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本の命乞い

24/8/4

部屋を片付けた。

私の部屋は、業者を呼ぶレベルのゴミ部屋では無い代わりに、慢性的に散らかっている。ある程度散らかりがある方が落ち着くので、前世はネズミかもしれない。

普段ならばこれで十分だが、家に人を呼ぶ用事が発生したため、部屋を片付けることとなった。

なぜ1m先のゴミ箱に直で入れれば良いものを、10cm先の床に置いてしまうのか。なぜ1か月前のペットボトルが中身入りで放置してあるのか。

なぜ、なぜ、を繰り返し、作業を進めていく。

基本、私の片付けは、段ボールに不要なものをぶち込む作業がメインとなる。こうすれば、とりあえずなんとかなっている気がする。

私は分別が億劫なのであって、決して片付けができないわけではない。入れたもの全てを粉々に破壊する四次元ポケットがあれば、もっと片付けに積極的になれるはず。ドラえもん、私に利用されてくれ。

東方Projectに綿月豊姫(わたつきのとよひめ)という強いキャラクターが居る。彼女は、森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす扇子を持っているらしい。頼むから、それで私の部屋を綺麗にしてくれないだろうか。

自分でも失念していたが、処遇が微妙な本を、まとめて段ボールに入れ、部屋の隅にずっと放置していた。蓋を開ける。見覚えのある背表紙たち。本の要る/要らないの分別は、わりと楽しい部類に入る。

「これ捨てようとしてたのか?絶対取っておくべきだろ、捨てる理由もないし」

という感じで、絶対残したい本がこの中に多数入っていることに驚愕した。
数か月前の私は、一体何を考えていたのか。

本は、外付けの脳みそだと思う。そして、本棚は、その人の感性だと思う。

書店に毎週足を運ぶのが趣味だ。これを私は、本を浴びる、と称している。書物浴(しょもつよく、今考えた言葉)にはリラクゼーション効果があるから最高だ。

毎回、本のひしめく店内をぐるりと一周することにしている。最近では、興味の薄い分野の書架にも顔を出し、見分を広めるように心がけている。子供向け絵本の棚とか、医療関係の棚とか。

書店の本棚は、その店の感性。

広く深い品揃えの書店。謎に楽譜が充実している書店。小さいながら見事なラインナップの書店。こことは気が合うな、逆にここは微妙だな。そんな、人となりを判断するようなことを、書店にもしている。

で、そりゃあ本を置いてある数量は書店の方が勝るけれども。自分の好きな本を置いてあるという点でいうと、自室の本棚が圧勝だ。

私は絵を描くので、それに関する蔵書が多い。これらを集めるのに一体どのくらいのお金が……と考えると憂鬱になってしまうが、これも立派な財産なのだ、と思うことにした。豊かな心は、豊かな蔵書から。

話がとんでもなく逸れているので、軌道修正。

先述した、要る本/要らない本の段ボールの中には、画集のような大きくてごつい本だけでなく、いつか購入した文庫本も10冊くらい入っていた。

これらを購入したのは、大学生のときくらいだろうか。けっこう古びている。読んだものもあり、読んでないものもある。どうしよう。

相変わらず、現代病により印刷物の文字が読めない状態なので、読んでない本は捨ててしまおうか。積み本しても良いけど、これは一生読まない気がするしな……。と、考えつつ分別する。

その中の1冊。捨てるつもりで、最後にパラパラとページをめくっていたのだが。

刹那、「ポルノグラフィティ」の文字が見えた。

え!?

ポルノグラフィティ!?

そういう本じゃなくない?もっと、こう、死生観を問う感じの本だよね?なぜ……?

そのページを再び見つけることがすぐにはできず、疑問には思ったが、好きなバンド名が本に書いてあるのが気になりすぎて、結局捨てられなかった。

必要な本は本棚に戻す。これからもよろしく。

不要な本は玄関まで運び、紐で結び、捨てる準備をする。さようなら、いくつかの本たち。今まで部屋に居てくれてありがとう。

若干の名残惜しさと共に、部屋に戻る。

そして、やはり「ポルノグラフィティ」が気になりすぎて、先ほどの本を丁寧に捲る。そしたら、わりとすぐ見つかった。小さいチラシ(よく本の中に最初からあるやつ)が挟んであるページだったから、一瞬目に付いたのだ。

「ポルノグラフィー」だった。

おい。

ポルノだけどさ。

というわけで、空目により1冊の本を捨て損ねたのであった。

段ボールから本棚へと戻り、ふふんと笑みを浮かべる本。読めという啓示なのか。はたまた偶然なのか。

これは、死期を悟った本の命乞いだったのかもしれない。

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