシャンの中でも、俺も知ってる奴らだった。
更には・・どうしてここにもつながってんだ?ってところが二件・・
連絡受けてた時はメモを取るので精いっぱいで、ちゃんと見てなかったんだ・・
今見たら、知ってるどころの話じゃない・・この二件。
うちのレーベルじゃん・・
どういう話でそうなったのかを聞くにはちょうどいいかと、連絡を取った。
光樹・・知っていながら、わざと黙ってたな・・。
【はい・・】
「あ・・俺・・ヨシキ・・」
【ヨシキさん!!お・・お久しぶりです・・待ってたんですよ・・連絡・・トシさんが・・】
大慌て・・なんで?落ち着けよ。
怒ってないのに。
「そのトシの事なんだけど、なんて連絡があってそっちに話し行ったの?」
【ええ・・メンバーが全員いなくなりそうだから・・手を貸してほしいと。】
・・・どの段階でそうなると予測できたんだ・・トシは・・。
「・・それで・・手を貸してくれるの?」
【それが・・うちらは・・無理で。でも・・もう一つの方なら大丈夫って思うんです。】
「なんで?」
【うちらは・・俺たちだけでやりたいんです。見習うものならありますけど・・中に入って学ぶものってのはないような気がするんですよね・・あなたたちのことは、外から見てたいんですよ。俺たちは。】
「そうなんだ。で・・もう一つの方は大丈夫ってのは?」
【そいつらは・・たぶん外から見るより中からみたいんじゃないですか?内側をどう動かしているか・・それが知りたいと思うんです。それに・・外からの影響をどれだけ受けても、あの連中は自分たちの色を変えたりしません。つまりあんたの音楽も変えたりしないんですよ。】
「お前らはそうじゃないの?」
【影響されまくりますよね・・結局は自分たちの色を変えられないって・・そう思うんです。それだと・・怒られまくりじゃないですか。厭ですよ!楽しくない音楽なんて。】
・・あはははは・・・トシが選んでくる連中だけあるわ。
「だから気に入られたんだろうな・・お前ら。」
【ええ・・でも・・俺たち全員離れたくないんです。音楽するならこのメンバーがいいです!】
「羨ましいわ・・」
【え?】
「あ・・何でもない。ありがと。あいつらにも連絡してみる。」
【はい、そうしてやってください。喜びますよ!アイツら。】
・・・思わず出てしまた本音。
”音楽するなら”・・あの気持ちが、いつまでも続いている"gray"の連中。
そこに惹かれたのか?トシは。
俺が忘れてたから?
忘れたかったんじゃない。
思い出せなかっただけで。
でも・・安心しなよ。

今度は絶対離れて行かないメンバーを作るから。
そういうやつらを見つけたい。













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